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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第2章 俺は魔法について考察する
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第44話 俺は自分の奇行が恥ずかしくなる

 涙が止まってからしばらくすると、何とも言えない恥ずかしさが込み上げてきた。


 泣きながら剣を振るってなんだよもー。

 いやだわー。どういう感情なんだよ。


 誰も部屋に入って来なくてよかった。

 剣を鞘に納め、そっとクローゼットの奥に戻す。またしばらくここで眠っていてくれ。

 今度はいつ出てくるのかな。泣きたくなったら出てくるんじゃないかな。


 ふぅ、泣き疲れたのか眠たくなってきた。

 そういえば徹夜していたんだった。

 もうこのまま寝ちゃおう。眠ってさっさと忘れてしまおう。


 剣は振らない、魔法を使うために握るだけ。剣は振らない。

 そう自分に言い聞かせて、ベットに潜り込んだ。




 昼食が出来たと呼びに来たので渋々起きて部屋を出る。

 あんまりお腹は空いてないんだけど、食べないと言うとみんな心配するからな。


 食卓に付くと、使用人が話しかけてきた。

 昨日冒険者ギルドに行ってもらった人だ。ルトガーさん、男性、年齢不詳、住み込み、使用人じゃなくて執事って言った方がいいのかな。

 母さんの知り合いが多い家中の中で唯一、父さんが子供の頃からの知己だと聞いている。


「旦那様は3日後の夕方に王都へお戻りだそうです」


 俺が寝てる間に返事が来たんだね。早めに連絡が取れて良かった。


「姉さんは帰って来てますか?」


「お嬢様は夕方まで帰宅しないと仰ってました。奥様は仕事へ。マルテは娘を連れて外出。アンナはお嬢様に従っています。もし坊ちゃまがこれから外出を望まれるなら、本日はジークが付き従うことになっています」


 この人は俺の事を坊ちゃまと呼ぶ。

 名前で呼んでほしいと訴えたことがあるが、これは私の夢なので許してくださいと頭を下げられた。

 昔は父さんのことを坊ちゃまと呼んでたそうだ。その坊ちゃまが結婚して息子が出来たら、その息子を坊ちゃまと呼ぶのが夢だったんだって。


 なんだその夢は。


「では昼食後にソゾンさんの所へ出掛けて、父さんの帰宅日を伝えて来ます。姉さんも迷惑をかけていると思うので、何かおやつになる物を用意してくれませんか?」


「承知しました。今朝ヴルツェルから届いた果物で美味しい物を用意します。では、ゆっくり食事をなさって下さい」


 そういってルトガーさんは厨房に向かった。

 大きな食卓に俺1人。

 1人で食べる食事はつまらない。自然と食べる速度が上がってしまう。

 そんなにお腹は空いてなかったはずなのに、もう食べきってしまった。


 仕方ない、食後の紅茶を楽しみながら本でも読んで待ってようか。




 結局昼食後2時間以上待っていたんじゃないか?

 紅茶を飲みすぎてお腹が膨れている気がする。


 水分で重たくなった体を動かす俺の横で、ジークさんがバスケットを片手に歩いている。

 バスケットから漂う匂いが香ばしい。

 長い間待たされただけはあって、美味しい物が入っているんだろうと期待する。

 でも液体で膨れたお腹はもう入らないと言っている。紅茶のおかわりを止めてくれればよかったのに。


 最近2人きりになると必ず剣術の話題を振って来るんだけど、今のジークさんは口を開かず歩いている。

 母さんにどんな怒られ方をしたんだろうか。黙っているジークさんは不気味だ。

 だからと言ってこっちから話を振る気にはならないけどね。


 結局一度も会話が無いまま、ソゾンさんの鍛冶屋に到着した。

 ジークさんの陰な雰囲気を振り払うように、こんにちはっと元気に声を出して扉を開ける。


「ゲオルグ君こんにちは。ジークさんと一緒なんて珍しいね」


 受付に座っていたヤーナさんが笑顔で迎えてくれた。ジークさんもきちんと挨拶している。


「ソゾンさんと姉さんは居ますか?」


「午前中からずっと楽しそうにおしゃべりしているわ。お昼を持って行っても食べながらずーっと。そろそろフリーグさんに、アリーちゃんを養女に下さいって言いに行った方がいいかしら?」


「ははは、それは困りますね。姉さんが居なくなると家が寂しくなってしまいますから。今日はおやつを持ってきたので、養女の件はもう少し我慢してください」


 ジークさんにバスケットを渡すよう促す。

 ヴルツェル産の林檎を使ったアップルパイです、といってヤーナさんに手渡す。

 えええ、バスケットの中を見せてから名前を言った方が良くない?


「ふふふ、ジークさんは真面目ね。こういう時は何が入っているのか当てるのを楽しむものよ」


 ほっ。俺は間違ってなかった。

 すみません、とジークさんが謝っている。でも外を歩いている時よりは顔が柔らかくなった気がする。


「もう今日は旦那も働かないし、美味しそうな物を頂いたから店を閉めましょう。紅茶を入れてくるから工房で待ってて」


 ヤーナさんは受付を抜け出して入口を施錠、バスケットを抱えて奥に行ってしまった。


 いいのかな?いいんだよね?

 いいんじゃないか、と言うジークさんはなんだか楽しそうだった。

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