第41話 俺は魔導具の構造に興味を持つ
姉さんの指示通り突きを放つと火球が出現した。
剣を見るとさっきまで輝いていた柄頭の鉱石が、鈍い色に変わっている。
鍔に取り付けられている鉱石はまだ光っている。魔法が残っているかどうかの違いだろうか。
放った直後は戸惑ったが、次第に興奮が押し寄せて来た。
最後の突きの動作だけ、もう一度やってみる。左手を柄頭に添えて突く。
今度は魔法は出なかった。
「それじゃあもう魔法は出ないよ。片手で剣を握って、反対の手で鉱石に触るのが発動の合図なんだ。鉱石から手を放すと剣先から魔法が出るよ。今度は鍔の鉱石でやってみて」
なるほど、じゃあ次は鍔の鉱石で。
左手で鍔に触ろうとすると突きに行き辛いからやり方を変えよう。
胸の前で剣を立てて構え、左手で鍔の鉱石を掴む。
少し左に重心をかけ、剣も左に傾ける。
右に重心を動かす時に剣も横薙ぎに振りぬく。
さっきと同じ様な火球が出現し、土壁へと飛んでいく。土壁の中心から左に逸れた所へ着弾。
突きよりは狙いが付け辛い。そしてやっぱり剣を持つ手が少し熱い。
「うんうん、ちゃんと封じ込めた魔法が消えずに残ってたね。昔の私、偉い」
「この剣はアリー様が作ったのか?」
「そうだよ、師匠の所でね。どういう訳か誕生祭でゲオルグの手に渡って、私もびっくりしたんだよ」
そりゃ姉さんが作ったなんてジークさんも驚くよね。
俺も姉さんに聞きたいことがある。
「2つとも同じ魔法に見えたんだけど」
「同じ魔法だね。練習用に作ったって言ったでしょ。鉱石を2つ付けても大丈夫な強度の剣を探ってた頃のやつだから、魔法は適当に込めたんだよ」
この出来で練習用、とジークさんが更に驚いている。
「違う魔法も込められるの?」
「出来るけど、違う属性って意味なら無理だよ。それに嵌ってる鉱石は火魔法しか対応できないから」
「鉱石によって込められる属性が変わるのか」
「それは赤鉄鉱って言う石で、師匠に使って良いって言われた中で一番安い鉱石なんだ。だから練習用に使ったんだよ」
「他の魔法だとどんな石を選ぶの?」
「そのころは土魔法には黄銅石、風魔法には水晶を使ってたかな」
「剣を作ってたのって水魔法を覚える前だから、まだ魔法の色について知らないはずだよね。それなのによく火に赤、土に黄色って選べたね」
「おお、確かにそうだね。気付かなかったよ。黄銅石が土魔法に合うとは師匠に教えてもらったんだ。あのころは安い鉱石から順番に魔法を試してただけで気にしなかったな」
試行錯誤した結果、偶然五行と色が一致したのか。ソゾンさんもこれまでの経験で気が付いたんだろう。
「クロエさんにあげたブレスレットにはどんな石を?」
「黒曜石だよ。これは色を考えて選んだんだ。割と高かったけど」
魔道具について次々に聞きたいことが出てくるな。興奮しているのが自分でも分かる。
でもちょっと石の話は脇に置いといて、魔法の方を聞こう。
「魔法を使った時、剣を持つ右手が熱く感じたんだ。魔法の熱が伝わってるんじゃないかと思うんだけど、これってなんとかならない?」
「魔力の伝わり方が上手くいってないのかな。作った時は気付かなかったな。もう内部は弄れないから、握り部分に断熱用の布でも巻かないとダメかな」
「じゃあ剣身に炎を纏わせるとかは無理か。こっちが火傷しちゃうね」
「なにそれ、面白そうだね。その剣では無理っぽいけど、他になにかやりたいことある?」
「うーん、折角2種類の魔法を込められるんだから違う物がいいな。1つは遠距離攻撃用で、もう1つは防御用か補助用がいいな」
「ふむふむ。ちょっとゲオルグ、こっち来て」
手招きする姉さんに近づく。
どういう魔法にしたいのか細かく質問される。ジークさんに聞こえないように小声だ。
ジークさんを驚かそうとしているな。ジークさんも分かっているみたいで近づいて来ない。
仔細を伝えて姉さんに剣を渡す。
姉さんが剣を握り、片手を鉱石に添える。魔法を封入する時は発動と同じ仕草をするようだ。
「よし、これで大丈夫なはず。じゃあゲオルグはさっきの位置に。ジークは土壁の前に行って」
現場監督と化した姉さんがテキパキと指示を出す。
俺達が移動したところで姉さんが土魔法を使用。俺の後ろに土壁を作り、それをどんどん伸ばしていく。最終的にはジークさん側の土壁と繋がり、俺達を長方形にぐるっと囲む壁が出来た。
姉さんはいつの間にか壁の上に腰かけている。
え、闘技場感が凄いんだけど。魔法を試すだけだよね。ジークさんと戦う訳じゃないよね。
「では勝負の内容を説明します。ゲオルグはジークに剣を使わせたら勝ち。ジークは時間経過まで逃げ切れば勝ち。ゲオルグは何でもあり。ジークは魔法禁止で、回避出来ない攻撃は剣で受ける事。もちろん鞘に納めたまま剣を振っても負け。壁から出るのもダメ。制限時間は5分。勝った方には新しい魔導具を進呈します」
ルールを辿々しく述べる姉さん。今考えながら決めてるでしょ。なんでもありって言われても剣と2種類の魔法しかないんだけど。
上着を脱ぎ始めてるけど、まさかやる気じゃないよねジークさん。
「準備が出来たようなので、開始」
姉さんの合図でジークさんがこちらに駆け出してきた。逃げ回らずに向かってくるのか。笑顔が怖いぞ。ちょっとまだ心の準備が。
避けろよっと目で訴えてジークさんが右脚を動かす。中段の回し蹴り。ジークさんの中段は俺の側頭部だぞ。
咄嗟に身体が動き、蹴りに合わせて半歩前に出る。蹴り足に剣が当たるように剣を立てる。剣の峰に左腕を添えて固定して防御姿勢。片刃の剣でよかった。
ぐっ。
いつの間にか蹴り足の軌道が変わって足払いに。軽く払われただけなのに転んでしまった。体重差のせいだな。
転んでもたついている俺を追撃せず、少し下がるジークさん。ち、誘いに乗って来なかったか。
「追撃した俺に魔法を放とうと構えているのがバレバレだぞ。俺は魔法の放ち方を知ってるんだからその奇襲は効果ないな」
しょうがない。今度はこちらから仕掛けるか。




