第42話 俺は模擬戦で魔導具を試す
ジークさんに近づいて剣を振る。
縦に振る、横に振る。しかしジークさんは難なく躱す。
まあ兵士の訓練もやってるくらいだから、子供の剣に当るはずもない。
剣が当たるか当らないかといったギリギリの距離を保っている。
俺の剣筋を見極めようとしてるんだろうが、距離を取らなかったことを後悔させてやるぞ。
なんてかっこつけてみたけど、頼りは姉さんが込めた魔法。
俺が思った通りの魔法になっているか不安だ。頼むよ姉さん。
それじゃあ一発目いってみようか。
気合を込めて剣を振り下ろす。ジークさんは一歩下がって軽々避ける。
一歩大きく踏み込んで下から斬り上げて追撃。ジークさんはそのまま後ろに後退する。
ここだ。斬り上げる軌道の途中で柄頭に左手でトンっと触る。
「くらえ」
剣先から火球が膨れ上がる。
おい。さっきの火球より規模がデカいぞ。その分発射スピードが遅れてる。
そして何よりあっつい。剣を持つ手だけじゃなく、全身で熱波を感じる。
どんっという衝撃と共に火球は発射されたが、溜めの時間が長かった分ジークさんは余裕をもって避けていた。
俺が想定していた魔法じゃない。姉さんのサービス精神が一番の敵だな。
「魔法までの流れは良かったな。危なく火傷をするところだった」
「こっちは少し火傷しましたけど、ね」
大きく右に避けていたジークさんに向き直る。
右の掌がジンジンする。多分火傷だ、さっさと治ってくれ。
大きく動いたおかげでジークさんの背後は土壁だ。
ここでもう一発行くぞ。
左手で剣の鍔を触る。あえてジークさんにも見えるように剣を掲げる。
左手を離すと魔法のチャージが始まる。思った通りこっちも時間がかかるようだ。
ジークさんに向けて剣を突出し、駆ける。
遠くからじゃあ避けられる。発射までに出来るだけ近づいておきたい。
ジークさんは動かない。また見極めようとしているんだな、大人の余裕だ。
そろそろか。剣先の火球が先程と同じ大きさに成長したところで、剣先を少し下に傾ける。
衝撃を右手に伝え、火球が発射する。俺も速度を落とさず火球について行く。
火球はジークさんに届かず、目前の地面に着弾。よし、狙った場所に行った。
着弾した火球は大きな火柱を上げて燃え盛る。火柱は地面を左右に広がり、大きな炎の壁となる。
炎の先にジークさんの姿が見える。俺は剣を下げ、身を屈めてその炎に飛び込む。熱くない熱くない。剣を持つ右手の方がどれだけ熱いか。
炎を走り抜けた速度を殺さず、剣を下から斬り上げる。これでどう、だ。
「おい、上を見ろ」
剣を振り抜く途中で、ジークさんの忠告が聞こえた。
ぱっと頭上に目線を送ると、上空から大きな水球が落ちてくるところだった。
「ちょっと姉さん。この時期に水浴びはきついよ」
俺は風呂から上がり、姉さんに文句をいった。用意された朝食のスープが更に身体を温めてくれる。
「ゲオルグが炎に飛び込むから悪いんだよ。びっくりしたんだから」
パンを頬張りながら俺に反論する姉さん。自分は間違ってないと確信しているようだ。
食堂の隅ではジークさんが項垂れている。俺が風呂に入る前に母さんから説教されていたから、それのせいだろうね。
その母さんは何食わぬ顔で俺の横に座り、朝食を食べている。
「まだやりあってる途中なのに、魔法で介入しちゃダメでしょ」
「私が介入しないってルールは作っていません」
なんだその言い訳は。姉さんらしいっちゃらしいけど。
「介入よりも文句を言いたいことがあるんだけど。お願いした以上の魔法が込められていた件について」
「強い魔法の方がいいでしょ?」
「魔法の威力や発動速度を考えて動いてたのに、それ以上の物が出て来ると計算が狂うでしょ」
「最初の魔法じゃジークは倒せないって」
「いや、倒す必要無いでしょ。お願いした魔法と同じ発動速度だったら、1発目の火球がジークさんに当ってたよ。ね、ジークさん」
ジークさんは答えてくれない。横で母さんがジークさんを睨みつけている。
喋ってくれないなら違う方法で攻めるしかない。
「目くらまし程度の火柱をお願いしてたのに、炎が壁の様になったのは想定外だった。走ってて止まれなかったから仕方なく炎の壁に飛び込んだ。姉さんが強力な魔法を込めたせいだよ」
「いや、あのゲオルグの目は最初から飛び込むつもりの目だった。ね、ジーク」
「そ、そうだな」
「あ、ずるい。なんで姉さんの方には答えるんだよ」
「ふふふ、ジークは私の味方なのだ」
パンッ。
俺と姉さんが言い合っていると、母さんが手を叩いて黙るように合図をした。
「2人とも喧嘩をするなら魔導具を取り上げるわよ」
「ごめんなさい」「ごめんなさい」
俺達はすぐさま母さんに謝る。母さんを怒らせてはいけない。
「アリー、依頼者の要望通り作れないなら魔導具職人失格よ。ゲオルグ、自分の身を顧みない戦い方をするなら成人してからにしなさい」
はい、と2人で揃って返事をする。
姉さんにもごめんなさいと謝る。ジークさんもごめんなさい。
治癒魔法のおかげで火傷は治った。右手の痛みも直ぐに消えた。
俺としては計画通りだけど、知らない人には無謀に見えたか。そこは気を付けないとな。




