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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第12章
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第5話 俺は個人戦の初戦に挑む

 訓練場の観客席に座っている2年生から5年生の生徒が、訓練場内に整列している俺達1年生を見下ろし、開会式の始まりを待っている。


 上級生達の中には、食品管理部が売り出した団扇やタオル等のグッズを手に持つ人をちらほらと見かける事が出来た。売り上げ好調とは言えないかもしれないが、少しでもグッズが売れているようで何より。これから徐々に販売数が伸びるといいな。


 キョロキョロと周囲を見回していると、1年生達の眼前に有る簡易な指揮台の上に1人の男子生徒が登り、風魔法を使用して声を拡散させた。大会組織委員の5年生だ。


「みなさん!お待たせ致しました!これより学内武闘大会の開催を宣言致します!」


「「「おーー!!」」」


 先輩の宣言を受けて、観客席の上級生達が一斉に声を上げる。


 声だけでなく、上空に向かって火魔法を放ち、盛大な爆発音を奏で出す。


 花火というよりも爆竹に近いような音の連打が上空から降り注ぎ、鼓膜を揺るがせ、腹に響き渡る。


 周囲の観客席と上空から襲いかかって来る音の洪水。それから身を守る為に、1年生達は皆一様に両手で耳を塞いで縮こまっていた。


 今後上級生とも対戦するであろう1年生への洗礼か、はたまた入学して3ヶ月目を過ぎようとしている我々への遅い歓迎の印か。


 耳を塞いで爆音に耐えていると、徐々に音が小さくなっていく。それと同時に観客席から湧き上がってくる拍手の渦。爆音が完全に消え、拍手の心地よいリズムが訓練場内を埋め尽くす。


 1年生は困惑しながらも、徐々に両手を耳から下ろしていく。それを見ていた指揮台上の先輩が再び風魔法を使用する。


「1年生の諸君、今日1日は君達が主役だ!上級生をあっと驚かせるような、素晴らしい試合を見せてくれ!」


 先輩の言葉を受けて、更に力強く高らかに、拍手が鳴り響く。


 どうやらこの一連の流れは、上級生による手荒い歓迎だったらしい。


 鳴り止まない拍手の音に盛り立てられるように、自分の気持ちも高揚していくように感じる。


 これまで食品管理部の準備や魔導具の用意に追われていて試合について深く向き合っていなかったが、改めて試合に向かう心構えが出来たような気さえしている。


 指揮台上の先輩が合図をして止めさせるまで、俺は心地よい拍手のリズムにどっぷりと身を委ねていた。




 注意事項の説明や学校長からの有難いお言葉を聞いて開会式が終わると、俺達1年生の試合が始まる。


 1組対11組の『魔導合戦』が訓練場での開幕試合だ。


 訓練場ではクラス対抗戦の『魔導合戦』の全試合と、個人戦の『王座決定戦』の準決勝以降が行われる。個人戦の予選は仮設試合場、騎馬戦の『人馬一体』の全試合は馬術施設が会場だ。


 因みに個人戦のみ全てトーナメント戦。他の2つは奇数クラスと偶数クラスの2グループに分かれたリーグ戦で、上位2クラスが決勝トーナメントに進み、対戦する。


 訓練場ではまず奇数クラスのリーグ戦が行われるから、俺達10組の試合は当分無い。訓練場では試合が無いが、別会場で個人戦の予選と騎馬戦のリーグ戦が進められる。だから俺は開会式が終わると仮設試合場の方へ移動しなければならない。


 多分クラスメイトは誰も応援に来ないだろう。


 馬術教師のカチヤ先生が担任である我が10組は、騎馬戦への期待値が高い。クラスの他のみんなは俺の応援より、騎馬戦メンバー8人の応援に行くはずだ。10組で個人戦に参加するのが俺だけなのも不利に働いてる。


 まあ、1人の方が気楽でいいよ。見られてる方が上がっちゃうし。


「じゃあゲオルグ、また訓練場で。お互い頑張ろうね」


 騎馬戦に参加するミリー達と訓練場を出たところで分かれた俺は、案の定1人で、仮設試合場へと移動した。




 仮設試合場には思ったよりも人が居た。試合に参加する1年生だけではなく、上級生達も見物に来ているようだ。


 俺の知り合いの姿も確認出来た。村から通学している先輩達だ。その中にはクロエさんも居た。


 参加者の試合開始時間は事前に告知されている。試合には制限時間が設けられていて延長戦は無いから、告知の時間通りに試合は進む予定だ。食品管理部の仕事の合間を縫って見に来てくれたんだろう。


 でもクロエさんに見られていると思うと、同級生の応援よりも緊張しちゃうな。


 なるべく試合中は気にしないようにしないと。


 仮設試合場に着いてまもなく、予選第1試合が始まった。俺は予選第3試合。


 さあ、魔導具の最終確認をしよう。


 俺は体の各所に装備した魔導具の具合を確かめながら、試合開始の合図を待った。




「10組代表ゲオルグ、入場!」


 アナウンスに従って、試合会場に入る。


 対戦相手は既に入場済み。目が合うとこちらを睨み付けて来た。


 審判の合図を待たずに今にも飛びかかって来そうな程興奮している彼よりも、俺の注意は彼の後方へ吸い寄せられた。


 彼の後方に有る観客席には、クロエさんの姿があった。


 クロエさんは少し恥ずかしそうな顔で、隣にいる先輩と一緒に、タオルよりも大きな1枚の布を広げて俺の方へ向けている。


『風魔導師ゲオルグ 常勝不敗』


 げっ!?


 自分の名前が入った応援幕が作られているなんて思いもしなかった俺は、反射的に声を漏らしてしまった。


「なにが、げっ、っだ!」


 俺の言葉に、対戦相手が肩を怒らせて反応する。


「対戦相手がお前だと知った日から、合法的にぶん殴れるこの日を、俺は待ち望んでいた。お前だけは絶対に許さん!フランツ兄貴の痛みを知れ!」


 独り興奮して叫んだ彼は、審判の試合開始合図と同時に突っ込んで来た。


 宣言通り、俺を殴りたいらしい。


 理由はよくわからないが、そんな接近戦を受けて立つ義理は無い。


「突風」


 俺は左腕に装着していた魔導具を起動して、彼を迎え撃った。

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