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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第12章
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第9話 俺は仮設試合場に戻る

「ゲオルグ様、そろそろ戻らないと」


 ベンチに腰掛け、屋台の売行きや馬術競技の試合を傍観していると、クロエさんが教えてくれた。


 もうそんな時間か。ミリー達の試合を観たかったんだけど、時間が合わなかったな。残念。


 俺はベンチから立ち上がり、手に持っていた空のコップを屋台の返却口へ持って行った。




 馬術施設から仮設試合場へ戻った。


 クロエさんの手には中くらいの紙袋がぶら下がっている。屋台を離れる時に姉さんに持たされたその紙袋の中には、熱々の肉まんやおやきが複数入っていて、雑紙によって個別に包まれたそれらから美味しそうな匂いがふんわりと香って来ていた。


 紙袋には丁寧に屋台の場所を記した地図と商品の値段を明記している事から、こっちの観客席で美味しそうに食べて宣伝してくれって事だろう。


 いつのまにこんな紙袋を用意していたのか。大量に買った人には、これに入れて渡しているのかな?


「ゲオルグ様、1つ食べますか?」


 紙袋をじっと見つめていた俺に気付いて、クロエさんが肉まんを取り出そうとする。


 いや、すぐに試合だし、大丈夫です。観客席でゆっくり食べてください。


「ではお言葉に甘えて。これに勝ったら次は訓練場に場所を移して準決勝ですね。頑張ってください」


 クロエさん以外の先輩達からも応援の言葉を頂いて、俺は試合参加者が集まる控室へと向かった。




 あれ?


 控室には椅子が4つ並べられていて、その端の椅子に女の子が座っていた。


 背もたれが無い丸椅子に背筋を伸ばして座り、つまらなそうな表情で、部屋の反対側の壁をぼーっと見つめている女の子。


 あの子は俺が初戦を戦った後にも控室で見たけど、その後馬術競技に参加していたはずだ。


 1人で居る彼女は誰かの応援で此処に居るっていう雰囲気でもないし、もしかしてこっちにも出場しているのかな?


「なにか?」


 俺の視線に気が付いた女の子が、首から上だけをこちらに向けて聞いて来る。


 態度はぶっきらぼうだったが、直視していたのを怒っているようには感じられなかったので、俺は女の子の隣の椅子へと腰掛けた。


「いや、馬術競技でも君を見かけたなと思って」


「ふーん」


 女の子は特に感情を動かす事なく、俺から視線を切って壁の方へ向き直った。


 別にこのまま話を切り上げても良かったんだけど、あまりに素っ気ない態度の彼女が逆に気になって、俺はそのまま話を続ける事を選んでいた。


「よく2人も落馬した状況から勝てたね。乗馬は得意なの?」


「そこそこ」


 無視するかなとも思ったが、彼女は会話を続けてくれた。真っ直ぐ壁の方を向いたままだったが。


「俺は乗馬出来ないから、あの競技に参加している生徒全員を尊敬しているんだ。勝敗を決定付けられるような猛者は特にね」


「ふーん」


 会話が続かない。いや、こちらから質問する形にした方が話しやすかったかな?


「もしかして個人戦にも参加しているのかい?」


「そう」


 ふむ。やはり質問形式なら答えてくれるようだ。なんとなく楽しくなって来たぞ。


「俺は10組のゲオルグ。君の名前を聞いてもいいかな?」


「リンダ」


「うん、リンダさんね、覚えたよ。もし3回戦で戦う事になったら、よろしく」


 握手をしようと思って右手を差し出したが、これには応じてくれなかった。ちょっと調子に乗り過ぎたかもしれない。


 俺は出した右手を仕舞いながら話題を変えた。


「リンダさんは馬術の方で10組とは戦った?勝敗が気になるんだけど、聞いてもいいかな?」


「さあ、知らない」


 初めて2言答えてくれたが、知らないとはどういう意味だろ。どのクラスと戦ったか認識してないって事かな?


「んー、じゃあ」


 もっと深く追求しようとしたところで控室の扉が開き、他の参加者が入って来た。


 その男の子は俺の前を横切る途中で足を止め、こちらをジロリと睨み付ける。


「お前、無能だろ。なんでお前が2回も勝ち上がってんだ?お前に負けた奴らは無能以下の屑だな」


 出会い頭に随分と失礼な奴だな。俺と対戦した2人にも失礼だ。まあ初戦の相手はアレだったけど。


「黙ってないで何とか言えよ無能。それとも怖くて言葉が出ないか?成り上がりの坊っちゃまくん?」


「ねえリンダさん。ブンブン五月蝿い虫が居るみたいなんだけど、どこに居るか分かる?俺には見えないんだけど」


「さあ、知らない」


 リンダさんは首を回して明らかに男の子を凝視しながらそう言った。


「まあ、虫は小さいから見えなくても仕方ないね。ふふっ」


 俺が笑いを漏らしながらリンダさんと会話を続けようとすると、


「テメエら……許さん」


 男の子が顔を赤らめて怒り出した。煽って来る割には煽り耐性の無い奴だ。


 男の子は黙って拳を振り上げようとするが、再び控室の扉が開かれた事でその行為は中断する。


 入室して来たのは男の子1人と試合管理部の先輩だった。


「4人とも揃ってるな。これから3回戦の説明をした後、対戦相手の抽選を行う。全員着席しなさい」


 先輩の話を聞いて、男の子が拳を下ろして渋々離れた席に座る。


 空いている席に最後の男の子が着席して、先輩の説明が始まった。

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