第12話 俺は肩当てを1つ破壊される
「大丈夫か?立てるか?試合を続行する意思は有るか?」
仰向けになって倒れている俺の顔を覗き込みながら、審判を務める先輩が矢継ぎ早に聞いて来る。
「大丈夫です。立てます」
倒れた時に受け身に失敗して後頭部を軽くぶつけたが問題無い。まだ負けてない。
俺は腹筋に力を入れて上半身を起こす。
顔を上げると、随分と離れた位置からこちらを傍観しているヨルク君と目が合った。
そりゃ嬉しいよな。そんな笑顔になるのも頷ける。
馬鹿正直に提案に応じて、罠にハマった自分が情けない。
「ほら、手」
先輩が差し出して来た左手を握ると、ふっと体が起き上がった。
「左腕に痛みは無いな?」
「大丈夫です」
グルグルと肩を回してもいつも通り動くし、先輩に引っ張って起こしてもらっても違和感は無かった。
左肩の肩当てが無くなっているから、右肩よりも調子が良いくらいだ。
「まだ使うか?」
先輩が木剣を差し出して来る。
「はい、ありがとうございます」
「1分後に再開するからな」
先輩は俺に木剣を手渡した後、ヨルク君の方へ向かって歩き出した。
ヨルク君は木剣を持っていない。木剣は離れた位置に転がっている。もう接近戦はしないという意思の現れだろう。
遠距離魔法で右肩の魔導具を狙って来るのか、このまま逃げて時間切れ待ちか。
圧倒的に不利じゃないか。まったく、困ったもんだ。
先輩がヨルク君と少し話してから数十秒後、
「試合再開!」
先輩の声が会場内に拡散した。
その直後、ヨルク君の周囲の地面が盛り上がる。
なるほど、引き篭もり作戦か。
ヨルク君の全周を完全に覆う土の壁。空気穴か逃げる為か、上辺は塞がっていないようだ。
でもまあ、引き篭もりはそんなに良い作戦じゃないよな。
「飛翔」
俺は腰に巻いているベルト型の魔導具を起動した。風魔法によって上昇気流が発生し、ふわりと体が浮き上がる。浮くと言っても5メートルほど真上に上昇するだけだが、土壁の上辺の穴は十分見える位置だ。
「水弾」
続けて水魔法の魔導具を使い、穴目掛けて水弾を放り込む。
穴の中に水を溜めて、ヨルク君を誘き出す作戦だ。さあ、引き篭もりは止めて、もう1度がっつり戦おうじゃないか。
ドガ!
あれ?
俺が放った水弾は穴に向かって真っ直ぐ飛んで行ったが、勢いが有り過ぎて土壁を破壊し、突き抜けてしまったようだ。
こんなバスケットボールサイズの小さな水球で破壊出来てしまうとは。マリーが作った土壁には弾き返されるんだけどな。これでは水が溜まらないじゃないか。
魔法よりも剣術が得意って言っていたのは、本当だったのかな?
「水弾」「水弾」
俺は追加で2発の水弾を生み出し、今度は土壁の正面に向かって発射した。
音を立てながら土壁を破壊してなお直進する水弾の行方を見守りながら、俺はゆっくりと地面に降りる。
風魔法の効果切れだ。もうちょっと長く持続して欲しいから、要改良だな。いずれは自由に空を飛び回りたい。
3発の水弾が突き抜けた後の土壁は半壊していたが、ヨルク君の姿が見えない。審判も特に止める様子は無い。
おそらく下に向かって穴を掘って隠れているんだろう。俺も良くやる常套手段だ。
しかし、時間切れまで土中に隠れているのはアリなのか?
マリーなら地面を楽々掘り起こして隠れている相手を見つけるんだろうが、あいにくそんな大掛かりな土魔法は用意していない。どうやって捕まえよう。
取り敢えず土壁の内部を確認しようとボロボロでベチャベチャな壁に近づく。
案の定人が通れるほどの穴が中に有り、途中で折れ曲がっているのも確認出来た。
うーん、俺も中に入って追いかける?
いや、相手の提案に乗って魔導具を壊されたばかりだ。相手が作った陣地に乗り込むのは危険。他の方法で炙り出したいが。
やっぱり水攻めかな。
背負っているリュックを下ろして有りっ丈の水魔法の魔導具を取り出そうとした丁度その時、試合場の上空で小さな炸裂音が発生した。
「一旦試合止め!」
その炸裂音を聞いた審判が試合を止める。
なんだなんだ、何が有った?
「選手の1人が試合場の外へ出た時の合図だ。今仲間が連れて来るから、少し待っていてくれ」
審判の発言に遅れて、会場内へのアナウンスも行われた。
どうやら地面を掘り進めるうちに会場の範囲内を抜けてしまったらしい。
なんて間抜けな。
会場から出ると罰則で魔導具を1つ壊されるんだぞ。
まさかこんな感じで同点になるとは思わなかったな。幸運といえば幸運だけど、ちょっと興醒めだわ。
観客席からのブーイングが聞こえて更に萎える。その文句を俺にぶつけられても困るんだが。
俺は使い終わった魔導具をリュックに仕舞いながら、醒めてしまった気持ちをどうやって盛り上げようかと考えていた。




