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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第11章
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第92話 俺は周りの反応に疑心暗鬼となる

 事件の翌日、俺は学校を休まなかった。


 ズル休みしてカエデ達と目一杯遊び、お兄ちゃんの人気を取り戻すぞ!


 なんて朝起きた時は考えていた。


 でも満面の笑みを携えたマリーに、


「いってらっしゃい。私の分までしっかり勉強して来てくださいね」


 と言われたら、休みますとは言えなかった。




 マリーが襲われた翌日とは打って変わって、俺が襲われた件についての噂は、学校内に広まっていなかった。


 聞こえて来た噂話は、


『連日学校を休んでいるマリーについて』


『大病院から入院患者が居なくなった件について』


 この2つだ。


 どちらも人の注目を集める大きな話では有ると思うが、マリー同様に襲われた俺には一切注目が集まっていない。割と派手な戦闘だったはずなのに。


 同じクラスの連中ですら、普段通りに俺と接して来る。


 それはとても不思議で、ちょっと不可解で、なんとなく不愉快だった。


 マリーみたいに入院しなかったから?


 なんて、縁起でも無い事を考えたりもした。マリー、ごめん。


「また誰かを置いて逃げたとか、有る事無い事勝手に言いふらされるよりはずっと良いと思うけど?」


「静かな方が良い」


 ミリーとアランくんですらこの通り。


 因みに2人は噂好きなお祖母様の情報収集能力のおかげで事件の事は知っている。朝登校前に会った時に、怪我が無くて何よりと声を掛けてもらった。


 まあ2人の言う通りだし、噂を広めて欲しいとも思っていない。


 しかし、マリーの時との違いに戸惑っている。この気持ち、どうやったら昇華出来る?


「ゲオルグも特訓に参加する?お馬さんと一緒に風になると色々忘れられるよ!」


 急に詩人になるミリー。


 誘いは有り難いが、俺は乗馬が出来ないんだって。馬上で爽快感を感じる前に、乗馬の練習で更にストレスが溜まりそうだ。


 出来ればもっと手軽な方法が好ましい。


「そういえば、シードル君来ないね」


 ストレスの発散方法に悩んでいると、ミリーが急に話題を変えた。


 そういえば、今日はまだシードル君に会っていない。今は授業間の休み時間。既に午前中の授業はいくつか終えていて、次の授業が終わると昼休みになるというのに。


「喧嘩でもしたの?」


 いや、喧嘩だなんて。


 昨日一緒に事件に巻き込まれて以来会ってないし。


 そうだ、事件中に貸した魔導具もまだ返してもらってなかった。


 まあ量産品だから返って来ないならそれでも良いんだけど、あのシードル君から一言も連絡が無いのが気になる。さっきまで全く気になってなかったけど。


 来ないのならシードル君のクラスまで出向こうと思い腰を上げたところで、次の授業を担当する教師が来てしまった。


 仕方ない。どうせ昼休みには道具管理部の仕事で顔を合わせるんだから、その時に話せばいっか。


 そう気持ちに折り合いをつけて、俺は苦手な文学の授業をマリーの分まで真面目に受けた。




 昼休み。2年の先輩と俺の2人が魔導具の点検を開始しても、シードル君は姿を見せなかった。


 先輩も何も聞かされていなかったらしく、怒るというよりも戸惑っていた。


 シードル君は仕事をサボるようなタイプでは無い。どちらかと言うと真面目に根を詰めてやり過ぎて体を壊すタイプだと思う。


 学校に来てたのなら絶対に顔を出すはず。ということは、今日は休んでるのか?


「体調不良とかで休むのは仕方ないけど、教師経由で俺達にも連絡が欲しかったよな」


 そうですね。


 先輩のちょっとした批判に賛同した後はお互い無駄口を叩かず、仕事を終える事を最優先に頑張った。




 仕事を終えた俺は自分の教室に帰る前に、シードル君の教室に顔を出した。


 魔導光芒に参加している知り合いのドワーフ族の女の子を見つけて話を聞く。


「家庭の事情で暫く休む、と担任の先生が仰っていました。なので、病欠では無いかと」


 体調不良じゃないのならひと安心だけど、家の事情って何?


 暫くって何日くらい?


「さあ、それ以上の事は何も聞かされていません。学校では顔を合わせますが、個人的な付き合いが有る訳でも無いので。多分他の子達も私以上の情報は持っていないかと」


 むう。クラスメイトかつ同族なのに薄情なって思ったけど、自分のクラスメイトの家庭事情なんてミリー達くらいしか知らない事を思い出し、それ以上何も言えなくなってしまった。


「担任の先生なら何か知っているかもしれませんが、そう簡単に個人情報を漏らさないかと」


 まあそうだろうね。でも念の為聞いてみるよ。色々教えてくれてありがとう。


 女の子にお礼を言った後、俺は自分の教室に戻った。




 放課後、食品管理部の会議に参加する前に、シードル君のクラス担任を訪ねた。


 しかし、案の定何も教えてくれなかった。


 暫く粘って時間を浪費した結果、会議に遅れて部長に怒られてしまった。


 そして、やはりマリーの時とは違い、食品管理部のみんなも俺が襲われた件については何も言って来なかった。


 部署は違うけど同じ運営委員のバルバラさんだって被害を受けたのに、それについて何も触れないのはあまりにも不自然じゃないか?


 もしかして箝口令でも敷かれてる?


 まさかね。単純に前回みたいに噂を広げようとする動きが無かっただけさ。そうに決まってる。


 食品管理部員に対して生まれた疑心暗鬼の芽を無理矢理摘み取り、俺は黙って会議に参加した。

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