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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第11章
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第83話 俺は悪い噂を耳にする

「試験を受けた記憶を失ったから後日もう1度試験を受けたい?」


 ヴォルデマー先生は教え子が怪我をしたというのに顔色ひとつ変えずに聞き返して来た。


 謎のエルフが入院患者を治療して回った翌朝、俺は登校してすぐヴォルデマー先生に事情を説明した。


「試験は既に合格している。記憶が有ろうが無かろうが、再試験する必要は無い」


 先生の仰る通り。俺もそう思う。でも本人が納得していない。


 努力の成果をもう1度試したい。努力の結果を知りたい。それを後の糧にしたい。


 そんな風に言って、記憶を失った事を苦しんでいます。どうかもう1度試験を受けさせてあげて下さい。


「言いたい事は分かった。再試験をするかどうかは本人と話して決める。他に言いたい事が無いなら、授業が始まる前に教室へ行きなさい」


 少しは心を動かせただろうか。


 俺にはこれが精一杯だ。すまないマリー。


 俺は心の中でマリーに謝罪しながら教室へ向かった。


 下を向いてとぼとぼと歩いて居たから、俺に視線が集まっているなんて気にならなかった。




「ゲオルグ君聞きましたよ!マリーさんは大丈夫なんですか?」


 教室に入るとシードル君が飛びついて来た。話を聞きたくて待っていたらしい。


 わざわざ俺を待たなくても、ミリー達だって登校前にマリーと会っているんだから、ミリー達から話を聞けば良かっただろうに。


「そのちょっとだけめんどくさそうな顔。そうですか、マリーさんは大丈夫なんですね、良かった」


 俺の表情を勝手に読み取って、シードル君は納得したようだ。


 めんどくさがったつもりは無いんだけどな。


「叔父から事件の話を聞いた時はびっくりしました。面会に行こうかとも思ったんですが、意識不明で行っても何も出来ないと言われたので、遠慮していました」


 イヴァンさんは甥っ子に対して口が軽過ぎる。それにそんな言い方したらシードル君が余計に心配するじゃないか。そして俺が絡まれるんだ。


「ゲオルグ君。今日の放課後、お見舞いに行っても大丈夫ですか?」


 それは構わないけど。


「ありがとうございます。ではまた、お昼休みの点検で」


 俺の了承を得ると、シードル君は笑顔で立ち去った。


「昼にも会うのにわざわざやって来て。待ちきれなかったんだね」


 急いで自分のクラスへ帰って行くシードル君を、ミリーが暖かく見守っていた。




 休み時間中にプフラオメ王子とローズさんがマリーの様子を聞きに来た。


 2人はマリーと同じクラスだから、担任のヴォルデマー先生から情報を得たんだろう。休んでいるマリーを随分と心配していた。


 でも、出来れば2人一緒に来てもらいたかった。違う休み時間に各々話を聞きに来るものだから、同じ話を2回する事になってしまった。


 もしかしてあの2人って仲悪いのか?




 昼休みには運営委員の面々がやって来た。


 食品管理部のマルセスさんとゲラルトさん、道具管理部のセルゲイさんの3人だ。


 この3人は校内に広がったある噂を聞いて、その真意を確かめに来たらしい。


「ゲオルグが1年生の女の子を見捨てて逃げたって話を聞いたが、嘘だよな?」


 真顔のゲラルトさんにそんな事を言われて魔導具点検の手を止めた俺は、自分の耳よりもゲラルトさんの正気を疑った。


 何だその話。明らかに嘘だろ。いったい何がどうなったらそういう噂が立つのか分からない。誰だそんな噂流した奴!


 憤慨する俺を宥めながら、ゲラルトさんが話を進める。


「今朝登校した時、別のクラスの同級生から話しかけられたんだ。運営委員の1年に酷い奴が居るんだろって言われてな」


「僕もそう。多分ゲラルトと同じ人」


「俺は同じクラスの獣人族から聞いたから、2人とは違うな」


 セルゲイさんだけ別らしい。


 出所が2つ有るって事はそれだけ噂が広がってるって事か。なんて迷惑な話だ。


「俺が聞いた話ではゲオルグと断定出来なかったけどな。昨日の夕方、女の子が襲われて大怪我する事件があって、一緒に居た男の子は助けずに走って逃げたっていう内容だった。さっきマルセスから話を聞いてゲオルグの事だったのかと気付いたんだ」


「僕が聞いた話では、『男の子は助けずに逃げた』の前に『無能の』と修飾語がついていたから。おっと、すまない」


 いえ、お気になさらず。


『無能の』といえば俺だ。はっ、わかりやすくていいね。


「俺に話をした獣人族も一般的な魔法は使えないから、意識的に『無能の』という言葉を言わなかったんだろう」


 ありがたい気遣いだけど、だったら噂を広めないで欲しいんだが。


「それで、ゲオルグの事じゃないんだよな?」


 念を押して来たゲラルトさんに違うと答え、昨日の下校してからマリーが入院した病院へ行くまでの話を掻い摘んで説明した。




「ゲオルグが走って逃げたのは本当で、逃げたのは不審者に声をかけられたから。逃げた時は女の子は襲われていなかった。それでいいんだな?」


 何度も何度も聞き返して念を押して、ゲラルトさんは漸く納得した。忙しい中魔導具点検の手を止めてまで説明したんだ。納得してくれないと困る。


「噂を最初に流した奴は故意にゲオルグを貶めようとしたんだな。胸糞悪い」


 ゲラルトさんが憤慨する。同じ食品管理部の一員だから怒ってくれているんだろうか。ちょっと小っ恥ずかしい。


「最近誰かの恨みでも買ったのかい?」


 思案顔で問い掛けて来たマルセスさんに心当たりは無いと答えたが、ふと思いついた。


「俺を恨んでいるとしたらバルバラさんくらいかと。俺のせいで停学になったわけですし」


「あー、それはないない」「そうだね、ないね」「ないな」


 3人が一斉に否定し、近くで様子を見て居たシードル君と2年の先輩もそれに賛同した。


「バルバラは脳筋だからこんな姑息な真似はしない。恨みを持ったら必ずその相手を殴りに行く」


 ゲラルトさんが笑いながら否定した内容に、俺は心の底から納得した。

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