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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第11章
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第108話 俺はジークさん側の話も聞く

 赤い靴を履いた男。


 顔つきにはまだ幼さが残るが、20代前半くらいか。背はそれ程高くなく、細身。火魔法の灯りの下では、ちょっと暗い色をした茶髪だ。


 男爵の指示を受けて監視を始めたが、少し焦っていたのか、奴はすぐに動き出した。


 裏庭に到着した警備隊はイヴァンにより3名毎の持ち場を割り振られたが、奴はそれに従わなかった。


 裏庭に通じる道や裏口へと散った隊員らと別れた奴は、裏庭に面した宿屋の窓の1つに向かって移動する。


 裏口に向かって見て1番右端に有る窓だ。


 その窓は大人の胸より高い位置に有り、人の出入りを意識した作りでは無かった。


 窓は木板で閉じられていて、窓に近寄った奴はその木板をノックした。


 コンッ、コンッ、コンッ、コンッ。


 ノックは速度を変えずに4回。


 それは明らかに窓の向こうに居る人間への合図で、あからさまに不審な行為だった。


「何をしている?」


 ほっと息を吐いて窓際から立ち去ろうとした奴の前に立ちはだかって声をかけた。


「見て分からないのか?窓が開いていないか調べていただけだ」


 事前に用意していたであろう台詞で、奴はスラスラと回答した。


「お前が裏庭に着いてからここに移動する間にも窓は有っただろ。なぜ一直線にこの窓へ来た?」


「俺はなんでも右端から調べるようにしているんだ。途中から始めると、調べたかどうか分からなくなるだろ?」


 奴は全く慌てる様子も無く答える。どうやらこの問いに対する答えも用意済みだったらしい。


 俺はこういう頭を使うやり取りが苦手だ。今すぐにでもルトガーと交代したい。しかしそういう訳にもいかない。


「これ以上話が無いのであれば、失礼します」


「まあ待て。今そこを動いたら即座に攻撃するぞ。大人しくしてろ」


 これからどうやって論戦するかと頭を捻っているのに、勝手に動こうとするなんて非常識な奴だ。


「警備隊員の俺を攻撃する?公務執行妨害だぞ」


「それがどうした。文句があるならいつでも相手をしてやるから、今はちょっと黙ってろ」


 うーん。どうやって攻めたらいいんだ。


「ちっ、邪魔だ。俺は次の窓へ向かう」


「まあ待てって」


 踵を返そうとした奴の視界内に移動して食い止める。


「窓なんてどうでも良いから、暫く動かずにじっとしてろ」


 何かおかしいところが無かったか、もっと考えろ。もっと、もっとだ。




「おい、おっさん!もういい加減にしろよ!大人しい警備隊員でもそろそろ怒るぞ!」


「まだだ。焦るな。焦っても良いこと無いぞ」


 はあ。待ってろって言ってるのに何度も何度も聞いて来やがって、小蝿の様に五月蝿い奴だ。


 いちいち思考を邪魔されて、全く考えが纏まらない。こいつを追い詰める良案が全く浮かばない。


「どうした。不審者か?」


 奴が張り上げた声に反応したのか蝿が増えた。同じ隊の警備隊員か。左腕を白い布で首から吊り下げているが、現場に来るなら怪我を治してからの方がいいぞ。


「な〜な〜、このオッサンと遊んでんの?オレっちも混ぜてくれよ〜」


 もう1匹変なのが来た。赤い靴の奴に纏わり付いたからか、そいつからも五月蝿がられている。


「このおっさんが俺の邪魔をするからそろそろぶっ飛ばして捕まえてやろうかと思ってな。でもお前は邪魔だから向こう行ってろ」


「あ、それイイね〜。オレっちも退屈してたところなのよ。白生地くんもやるっしょ?」


「誰が白生地だ。やるならサッサと終わらせるぞ」


「りょぅくわ〜い」


 あー、もう。ぶんぶんと五月蝿い。


 3人とも20前半で同い年くらいか。まだ40代でそれ程年を取ったつもりも無いが、対応に困る。俺もこれくらいの頃は、年上から五月蝿く思われていたんだろうか。


 いや、俺はもっとちゃんとしていたはずだ。少なくとも男爵よりは。


「おっさん、観念しろよ。ボコボコにして、豚箱の押し込んでやるからな」


「お〜っこわ。イライラしてるねぇ。オッサン、気をつけろよ。こうなった赤靴くんはローチャクナンノ関係無くボコボコにするから、こええぞ。噂のエルフに助けられないと死んじゃうかもな〜」


「老若男女だ、バカ」


 赤靴と白生地と、バカ。出来れば最後も色で決めて欲しかった。


 ダメだ。俺の思考が段々あいつらの色に染まっている。もう深く考えられない。


「エルフがなんだって?」


 俺の質問に、バカと呼ばれた警備隊員は甲高い笑い声を発した。


「ヒッヒッヒィ。まあ取り敢えず骨折くらいは覚悟してろってハナシ。この前なんかも一丁前に歯向かって来た女の子をボコボコにしたんだぜ。あの戦闘は楽しかったなぁ」


 は?


「なかなか魔法がおジョーズな女の子だったが、タゼーニウゼーだったな」


「多勢に無勢」


「そう!それな!」


「ちっ、口の軽いバカが。だから俺はお前が嫌いなんだ」


「はぁ?赤靴くんも楽しんでただろうが。オレっちのスイダンが頭に当たって気を失った女の子の手足を折ったのは赤靴くんだろ。先に当てられたからって悔しがって」


 お前、それって。


「俺は足だ。腕はこいつ。だからもうそれ以上喋るな」


「あ〜そうだった。腕を折った翌日に自分も腕を折られたんだよな。ぷー、ゴシューショーっ」


「はあ。おっさんの前に、お前をボコボコにしてやろうか?」


「片手じゃムリです〜。出来てもボコです〜」


「五月蝿い!!」


 バカが話す内容を完全に理解した俺は、左拳を宿屋の壁に打ち付けていた。

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