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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第11章
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第97話 俺は酔っ払いから話を聞く

 母さんに休めと言われた翌日、俺は朝から晩まで妹達と遊んで過ごす事にした。


 カエデと家の中でかくれんぼをしてもいいし、サクラに絵本を読んであげてもいい。


 半日使ってお兄ちゃん人気を取り戻すんだ。


「これまで習った授業内容を復習してはどうですか?」


 一緒に休んでいるマリーには勉強しろと提案されたが、そんなものは却下だ、却下。


 勉強は学校でやるだけで十分。だからマリーも一緒に遊ぼう。


 渋々勉強を諦めて遊びに参加したマリーと4人で楽しんだ。


 4人で過ごす楽しい時間は、夕食後に父さん達が帰って来るまで長く続いた。




 ルトガーさんに支えられて夜中に帰って来た父さんは、今日も酔っていた。


 俺と一緒に鷹揚亭で飲んだ時よりもふらふらで1人では立って歩けない程だ。


 共に帰って来たジークさんも赤ら顔で、父さんを支えているルトガーさんだけが素面だった。


「げおるぐぅ、とうさんは、がんばったぞ」


 ふらふらの父さんが俺に向かって手を伸ばし、ゾンビのように近付いて来る。


「まったく、しょうがない人ね。ルトガー、その人を寝かせたら食堂で報告ね。ゲオルグと待ってるから」


 一緒に出迎えた母さんは飲み過ぎた父さんに呆れた様子だが、


「いや、おれは、もっとのむ」


 父さんはその意に反発する。


「きょうはがんばった。まだねない。げおるぐに、はなしてきかせるんだ」


 そう言って父さんは俺に抱きついて来た。


 いつも以上に酒臭い。酒で満たされたプールで泳いで来たのかな?


「はいはい。じゃあみんなで話を聞きましょうか。ゲオルグ、暫く我慢してね」


 うーん。この臭いでこっちも酔っ払いそうだ。


 俺は片手で鼻をつまみながら、ルトガーさんと協力して、真面に歩けない父さんを食堂まで運ぶ事にした。




「われわれのしょーりに、かんぱーーい!」


 赤ワインが注がれたグラスを天井に向かって高々と掲げた父さんが、元気良く発声する。


「「かんぱーい!」」


 父さんの音頭に返答したのは、同じくワイングラスを持ったジークさんと、いつのまにか食堂に現れた姉さんの2人。姉さんは酒じゃなくてマリーが淹れた紅茶だけど。


「カエデも!かんぱいする!」


 3人に遅れて、ホットミルクの入ったコップを手に持ったカエデが真似をする。そこまで高温じゃないけど、溢さないように気をつけてね。


 父さん達が帰って来て騒がしくなったからか、いつも一緒に寝ている母さんが部屋に行かないからか、カエデもサクラも寝ようとしない。


 姉さんに連れ立ってクロエさんやアンナさんも居るし、食堂は大賑わいだ。


「それで、誰が話をしてくれるのかしら?」


 1度紅茶に口を付けた母さんが、早く話せと催促する。


「もちろんおれだぞ。あれはきのうの、えー、あさの」


 父さんが張り切って説明を始めたが、酔っ払いの話は酷く分かりづらく、ルトガーさんの補足が無ければ理解が難しかった。




 面倒な役人にぺこぺこと頭を下げた翌朝、息子の護衛を2人に任せた父さんはいつも通りに仕事へ向かった。


 職場は王城内。前日に頭を下げた役人と鉢合わせないように気を付けながら登城すると、城門に配属されている近衛兵に声をかけられた。


 前日にバルバラさんが捕まえて近衛兵に引き渡した容疑者の件で、その捜査状況を報告する会議が今日有るらしい。


 会議に参加するようにと言われた父さんは、それに了承して自分の職場へ向かった。


 指示された時間になって会議室へ行くと、近衛関係の重鎮の他に多くの人間が集まっていた。


 その中には宰相や大臣連中、3月に学校を卒業したばかりの第一王子も居て、父さんは会議が始まるまで見知った顔への挨拶回りに勤しんだ。


 会議が始まり、近衛隊長が1人の近衛兵に発言を促す。


「取り調べでは黙秘を続けていますが、容疑者の右手の甲には特徴的な痣が有ります。その痣や服装を元に冒険者ギルドや飲食店、宿屋等で目撃情報を調べたところ、ある宿屋に宿泊している事が分かりました」


 ひと晩でそこまで調べる近衛兵の捜査能力に感心した父さんだったが、


「その宿屋に残されていた容疑者の所持品を調べたところ、東方伯の名が書かれた指示書が出て来ました」


 思いもよらない名前が出て来て、父さんは更に驚かされた。


「内容は、南方伯縁者のバルバラという女性を誅せよ、というものでした。読了後は燃やして処分するように、とも有りましたが、容疑者はそれを処分せず、鞄の奥底に忍ばせていました」


 会議参加者に回された現物の複製を見ても、父さんはその内容が信じられなかった。


「今朝冒険者ギルド経由で領地に滞在中の主と連絡を取ってそれについて確認しましたが、そのような指示書は書いていないと申しております」


 近衛隊長が次に発言を促したのは東方伯の部下で、王都に有る東方伯邸の留守を任されている人物だった。


 父さんもその部下と面識が有り、会議前に挨拶を交わしていた。


「しかし容疑者が黙秘している以上、それは重要な証拠であろう。東方伯関係者が黒幕と仮定して捜査を行うべきではないかね?」


 会議に参加していた1人が勝手に発言した。大臣の1人だったかなと、父さんの記憶は曖昧だった。


「我々もまずはその線で捜査をする予定です。東方伯には是非王都までお越し頂いて、直に話を聞きたいのですが」


「既にこちらに向かっているはずですが、到着日は未定です」


 近衛隊長の発言に、東方伯の部下が返答した。


「次に、指示書に名前が有ったバルバラという女性についてですが……」


 会議が進む中、父さんは落胆していた。


 どうしてそんな指示書が残っている?


 それは東方伯に罪を被せたい勢力の仕業だろう。分かりやす過ぎて、そんな罠に引っ掛かる奴居ないぞ。


 しかしなんで東方伯に喧嘩売ってるんだよ。東方伯を怒らせても良い事ないのに、やめてくれよ。


 東方伯の怒りを抑える役目を背負わされるかもと、父さんはこれからの事を不安に思いながら会議への参加を続けた。

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