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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第11章
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第90話 俺は母さんと長話をする

 千鳥足になってフラフラと歩く父さんと、夜道をダラダラ歩いて帰った。


 帰宅した俺はすぐさま母さんの部屋に呼ばれて、褒められ、そして怒られた。


 まず褒められた。よく怪我をせずに帰って来た、と。


 割と大きな戦闘だったとの情報を耳にし、心配していたらしい。


 先日マリーが怪我をして運ばれたばかりだからね。心配するのも無理は無い。


 随分と久し振りに母さんに優しく抱かれ、穏やかな手付きで頭を撫でられた。


 まだ寝付いていなかったカエデとサクラにも、撫でられた。


 俺の頭に向かって小さな手を一生懸命伸ばす姿が可愛かったから、ぎゅっと抱き上げて、ありがとうと返礼した。


 その後、怒られた。父さんに酒を呑ませるべきではなかった、と。


 街中で戦って通りを破壊した事や帰りが遅くなった事じゃないのかと少し不思議に思ったが、


「もし私が襲撃者側で、もし襲撃に失敗したとしたら、その日中にもう1度襲い掛かる。1度襲撃を切り抜けたからといってすぐに安心してはダメ。護衛の人間に酒を与えるなんて愚策よ」


 さっき迄の柔和な笑みを消し、険しい表情でその怒りの内容を説明された。まあ私なら襲撃を失敗しないけど、と自慢げに付け加えて。


 母さんの言葉の意味を理解しているのか分からないが、カエデ達も母さんと同じ顔をしていた。母親の真似をしたい年頃かな?


 でも、母さんの言う通りだ。


 複数いた襲撃班のうちまだ1人しか捕まっていないんだから、安心するには早過ぎる。


 酔っ払った父さんと一緒にもう一度襲撃を受けていたら、今度は対応出来なかったかもしれない。


 ごめんなさい、と俺は母さんに頭を下げた。


 役人に絡まれてストレスを溜めた父さんが酒で心を癒すのを止める。数時間前の俺に止める手段が有ったかどうかは分からないが、万が一の事を一切考えていなかったのは良くなかった。


 険しい表情を続けているカエデ達にもちゃんと謝った。


「明日からはルトガーを護衛に付けるわね。校内でもなるべくゲオルグの邪魔にならないように護衛させる。明日中にはジークを呼び寄せて、ルトガーと2人体制での護衛になるからそのつもりで」


 表情を変えずに母さんが話したその内容に、俺は驚いた。2人体制はやり過ぎだし、校内に入るのもどうかと思うけど。


 それに、明日からはマリーも居るし。


「ゲオルグ、この事件に1番腹を立てているのは誰だと思う?」


 え?急になんだ。


「それは私よ。大事な子供が2人も襲われたんだもの。特に娘は頭部を縫う程の大怪我。絶対に許せないわ」


 マリーの事を娘と称した母さんが怒気を強める。


「本当は私が出向いてゲオルグを護りたいところだけど、カエデ達も一緒にって訳にはいかないでしょ。だから、ルトガーとジークをね」


 サクラはこの前熱を出して診察を受けたばかりだし、連れ回すのは良くないとの判断かな。家に置いて行くって選択肢は無いみたい。


「それと、マリーは後3日休ませるから、マリーが護衛するのも無理なのよ」


 回復魔法でしっかり元気になったのに、なんで?


「今日一緒にニコル先生の診療所に行って診てもらったんだけど、栄養面を考えてもう2、3日ゆっくりしたらって提案されてね。色々話した結果マリーも承諾したから、そういう事に」


 そうなのか。まあニコルさんには俺達が理解出来ない何かが見えているんだろう。今度会った時にでもその真意を聞くとしよう。


「診療所に行くまでは、『もう1度試験を受けてまた合格します』って張り切ってたんだけどね。ゲオルグとマリー、護衛対象が1人に絞られるのは悪くないし、ゲオルグ様は運営委員会で忙しいから登校しなきゃいけないしって納得してくれた。後でマリーにお礼を言っておきなさいね」


 マリーも襲われたから、登校するならマリーにも護衛を付けるって話?


 登下校は俺と一緒で良いけど、学内ではクラスが違うし手間が掛かるって事か。


 そんな理由でマリーが遠慮したのなら、俺が休んでマリーが登校したらいい。


 俺は運営委員会の下っ端だし、休んだって構わないはず。マリーが登校して、試験を頑張って欲しい。


「ニコル先生の判断とマリー気持ちを汲んだ結果だけど、ゲオルグがそれを気に入らないって言うならマリーと話して決めなさい。あっ、なんだったら怪我をした事にしてゲオルグも休む?」


 母さんの提案も悪くない。数日休む程度の怪我をしたくらいで、俺を襲って来た連中の溜飲が下がる可能性は低いと思うが。


「私としては暫く家に篭ってくれる方が安心だけどね」


「兄様、カエデとあそぼ!」「サクラも」


 ちゃんと話の流れを理解しているらしい2人に、休むなら遊ぼうとせがまれた。天才かこの2人。


 そうだな。可愛い妹達と遊びながら事件の疲れや怪我を癒すのも悪くないかもしれない。肉体的には疲れも怪我もないんだけど、精神面の癒しは大切だよね。


「休むならルトガーを学校へ説明に行かせるから、明日の朝までに決めなさいね。ああ、それと」


 わざとらしく何かを思い出したような演技をした母さんは、


「今日の午前中にダミアンさんが来てマリーに事件の事を話していったわ。まあそれでマリーが何かを思い出したってわけじゃないんだけど」


 そう簡単にはいかないか。残念。


「それと、ギゼラさんなんだけど。ニコル先生の診療所への就職が決まったわ。エルフの件で、前の病院の医者や患者さんからかなり引き止められていたみたいだけど」


 それは良い話だ。ニコル先生の下でしっかり勉強したらギゼラさんはきっと良い医者になる。もしかしたら魔導具無しで回復魔法を使えるようになるかもしれない。


「最後に、ゲオルグがニコル先生の事をギゼラさんに『ちょっと無愛想で怒りっぽくて人付き合いが悪い医者』って紹介した事を、ニコル先生が怒ってたわよ」


 ちょ、ちょっと待って。確かにそう言ったけど最後が間違ってる。腕の良い医者だって言ったのに。


 ギゼラさんがわざと抜かして伝えたんだな。俺が名前を伝えなかったせいで、本当に性格の悪い医者に師事しちゃった事に対する腹いせか?


 今度会ったら絶対やり返してやる。


 俺はギゼラさんへの反抗心を胸に秘めて、楽しそうな笑みを見せる母さんの部屋を出た。

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