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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第12章
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第4話 俺は大会初日を迎える

 武闘大会初日。俺は大会の開会式が始まるよりもずっと早く学校に到着した。


 大会組織委員は朝から仕事が沢山ある。


 俺が所属する食品管理部の朝の仕事は、各商会から運ばれて来る食品を受け取り、それらを使用する屋台出店者達に分配する事だ。


 食品管理部のみんなで食材毎に担当を分かれて管理する事になっていて、俺は3年生のカトリンさんと一緒に小麦粉を担当する。


 出店者達に食材を渡した後、食品管理部の主な仕事は屋台の見回りへと変わる。衛生管理は食品管理部にとって一番重要な仕事だ。後は足りなくなった食材を追加発注したり、グッズ販売店を切り盛りしたり。


 しかし大会初日に試合に参加する俺達1年生は、その仕事を免除されている。なので、1年生は試合開始まで自由時間だ。


 自由時間なんだけど、俺には自分の屋台も有る。今日1日は別の人に管理を頼んでいるけど。


 みんな、ちゃんとやってくれてるかな?


 食材を取りに来た時の様子は和気藹々として楽しそうにしていたが、やはり心配だから様子を見に行こう。


 自由時間なのになんとなく屋台の見回りをする気分になりながら、俺は屋台が集まっている訓練場周辺に足を向けた。




 武闘大会の主会場は冒険者ギルドの競技場を真似て作られた訓練場だ。


 予選の一部は少し離れたところに用意された仮設試合場で行われ、今年初めて行われる馬術競技は更に離れたところにある馬術施設で行われる。


 いくつか試合会場が有るにも関わらず、屋台の多くは訓練場に隣接する広場に集まっている。訓練場は1番試合数が多いし、この広場を通れば全ての会場に最短距離で行けるからだ。


 しかし、申請が遅れに遅れた俺の屋台は此処には無い。既に調理を始めている他の屋台の様子を観察しつつ、その屋台の立地条件を羨ましく思いながら広場を通り過ぎ、そのまま真っ直ぐに馬術施設の方へ向かう。


 馬術施設は砂が敷き詰められた地面を強固な柵で囲われているだけで、訓練場のような観客席は用意されていない。競技が行われる事になって仮設ベンチが設置された程度だ。


 俺の屋台はその仮設ベンチに併設する形で建てられている。ここに屋台を建てたのは、俺の他にもう1件だけ。


 馬術競技を観戦するには悪くない立地だ。訓練場は階段状の観客席で周りを囲った為に高い壁で覆われていて、併設されている広場からは中の様子が分からない。屋台で商品を買っている間も、競技の様子を見る事が出来るのは悪くない。


 競合相手が少なくて、土地を広く利用出来るのも利点だ。広い調理場を確保出来たおかげでごちゃごちゃしていない。広場で見た屋台達の調理場は狭くて、火元の安全性が少し心配だった。


 だが、とても大きな問題が1つある。


 馬の、動物特有の独特な臭いだ。


 馬の体臭か、飼料の臭いか、馬糞の臭いか。兎に角、独特な臭いがするのだ。


 これを嗅ぎ慣れていない人は、この臭い中で何かを口にする気にはなれないんじゃないか。俺はそう思うのだ。


 本当は此処じゃなくて仮設試合場の方へ行こうかと考えていたんだが、本日俺の代わりを頼んだ人物の強引な力によって、ここになってしまった。頼むんじゃなかったと、割と後悔している。


「やあゲオルグ。こっちは順調だよ!」


 屋台に近付くと、調理の手を止めた姉さんが笑顔を向けて来た。


 そう、今日俺の代わりをするのは姉さんだ。マリーも試合だし、クロエさんは食品管理部の仕事が有るからダメで、消去法により姉さんになってしまった。姉さんだけじゃなく、男爵領の村から通っている生徒達も数名参加してくれているが、不安だ。


「姉さん、本当に大丈夫なの?」


「大丈夫大丈夫。私が居なくても大会の方は上手く回るから」


「そっちじゃなくて、調理の腕の方を心配してるんだけど」


 なにせ肉まんも餃子もおやきも、結局どれを選ぶか決めきれずに全部売り出す事にしたんだ。料理姿をあまり見た事が無い姉さんに任せて大丈夫なのかと心配にもなるさ。


「ふっふっふ。アンナと連日特訓した私に死角は無いよ!アメリア達も調理法を覚えて手助けしてくれてるしね」


「はい!ゲオルグ様、任せてください!こんなに美味しい料理が売れないわけないです!」


 アメリアと呼ばれた女生徒が元気よく答える。


 アメリアさんはクロエさんと同じ4年生で、クリストフさんが村に連れて来た孤児院出身者の1人だ。料理が好きらしく、将来は自分の店を持ちたいと考えていて、暇があれば村の宿屋で働いているエマさんのお父さんの手伝いをしているとか。この人の腕は信頼していいだろう。


 しかし問題はこの立地の臭いだ。本当に大丈夫かな?


「大丈夫大丈夫。臭いは慣れるけど空腹には耐えられない。バッチリ売ってあげるから、ゲオルグは自分の試合に集中しな!」


 うーん。自信満々な姉さんが不安だ。何か強引な手段で無理矢理売り付けたりとかしなきゃいいけど。


 しかしもう決まった事は変えられない。今更姉さんを説得して屋台を別の場所に移す事は出来ないし、少しでも小麦粉を減らしたいから販売を止めるなんてもってのほかだ。姉さんを、いや、アメリアさんを信頼するしかないな。


 俺はアメリアさんに向かってよろしくお願いしますと声をかけ、隣の屋台へと向かった。


「ゲオルグ君、試合は見に行けないけど、頑張ってね」


 隣の屋台を切り盛りするエマさんの応援の言葉を胸に仕舞い、俺は近くのベンチに腰掛けて背負っていたリュックから魔導具を取り出し、開会式後すぐに始まる予選の準備を開始した。

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