第3話 俺は大会前日に悩みを膨らます
学内武闘大会前日の夕方、食品管理部の仕事を終え、迎えに来たルトガーさんと学校から帰ってきた俺は、父さんに呼び出された。
明日の大会初日は1年生の試合の日だから、魔導具の最終点検をして明日に備えるつもりだったのに。
メイドさんの誘導に渋々従って応接室に入ると、父さんとダミアンさんがお互いに笑い合って雑談していた。
「おう、おかえり。マリーは一緒じゃないのか?」
俺の周囲をキョロキョロと見回して、父さんが聞いて来る。
「帰宅途中でジークさんに捕まって、マリーは連れて行かれたよ。最後の特訓をするとかなんとかで」
「あーー、それは災難だったな」
俺の返答を聞いた父さんが苦笑する。
「特訓で災難といえば、私達警備隊の方が大変ですよ。東方伯による特訓でみんなヘトヘトです」
特訓の辛さを思い出したのか、ダミアンさんも苦い顔をしていた。
ダミアンさんは少し痩せたような気がする。東方伯は余程過酷な特訓を課したんだろうか。警備隊を辞める人が出てないといいけど。
紅茶でよろしいでしょうか?と聞いてくれたメイドさんにお願いしますと返して、俺は父さんが座るソファーに並んで腰掛けた。
「明日の武闘大会前に呼び出して悪いが、ゲオルグにも話しておいた方が良いだろうと思ってな。ちょっとだけ時間をくれよ」
さっきまで笑っていた父さんが態度を神妙なものに変える。いったいなんの話だろうか。
「新しき西風に捕らえられていたエルフの女性の件だが、我が領内で預かる事になった」
「なんだ、そんな話か」
父さんが真面目な顔付きで切り出したけど、俺はその話を特別重要だとは感じなかった。
「え!?驚かない?」
父さんは俺の反応が予想外だったらしい。
別に、今更エルフ族が1人増えたからって驚く事じゃないよね。驚く理由ってなんだろ?
「あーー、そういう事か。分かった。母さんには内緒にしておくから、バレないようにね」
父さんの真意を察した俺は、黙って見過ごす事にした。わざわざ母さんに報告して家庭内不破を巻き起こす必要無いもんね。
「おい、ゲオルグ。何か勘違いしてるだろ。そのエルフ族を愛人にするとかそういう話じゃないぞ。リリーにもちゃんと話してあるんだからな」
「あっ、違うんだ」
父さんに胡乱な目を向けられるが、紛らわしい言い方をした父さんが悪い。
「助けたエルフは国へ帰す、もしくは王家が囲い込むと皆が思っていたのに、うちで引き取る事になったんだ。驚くところだろ?」
驚くところだろって言われても、俺はそんな予想してなかったし。今までそのエルフの存在すら忘れていたし。
「ゲオルグ君はこっちの方が驚くでしょう。イヴァンが警備隊をクビになりました」
「あーー、やっぱり」
「あれ、驚きませんか。私は驚きましたが」
ダミアンさんが悲痛な表情を見せる。
エルフの件とは違って、こっちはなんとなく予想していた。無実であろうとなかろうと、部下の責任は取らされるんだろうなって。
「退職までは無いと思っていたんですがね。今回の事件関係者にはなかなか厳しい処置が下されています。例の宿屋は1年間の営業停止ですよ。誕生祭や新年祭、来年の武闘大会での営業利益が見込めないとなると、潰れるかもしれませんね」
ああ、新しき西風が王都内で拠点にしていた宿屋か。息子が勝手にやった事だとはいえ、その罰は仕方ないと思う。そこを拠点にしてバルバラさんやマリーを襲ったんだから。
営業資格剥奪じゃなくて良かったじゃないか。来年以降頑張ればまだ立て直せる。
「話がそれだけなら、俺はもう出て行くけど」
俺は早く魔導具の点検をしたい。
「そうだな。他に話す事というと、アスト商会も営業停止処分、フランツの父親が退院、新しき西風とは別の奨学金詐欺集団の摘発くらいかな。興味あるか?」
「んーー。犯人達はマリーを襲った理由を話した?」
「いや、それはまだだな」
「それ以外は、特に興味無いかな」
「そっか。まあ今後、村でエルフの女性と会うと思うが、仲良くしてやってくれ。名前はイレーヌ。深い緑色の髪が特徴的な女性だ」
「はい、イレーヌさんね。ではダミアンさん、失礼します」
俺はダミアンさんに向かって一礼して応接室を出た。
マリーや俺が襲われた一連の事件は結局西方伯の関与を立証出来ず、新しき西風の主要人部の逮捕で幕を閉じた。事件関係者の処遇も次々に決められているようだが、黙秘のまま処罰されている人々も居るようだ。
マリーが襲われた理由。マリーの記憶は戻らないし、目撃者の話でも判然としない。犯人が喋らない限りその理由は分からないのに、犯人は何をされても黙秘を続けている。理由が分からないと、また襲われる可能性が有るかもしれないのに。
まったく、何が有ったんだよ。
誰も答えを教えてくれない。
もしかしたら、マギー様とか見てたりする?
勿論、神様も応えてくれない。




