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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第11章
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第85話 俺は逃げ出す方法を考える

「シードル君、逃げるよ!」


 睡蓮の大きな葉っぱを複数利用した盾を展開してバラバラに飛んで来た水弾4発を防ぎ切った後、俺はシードル君に指示を出した。


「す、すみま。あしが、うご」


 お尻を地面に付けたシードル君が、ガクガクと顎を震わせながら無理矢理言葉を発している。


 多分立てないって事だろう。


 足手纏いだけど、シードル君を置いて逃げるわけにはいかない。また変な悪評が立ってしまう。


「ただの葉っぱだろ!燃やしてしまえ!」


 盾の向こう側から怒鳴り声が聞こえる、水を十分に吸った植物を燃やすのは時間がかかるが、それでもいつかは破られてしまう。今のうちに何か対策を考えなければ。


 地面にへたり込んで動けないシードル君を引っ張って後ろに下げた後、


「土壁」


 魔導具を使って、睡蓮の葉と自分達の間に土製の壁を作り出す。


 石畳を突き抜けて盛り上がって来た土壁は左右にある家屋の壁とも隙間無くくっついて、飛び越える以外の通行を禁止した。


 これで葉っぱが燃やされてもまだ時間稼ぎが出来る。シードル君が回復する時間を確保出来る。石畳の件はは、後で父さんに謝って直してもらおう。


「さっさと燃やせ!今日こそあの無能をぶっ殺してやる!」


 土壁と葉壁越しにも怒声が聞こえる。何をそんなに怒っているのか。ぶっ殺されるほどの怒りを買った記憶は無いんだが。


 しかし向こうも焦っているのか、葉壁を排除する手段に火魔法しか選択していないようだ。金属魔法で葉を切り刻んだり、飛行魔法で飛び越えた方が手っ取り早いのにな。向こうが単純で助かっている。


 さて、向こうが手間取っている間に逃げたいが、シードル君を置いてはいけない。ここにマリーが居れば動けないシードル君を浮遊魔法で運んでもらえるのに。仕方ない、背負って逃げるか。


 他人を運ぶ為の魔導具も作った方がいいな。今後の課題だ。


「な、何事だ!?」


 シードル君を背負って逃げようとしていると、立ち入り禁止の札がかかっていた柵越しに男性が声をかけて来た。


 まだ若い顔つきの20代くらいの青年。服装から、事件現場を調べに来た王都警備隊員だなと察する。


 水弾と葉壁の衝突音を聞いて小路の様子を見に来たんだろう。今は土壁で奥は何も見えないけど。


 でも助かった。土壁を破られても、警備隊の人が居てくれたら。


「またしくじったのか。下手くそめ」


 助かったと安堵した瞬間、警備隊員が不穏な言葉を漏らした。


「悪いな坊主。恨むなら自分の交友関係を恨め」


 何を言っているのか理解出来ず、次の行動へ移れないでいる俺に向かって警備隊員が右手を伸ばす。


「昨日の嬢ちゃんはエルフに助けられたようだが、今回はどうかな?」


 伸ばした右手の先に多数の石飛礫を出現させた警備隊員が、間髪入れずに射出した。


 ひいいい、と情けない悲鳴をあげて地面に蹲るシードル君。


 その甲高い音に鼓膜を揺さぶられて我に帰った俺は、両手で自分の頭を守りながらシードル君の上に倒れ込んだ。


 ぐえっとカエルのように鳴くシードル君と、俺の体から発せられる衝突音。


 腕や肩、脇腹にいくつか石飛礫を被弾しながらも、シードル君をクッションにして致命的なダメージは回避出来た。すぐに治るとはいえ、呻き声を出したくなるくらい1つ1つの飛礫が痛い。


「無様だな。まあ格好悪くてももうすぐ死ぬ奴には関係「土竜」が……!」


 俺はシードル君の上に乗ったまま急いで背中のリュックから杖型の魔導具を取り出し、杖の先端を地面に突いて起動させた。


 魔導具が石畳の下にある土を無理矢理吸い上げ、周囲が地盤沈下を起こしていく。数ヶ月前グリューンでも使った魔導具だ、


 前方の石飛礫、後方は土壁で自分が塞いだ。左右は家屋の壁で、俺達は空を飛べない。それなら下に逃げるしかない。


「逃すはずないだろ!」


 警備隊員が柵を乗り越えながら、もう一度石飛礫を生み出している。


 近寄ってくれるのは好都合。俺は杖を地面から離し、吸い込んだ地面を警備隊員に向かって噴出させた。


 勢いよく魔導具から飛び出た土は広範囲に拡散し、石飛礫とぶつかり合いながら警備隊員に襲いかかる。


 しかし吸い込んだ土の量が少なかったからか、警備隊員は多少痛がっただけで再び体勢を整えて向かって来た。


 もう1度土竜を使うか。いや、次の魔導具を。


「おい、ゲオルグ。面白そうだな。あたしも混ぜろよ」


 新たな魔導具を起動させようとしていた俺の頭上から女性の声が降り注ぐ。


 スタッと軽い足取りで空から降りて来たその人は、両手の掌から肩までを青い炎で包み込んでいた。




「おら!くらえ!」


 炎を纏ったバルバラさんが殴りかかる。


 警備隊員は土魔法で盾を作って防御しながら別の土魔法で反撃しているが、次第に防戦一方となってジリジリと後退し、ついには柵を背にして退路を塞がれた。


「あんた、見覚えあるな。あたしを襲って来た連中の仲間だな」


 左右の拳で小気味良く殴り続けながら、バルバラさんが声を出して笑っている。


 襲って来た相手が見つかって嬉しいのか。それとも単純に戦闘が楽しいのか分からないが。


「警備隊の制服のまま子供を襲うなんて、ゴミ屑だ、な!」


 バルバラさん渾身の右ストレートは土の盾を穿ち抜き、盾を支えていた警備隊員の腕をへし折って吹っ飛ばした。


「ぐわあああ」


 炎が衣類に引火した警備隊員は地面を転がって火を消そうと、のたうち回る。喧騒を聞いて集まっていた野次馬の何人かが、慌てて消火しようと動き出す。


 そこへ、


「水弾」


 言霊によって作られた水の弾丸が警備隊員付近の地面に着弾。石畳の地面を抉って水溜りを作り、消火を援護した。


 未だ小路で睡蓮と格闘していると思っていた連中が、いつのまにか遠回りをして、俺達の前に再び現れた。

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