第119話 俺は魔石の情報を聞く
国王からの指示で、近衛は事件の捜査を取り止めた。
西方伯領から少し離れたところに領地を持ち、新しき西風の責任者でもあるフェルゼン伯爵が、新しき西風が行った全ての罪を自分が指示したと自白したからだ。
既に捕まえてある新しき西風の構成員の中に伯爵の息子も居た事から、この自白の信憑性はより増した。
その結果、この伯爵と新しき西風の構成員達を罰する事で、これ以上事件を捜査しないという話になったようだ。
国王としては、苦労せずに西方伯へ味方する伯爵の領地を召し上げられて満足しているのだろう。西方伯派閥の影響力もこれで減少するかもしれない。
しかし旦那様はまだ納得しておらず、何か手は無いかと難しい顔をして考え込んでいる。
「そういえば、フランツの家族は見つかったのかな?」
女性の左足に装着された闇魔法の魔導具を外すソゾンの作業を傍観しながら、ふと思い出したように旦那様が聞いて来た。
「旦那様と行動を共にしている私は、旦那様と同等の情報しか持っていませんよ」
「まあ、そうか」
少し黙って時間を取った旦那様は、ところでさあ、と話を再開した。
「まず、ルトガーとジークが、ギードとその甥のフランツを捕まえて、ギードから奨学金詐欺集団の話と、そいつらが塒にしている宿屋の話を聞いたよな」
ひとつひとつ確認するように、旦那様はゆっくりと考えを吐き出している。
「そうですね。フランツ君の家族はその詐欺集団に捕まっている可能性が高いでしょう」
「んで、宿屋で俺達が宿屋の息子のアルバンを捕まえて、ジークが不審な行動をとっていた警備隊の連中を捕まえた。捕らえた警備隊の中にはギードが言っていた赤い靴の男がいて、そいつはマリーを襲った犯人の1人でもある」
隣で話を聞いているジークが、うんうんと頷いている。
「アルバンの話によれば、アルバンはジークが捕まえた警備隊の中の4名と、新しき西風の会合で会っているとか。その4名以外にも派閥に属している者が居るかもしれませんが」
「つまり、奨学金詐欺集団は、警備隊員であり、新しき西風の一員でもある訳だ。という事は、フェルゼン伯爵が、奨学金詐欺も、フランツ家族誘拐も、マリー襲撃も指示した事になるよな?」
「『全て』と言うからには、その指摘も甘んじて受け入れるんじゃないですかね」
例えそうじゃなかったとしても、全ての罪を被るのがあの伯爵の使命のはず。違う、とは口が裂けても言わないだろう。
「しかし、フランツの実家は西方伯領都の隣町だったはずだ。その町は西方伯領内。どうして西方伯領内で悪事を働く?俺が西方伯の部下なら、他派閥の領内で詐欺を働くぞ」
「西方伯が容認していたから、それが出来たのでは?」
「それだ!その線で再調査を!」
「しかし、伯爵が領内を荒らしていたから捕らえて突き出したのだと西方伯に言われた場合、どうなさいます?」
「ん?んーーーー。うん……」
旦那様はそれっきり黙り込み、ソゾンの作業が終わるまで口を開く事は無かった。
「面白い魔導具が手に入って儂は満足じゃ。今晩ゆっくりと弄ってみる事にするわい」
4名の女性から闇魔法の魔導具を外し終え、その報酬として魔導具を1つ手に入れたソゾンは、満足そうに笑顔を作っている。
「どこで作られたとかは、やっぱり分からないよな?」
漸く口を開いた旦那様が、一筋の望みを求めて質問する。
「そうじゃな。全く分からん」
ソゾンの返答に、旦那様は俯いてガックリと肩を落とす。
「しかし、この魔導具に使われている魔石の出所を探るのは面白いかもしれんぞ」
「なんだって?」
顔を上げた旦那様の表情には少し正気が戻っていた。
「この魔導具に使われている魔石は2種類有って、1つは爆破用の火属性の魔石。もう1つは魔法妨害用の魔石じゃ」
魔導具の内部を旦那様に見せながら、ソゾンが話す。私も赤い魔石と黒い魔石を目視出来た。
「問題はこの黒い魔石の方で、こいつは猛毒の神経毒を持つ毒矢蛙の魔石じゃ。元々は水属性の魔石じゃが、10年以上生きて毒を蓄積した毒矢蛙の魔石は、闇魔法のドワーフ言語を刻むのに丁度良いんじゃ。そしてこいつは、国内では王国の南東部にある湿地帯にしか生息していない」
「つまり、国内で魔石を集めていたらその痕跡が残ると」
「10年以上生きた毒矢蛙は巨大化して力も強くなる。討伐するにはかなり大きな戦闘になる。あの辺に住む民に聞けば、いつ頃戦闘が有ったか分かるかもしれん」
「なるほどなるほど」
「ま、国内で魔石を仕入れていれば、じゃがな。南方の国に行けば、毒矢蛙の生息地はもっと沢山有る訳じゃし」
「助言ありがとうございます。少し調べてみます」
「うむ。じゃあ儂は帰る。送りは要らんぞ。ぶらぶらと歩いて帰るからの」
王城を出て行くソゾンを見送った後、旦那様は早速冒険者ギルドへと向かい、毒矢蛙の討伐依頼歴が無いかギルド職員に調べてもらった。




