第98話 俺は話の続きを催促する
王城内で暮らす、またはそこで働く人々は、
王族、貴族、庶民などの階級は関係無く、
兵士、役人、メイドなどの役職も関係無く、
なんらかの派閥に属している。
現王派、先王派、王弟派、3名の各王子派、公爵派、4名の各辺境伯派、宰相派など、派閥の種類は多彩だ。
親が属している派閥に入る者、自分の思考で選ぶ者、周りに流される者。
所属する理由は様々で、思想が似通っている複数の派閥(例えば現王派と第一王子派)に属している者も多い。
しかし、俺は基本的に無所属で居たかった。
大きな派閥に属せば得られる情報量や助けになる後ろ盾は多くなるが、その分しがらみも大きくなって自由では無くなる。
親の仕事を手伝う人生なんて嫌だと自由を求めて地元を出たのに、不自由なんてまっぴらゴメンだ。
俺は結婚するまで、ずっとそう思っていた。そう、結婚するまでは。
「男爵、よろしくお願いします。東方伯が王都に来て騒ぎが大きくなる前に、なんとか真相を究明してください」
近衛隊が開いた会議が終わって仕事に戻ろうとした矢先、俺は東方伯の部下に頭を下げられた。
俺は近衛隊と違って捜査能力は無いから無理だと言っても、部下は頭を下げ続ける。
その部下以外にも数人が近寄って来て、よろしくっと一言言って去って行く。古参新参と色々居るが、全員東方伯派の連中だ。
そんなに東方伯が怖けりゃ自分達で捜査したらいいんだ!
なんて事は口に出来ず、俺は東方伯の部下に向かって、
「善処します」
とだけ答えて自分の職場へ戻った。
結婚した事に幾つか不満が有るが、最も大きな不満は勝手に東方伯派閥に組み込まれてしまった事だ。
妻が東方伯の娘なんだから仕方ないと他人は思うかもしれないが、東方伯は俺達の結婚に物凄く反対していた。
それなのに結婚したらクルッと手の平を返され、王都に住む東方伯派閥の纏め役みたいな立ち位置にされてしまった。
それもこれも、リリー以外の東方伯縁者が誰も王都で暮らさないのが悪い。
リリーの兄弟が王都に居てくれたら、絶対に纏め役をなすり付けるのに。それを察してか、彼らは領地から出て来ない。
リリーには可愛い子供達の傍にずっと居て欲しいから仕事も辞めさせて俺が面倒事の矢面に立っている形だが、これからの事を考えると頭が痛くて仕事に身が入らない。
出来ない捜査をお願いされ、東方伯が王都に来たらその相手をさせられる。
東方伯の機嫌が良ければ他の派閥員達も寄って来るだろうが、どうせ東方伯は怒り顔で王都に乗り込んで来るに決まってる。たとえ派閥に属していても、大時化のように荒ぶる東方伯に近寄って被害を被りたくないのだ。
勿論俺だってそうだ。関わりたくない。
しかし東方伯を放置した結果可愛い子供達に被害が及ぶかもと考えると、俺は東方伯の前に立ち塞がってしまうんだ。
うだうだと考えて仕事が手に付かないから、今日は早々に仕事を切り上げた。
午後の早い時間に職場を出た俺は近衛隊の詰所を訪ね、容疑者との面会を申し出た。
複数の近衛兵同伴で、未だに無表情で黙秘を続けているという容疑者と面会する。
先に面会室に入って椅子に座らされ、後ろ手に縛られて俯いていた容疑者が顔を上げると、俺の顔を見て、破顔した。
表情を変えただけで何も喋らなかったが、容疑者の変化に近衛兵達はざわついた。
「お前達の目的はなんだ?どうして子供を狙った?まだ学生だぞ?」
近衛兵の許可を得て質問すると、
「依頼を受けたからだ」
容疑者は一層笑みを深めて答えた。
「やはりさっき見せた指示書が原因なんだな!それで指示通り、バルバラという女性を狙ったんだな!?」
ここぞとばかりに割り込んで来た近衛兵の質問には、容疑者は全く反応しなかった。
俺は近衛兵の対応に内心舌打ちをしながら、質問を続けた。
「お前達は街中で女の子と戦闘する前に、人族の男の子とドワーフ族の男の子を襲っているな?それは誰の依頼だ?」
「東方伯だ」
容疑者は間髪入れずに答え、
「やっぱり!東方伯が黒幕か!」
近衛兵の1人は興奮し、用意して有った紙に何かを書き始めた。また別の近衛兵は、上司を呼びに行ったのか、面会室から慌てて出て行った。
俺は1度大きく息を吐き、努めて冷静に言葉を紡ぐ。
「お前が襲った人族の男の子は、東方伯の孫だぞ?東方伯が自分の孫を襲わせるか?嘘を吐くならもっとマシな嘘を吐け」
「なるほど。あのガキはお前の子か、フリーグ男爵。跡目争いとか財産狙いとか、そんなくだらない理由で身内を襲うなんてよくある話だ。自分の子が狙われて怒るのは分かるが、これは嘘じゃない。だいたい普段から東方伯と仲が悪いんだから、東方伯を庇う必要性が男爵に有るのか?」
ペラペラとよく喋る。
俺はお前の顔を見た事はないが、何故かお前は俺の事を良く調べてあるようだな。だが東方伯の性格は知らないようだ。
「東方伯は気に入らない事が有ると、絶対に自分の足で出向いて殴りに行く。他人に指示して処理させるような人間じゃない。誰が東方伯を貶めようとしている?」
「今回は違った。ただそれだけだろ」
あくまで黒幕は東方伯。容疑者はその線で話を展開するらしい。
こうなると指示書を見せたのが悔やまれる。なんで容疑者に見せたんだ。それに書かれた東方伯の名を見て、こいつは何かに気付いたに違いない。
近衛兵は警備隊よりも無能だな!
「男爵、面会の時間は終わりだ。退室願おう」
先程出て行った近衛兵が副長を連れて戻って来た。
まだ話し足りないが、近衛兵に腕を引っ張られて強引に退室させられた。
扉越しに耳を澄ませていると、副長の怒声が伝わって来る。
容疑者の取り調べを行なっているようだが、容疑者の声はそれ以降耳に入らなかった。
そこまで話したところで、父さんは食卓に突っ伏して動かなくなった。
話しながらもずっと飲んでいたからな。飲み過ぎて、睡魔に負けてしまったようだ。
「へ〜、結婚生活に不満が。ふ〜ん、そう」
動かなくなった父さんを睨み付けながら、母さんが怒気を放っている。
明日目が覚めたら、母さんに詰め寄られるんだろうなぁ。酔っ払っているとはいえ、随分と不注意な発言をしたものだ。
ジークさんに担がれて自室へ向かう父さんの未来を少し哀れに思いつつ、俺達はルトガーさんに話の続きを催促した。
因みに話に興味の無い妹達は、マリーとクロエさんと、4人で仲良く遊んでいた。




