第2話 俺は武闘大会の準備に悩む
学内武闘大会の開催日が、間近に迫っている。
俺が所属している運営委員会の食品管理部は、他の部に比べて今のところ落ち着いている。
既に今年の出店届出期間を過ぎ、出店責任者との面接も全て終わり、各商会との交渉も済んでいて後は開催日を待つばかり。
食糧品等は開催日前日か当日に運び込んでもらう手筈で今は管理する必要も無いし、やる事といえば、食品管理部として出店するグッズ販売店の準備くらいだ。
その店で販売するグッズだが、結局ゲラルトさんは両親を説得しきれず、レッフェル商会に商品を卸してもらう事は叶わなかった。
そこで食品管理部は、レッフェル商会に代わる仕入先を2つ用意した。
1つは昔から知ってるハンデル商会。武闘大会出場者の名前を入れ込んだタオルや帽子、衣類を作ってもらった。流石に全出場者は無理だから、去年の優勝者や各学年の注目選手に絞ったけど。
もう1つは、我がフリーグ商会だ。
「レッフェル商会が売ってくれないなら、自分達で作れば良いじゃん」
そう考えた姉さんは村のみんなに声をかけた。勿論父さんにも話は通した。
村に住む元フリーエン傭兵団の奥様方はとても器用で、レッフェル商会が販売している団扇や扇子を分解して構造を把握し、瞬く間に売れる商品を作り上げた。
村の近くに大きな工場を建設した姉さんは、男爵領内の他の村からも人手を募集して大量生産を開始した。『高賃金、送迎用の馬車有り、昼食付き』の高待遇に、子育てを終えた奥様方が多数集まっているようだ。
村には団扇等の骨組みに使いやすい竹が多く自生している事もあって、製造費は安く抑えられている。外から買うのは骨組みに貼り付ける紙くらいだ。その結果、人件費を高く設定してもレッフェル商会の商品より安く作れている。
紙には『がんばれ』とか『一戦必勝』とかの無難な応援用語や、武闘大会とは全く関係無い季節の風景や花柄が描かれている。一般的な絵柄は父さんの提案で、武闘大会以降もどこかで販売するつもりらしい。
他にも竹で作ったメガホンっぽい鳴り物や水筒なんかも作って販売する予定だ。
俺が道具管理部の魔導具を点検したり、自分の魔導具を作ったり、マリーが停学を喰らったりしている間に、姉さんはこれをやっていたらしい。
相変わらず姉さんの行動力には舌を巻く。俺ではここまで出来ない。他の誰もがやろうとは思わないだろう。
ゲラルトさんから話を聞いたレッフェル商会の商会長も、まさか商品を自作するなんてと、きっと悔しがっているんじゃないかな。
そんな感じで、食品管理部としての仕事は少ない俺だが、俺にはやらなければならない事が沢山ある。
まずは武闘大会に向けての魔導具作り。まだまだ数が足りない。拒否権無く大会に出場する事になってしまったが、出るなら勝ちたい。対戦相手の目を慣れさせない為に、多くの種類を作らなくては。
因みに道具管理部の方の仕事はもう終わっている。
それから母さんから出された課題への対処。倉庫いっぱいの小麦の件だ。
武闘大会に出店する複数の出店者がその小麦粉を使ってくれる話にはなっているが、大会全日程を通しても10分の1か2程度を消費する計算にしかならなかった。
やはり俺も出店して消費量を増やさないとダメか。そう判断した俺は、事件の後から小麦粉を使った料理を模索した。
元日本人として、屋台で売る小麦粉料理といえばたこ焼きやお好み焼きが定番だが、肝心のソースが無い。ケチャップの時のようにニコルさんに作ってもらおうとお願いしたが、時間が無いからいつになるか分からないと半分断られてしまった。
ソース系が無理となると、肉まんとか、餃子とか、おやきとか?
食品管理部に在籍している利点として、他の出店者がどんな料理を出すか事前に知る事が出来る。小麦粉を使った料理は、焼き立てのパン、サンドイッチ、ドーナツ、パンケーキ等があり、出品者同士で被っている料理も有る。
俺は醤油や味噌を使ってそれらとの差別化を図りたいと思っているが、何を出そうかとまだ悩んでいる。
食品管理部の権限をフル活用して、出店届を無理矢理待ってもらっているのは内緒だ。
先日、料理長と協力して3種類とも作ってみたが、どれも家族に好評だった。だから余計に迷っている。
「早く決めてください。ゲオルグ様が店番出来ない間は私達がするんですよ。早く決めてもらわないと、調理の練習が出来ないんですから」
大会当日、俺は試合に参加したり食品管理部の仕事だったりで忙しく、ずっと自分の屋台に張り付いてはいられない。その代わりを姉さんやクロエさん、マリーにお願いしている。
「私は肉まんが好きー。餡子が入ったあんまんも好きー」
「私は香ばしく焼けた餃子がいいです」
「肉味噌を入れたおやきが1番だと思います」
三者三様の意見が更に俺を惑わせる。
「もういっそ、全部やっちゃえば良いと思うよ。私はね」
行動力と決断力が有る姉さんはそんな事を言って、更に俺を悩ませてくる。
因みに、この3種を作って試食してもらったのはマリーが再試験を受ける前だったから、祝賀会の時の罰はまだ終わっていない。




