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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第12章
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第7話 俺は馬術施設の歓声を聞く

 個人戦2回戦。


 対戦相手は知らない女の子だった。


 1回戦を勝ち上がって来ている彼女は、初戦に戦った彼のような油断は無かった。


 試合開始の合図と共に後へ下がり、俺と一定の距離を保ちながら魔法を放って来る。


 主な攻撃手段は火魔法。1度に8つの火球を出現させ、それらを巧みに操って俺の死角を狙おうとしていた。


 俺は襲いかかって来る火球を水魔法で迎撃する。水球を発射して撃ち落とし、水盾を生み出して直撃を防ぐ。


 水魔法で火球を消されても、彼女は瞬時に変わりを生み出して常に8個の火球を操作し続けた。


 こちらに反撃する機会を与えずに押し切る、もしくは時間切れでの判定勝ちを狙っているかのように、彼女は休まずに攻撃し続けた。


 しかし、何度か水盾で火球を防いでいるうちに俺は気が付いた。何度も火球が当たっているのに水盾は消耗せず、盾の形を維持し続けている。魔力を8個の火球に分散させている為か、火球1つ1つに威力が足りないんだ。


 それに気付いた俺は無理に攻撃に転じようとせず、防御に徹した。2枚目の盾を展開し、亀のように身を固めた。


 俺の防御を彼女の火球は一向に貫けず、次々と消え、また新しく生まれて来る。


 試合の序盤、火球を操作する彼女の集中力には目を見張るものがあった。俺は彼女の速度について行くのがやっとで、彼女を追い抜く事は出来なかった。


 しかし、焦りか疲労か、時が経つにつれて彼女の操作は精彩を欠いていく。


 戦いの最中、1つ2つと休んで動かなくなる火球が出て来る。それが隙となり、俺は彼女の速度を追い抜いて反撃に転じられた。




 2回戦を勝利で終えた俺は、再びクロエさんが居る観客席にやって来た。


「2回戦突破おめでとうございます。これで3枚目も披露する事が出来ますね」


 笑顔で喜んでいるクロエさんだが、その喜びは俺の勝利にというよりも、作った応援幕が無駄にならなかった事へ喜びに思えた。


 今回の応援幕は白地に赤い縁取り。文字は赤字で『兄様がんばって!』と描かれていて、幕の上部には桜の花びら、下部には楓の赤い葉っぱの模様が散りばめられていた。


「試合制限時間ギリギリの勝利でしたが、カエデ様とサクラ様の応援が有れば、負けるはずはありませんよね」


「ははは、そうですね」


 個人名が描かれていない分、初戦に掲げられた応援幕よりは気にならなかったけど、やっぱり止めて欲しいかな。


「エステルさんが村の方で楓と桜の木を育てていますが、これに描かれたような綺麗な花や葉を付ける日が楽しみですね」


 へー、そうなんだ。じゃあこの構図はエステルさんが考えたのかな。


 この国ではまだ桜や楓を見た事ないけど、エルフの国にはきっと有るんだろう。


「もう1つの応援幕もカッコいいので、期待していてくださいね」


 クロエさん、何でそんなに楽しそうなんだ。


 俺が恥ずかしがっているのを楽しんでるんじゃないよね?




 2回戦の後少し長めの休憩時間が設けられた為、俺はクロエさん達と一緒に馬術施設へ向かった。


 その途中、先輩達にお願いして、使用済みの魔導具へ魔力を込め直して貰った。


 2回戦で火球を迎撃する為に随分と魔導具を使ったから、とても助かった。


 もうすぐ馬術施設が見える位置。そろそろあの独特の臭いが。


 あれ?臭って来ない?


 というよりも、別の香りがする?


 開会式前にここへ来た時は鼻を摘みたくなる程臭って来ていたのに、どちらかというと心地よい香りがする。


「まだ馬術施設が見えていないのに歓声がここまで聞こえて来ます。結構盛り上がっていますね」


 クロエさんに言われて気付いたが、微かに歓声が聞こえる。獣人族のクロエさんは人族より感覚が鋭い分、俺より先に気が付いたんだろう。


「ところでクロエさん。なんか、いい匂いしません?」


 感覚が鋭い分、俺よりも臭いには敏感なはず。この香りは何だろう?


「ああ、エステルさんが用意した芳香剤ですね。私は昔から牛や馬の世話をしていたので動物の匂いに慣れていますが、そうでない人にはキツイみたいで、それを消す為にエステルさんが用意したんですよ」


「ああ、そうなんですか。そういう便利な物が有るなら、開会式前から使っておいても良かったのに」


「私達には良い匂いでも馬にとってはそうでない場合もあります。なので、使用は人が集まった時だけに限定しているようですよ。それと、アリー様作の風の魔導具を使って観客の方にだけ香りが届くように調節しているはずです。それがこっちまで届いているんですね」


 なるほど。これがあるから姉さんはあの立地でも自信満々だったのか。教えてくれても良かったのに、相変わらず秘密主義なんだから。


「あっ、見えて来ましたよ。仮設試合場と比べて随分人が集まってますね。この分だと、屋台も忙しそうです」


 クロエさんの弾んだ声に重なるように、大きな歓声が耳に届いた。

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