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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第11章
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第116話 俺は北の村での話を聞く

 早朝、王都の北門に軽武装した近衛兵がずらりと並んでいる。


 指揮を取る上官とその副官1人を合わせて総勢32名。


 整然と並んで指示を待つ近衛兵の様子を見て、早朝の北門を往来する市民が足を止めて見物していた。


「やあやあ、皆さんお待たせしました。申し訳ない申し訳ない」


 そんな近衛の集団に向かって走り寄りながら、旦那様はペコペコと頭を下げている。


 警備隊詰所で熟睡していた旦那様を起こすのに手間取っていたら近衛の出発時間に遅れそうになったのだから、謝るのは仕方ない。


「男爵を待っていたわけではありませんので、お気になさらず」


 しかし近衛の上官は旦那様の謝罪を一蹴した。


「我々が待っていた人は、男爵の後ろに」


 上官にそう言われた旦那様が振り返り、私の目をじっと見て来る。


 いやいや、私じゃないから。


「全員、敬礼!」


 上官が号令をかけ、32名が一斉に動き出す。


 敬礼する相手は私、ではなく私の後ろに居る人間。


「皆さん。今日の私は上官ではなく外部の視察みたいなものですから、楽にしてください」


 それは近衛だけでなく足を止めている市民に向けても笑顔を振り撒く第一王子だった。




 直属の部下を数名連れた第一王子と合流した近衛の部隊は、数台の馬車に分乗して北門を出発した。


 私達は飛行魔法で後を追う。ジークは私が運んでやった。


「第一王子は何をしに来たのでしょうか。近衛の視察にわざわざ?」


 最後尾を走る第一王子の馬車を追いかけながら、私は疑問を口にした。


「警備隊の中に不届き者が居たから、近衛の方も心配になったんじゃないか?」


 深く考えた様子も無く、旦那様が欠伸をしながら適当に答えた。


「王子自らっていうところに引っ掛かってるんですけどね」


「んーー。王子は今年の春に学校を卒業したばかりだし、何か実績を作りたかったんじゃないか?」


「視察なんて大した実績には」


「そんな事言われても知らんよ。知りたかったら王子に直接聞けよ」


「それが出来たら苦労しませんよ」


 旦那様はそれ以上何も言わず、ふらふらと飛びながら馬車を追いかけた。


 どうやらまだ眠くて機嫌が悪いらしい。




 新しき西風の隠れ家は北の村を南北に突っ切る街道沿いに有った。


 村の開拓初期に建てられた2階建てのその建物には私も見覚えが有る。確か、北門の検閲を待つ商人が利用していた休憩所ではなかったか。


「なかなかの一等地だな」


「村の住所登録によると、数ヶ月前にとある貴族が買い取った様ですね。その名には聴き覚えが有りますが、西方伯派閥の貴族ではなく東方伯派閥だったかと」


 先に馬車を降りていた近衛の上官と副官の会話が耳に入った。


 まさか東方伯派閥の誰かが関わっているのか。それとも単に名前を利用されているだけか。


「よし、突入するぞ。副官と5班は入口付近、6班は建物の側面や裏側を監視。窓には気をつけろよ。1班から4班は俺と一緒に突入だ」


 上官の指示に従って、近衛兵が6人ずつの小班に分かれて動き出す。


「突入後、中に居る人間は全員捕らえろ。一応殺すなよ。王子と男爵も中に入るのなら、私の部下と共に行動してもらいたいのですが」


「僕はそれで構いませんよ「私も大丈夫です」


「では王子には2班、男爵には3班が付け。では、突入!」


 上官の合図と共に、4班の近衛兵が魔法を使って正面の扉をこじ開けた。




 先行して建物に突入した4班が入口付近を固めて安全を確保する。


 続いて1班から順に突入。私達3班が建物内に入った頃には既に前2班の姿は無かった。


「1班と2班は1階の捜索に向かいました。3班は上階を頼むとの指示です」


 上官からの指示を4班が伝えて来る。


 その指示に向かって階段を目指す。階段は玄関フロアを抜けたすぐ先に有った。


 階段を上がって2階の廊下に出ると、廊下の両脇にずらりと扉が並んでいた。


 1部屋1部屋が個室になっているんだろう。商人達はこの部屋で休息しながら、検閲の時間を待っていたわけだ。


 近衛の1人が1番近い扉に手をかけた時、階下から大きな音が聞こえた。1階で戦闘が始まったようだ。


 近衛兵が扉を開け、人影が無い事を確認して2名が捜索の為に入室する。


 残りは次の部屋へ。また近衛2人が入室して調べる。残りはまた別の部屋を。


 部屋の調査は近衛2人組に任せ、何かあった時はすぐに加勢出来るように、私達3人は廊下で待機。


「居ました」


 5つ目の扉を開けた近衛兵が小さな声で報告する。


 開けられた扉から見える位置にある室内のベッドで、誰かが横になっていた。


 その者は眠っているのか意識が無く、全身を包帯でぐるぐる巻きにされている。


 動けそうにないので一旦放置して次の部屋へ。


「こちらにも」


 隣の部屋を調べた近衛からの報告。同じような包帯の人。


「もしかして、イヴァンの詰所の火事で逃げ出した2人じゃないか?」


 旦那様がそう推測した時、


「待て」


 次を開けようと扉に近づいた近衛の動きをジークが止めた。


「扉の向こうから殺気がダダ漏れだ。俺が開けよう」


 近衛を押し退けたジークが扉のドアノブに手をかけた。

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