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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第11章
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第107話 俺は事件の進展に聞き入る

「屋根裏部屋への通路は!?」


「か、階段のところに普段は収納している天井階段が」


「ちっ、真逆じゃねえか。早く階段を降ろしてくれ!」


 420号室の扉付近で宿屋の主人に質問をした旦那様が盛大に舌打ちをし、たった今通って来たばかりの廊下を、主人の手を引っ張って戻り始める。


「ちょ、ちょっと。まだ、息が」


 私達よりも10以上年上と思われる店主は、はあはあと息を切らして懸命に足を動かしている。


 宿屋の仕事はあまり動かないんだろうか。やや小太りな体型の主人には階段を4階まで一気に駆け上がる事は辛かっただろう。


 私が向こう側に居たら浮遊魔法で運ぶのだが、あいにく私はまだ窓の外。旦那様も浮遊魔法や飛行魔法は使えるが、慌てているのかそんな事はすっかり忘れてしまっているようだ。主人、頑張って。


 旦那様が去り、代わりに近衛の1人が420号室に入って来る。室内の調査を彼に任せた私は窓枠から離れて屋根に向かった。


 屋根裏の3つの窓には変化が無い。相変わらずその1つから甘い匂いが香って来る。


 念の為、三角屋根の向こう側も確認する。向こう側の傾斜は西側だからか窓は無かった。


 向こう側の屋根の下は裏庭だ。イヴァン隊とジークが向かった裏口がそこに有るはず。屋根から裏庭を覗くと、彼らが灯したであろう灯りが3箇所ほど見受けられた。


 そちらはジークに任せて私は屋根裏部屋の窓を監視しようと踵を返すと、


 ドンッ!


 背後の裏庭方面から届いた衝撃音が私の鼓膜を揺るがした。




 屋根裏部屋の窓を監視していると、右端の窓が開けられて旦那様が顔を出して来た。


「おいルトガー、誰も居ないぞ?」


 旦那様は不満の色を隠さない。


 旦那様が開けた窓から見える屋根裏部屋の内部は大小様々な木製の箱が所狭しと並べられていて、物置として使っているようだ。しかし埃が堆積しているような様子は無く、頻繁に人の出入りが有るのだと予想された。


「それと、さっき宿屋を揺らす程の大きな音が聞こえたんだが、あれは何だ?」


「確認はしていませんが、恐らくジークが何かしているのでしょう。あれから音は聞こえていませんが。それで旦那様、屋根裏部屋内の匂いはどうですか?」


「ん?そういえば、甘い匂いを感じるな。おい、ここの窓枠、なんかベタベタするぞ」


 窓の木枠を触った旦那様が怪訝な顔をして、手のベタつきを気にしている。


「恐らく蜂蜜です。420号室からも微かに香って来ていました。420号室に居た誰かは窓から外に出て、屋根裏部屋の窓から再び建物内に戻った。しかし、恐らくここの窓を通る時に蜂蜜を溢したのではないでしょうか。甘い匂いを辿る事が出来れば、その人物を探せるかもしれません」


「わかった。探してみよう」


 手についた僅かな蜂蜜をクンクンと嗅いだ旦那様は、そのままふらふらと屋根裏部屋を彷徨いだした。




「アルバン……お前、なんで……」


「ごめん親父。ごめん」


 アルバンと呼ばれた青年はごめんごめんと涙を流しながら父親に謝罪し、謝罪された宿屋の主人は放心状態で立ち尽くしている。


 アルバンは屋根裏部屋の奥の方に有った大きめな木箱の中に身を潜めていた。


 発見したのは勿論旦那様。


 自分で提案しておいて正直良く探し当てたなと思ったが、アルバンは割れた蜂蜜の瓶で手を深く切って血塗れになっていたから、旦那様の鼻は血の臭いを嗅ぎ取ったのかもしれない。


 アルバンを見つけた時、彼は逃げようと僅かな抵抗を見せたが旦那様にあっさりと捕まり、父親の顔を見て観念して泣き崩れた。


 アルバンが捕まった事で私も窓を通って屋根裏部屋に移動し、中を調べた。


 潜んでいた箱には、割れた蜂蜜の瓶とそれを包んで血で汚れた黒いフード付きのマント、着替え用の一般的な服や筆記用具が入った鞄が有った。


 蜂蜜と黒い衣装はギードが言っていたアハトの特徴だと思われる。しかしアルバンは赤い靴を履いていなかった。


「取り敢えず止血をした後、尋問するとしよう」


 旦那様の提案で近衛の1人動き出し、アルバンの止血と捕縛をテキパキと済ませた。


「む、息子は何もしていない!これは何かの間違いだ!」


 目の前で息子が縛り上げられた段階になって漸く放心状態から抜け出した宿屋の主人が、アルバンを連れて行こうとする旦那様にしがみつく。


「申し訳ないがこんな夜更けに木箱に潜んでいる彼は立派な不審者だ。まさかあの木箱が彼の自室だとは言いませんよね?」


「それは……しかし……」


 旦那様の反論に言葉を失った主人は、それ以上抵抗しなかった。




「ご主人。いくつか聞きたい事があるのですが」


 旦那様と近衛兵がアルバンを連れて屋根裏部屋を出た後、私は主人にいくつか質問した。


「息子は妻と一緒に、宿の日中の仕事を担当していまして、反対に私は夜勤で。数年前に学校を卒業して以来ずっと真面目に働いていたのに、どうしてこんな事に」


 ガックリと項垂れる主人を宥めながら屋根裏部屋を出ようとすると、再び大きな衝突音が発生し、宿屋全体がぐらりと揺さぶられた。

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