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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第2章 俺は魔法について考察する
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第38話 俺はソゾンさんを引き留める

 父さんは姉さんの機嫌を直すために数日を要した。

 俺が変な助言をしたからだと思うと申し訳ない。


 なんとか姉さんの協力を取り付けた父さんは、すぐさま温室の建設を開始した。


 ガラスの製造は姉さんが行い、建設はソゾンさんが担当。

 父さんと母さんが交代でソゾンさんを抱え、グリューンまで飛んで行った。

 こんなところでもソゾンさんが登場。土木建設も請け負うんだね。鍛冶屋っぽくないけど、考えてみたらこれも土魔法か。


 日当りのよい場所を探して開墾し、町も広がったらしい。でも新たな問題が発生した。

 住民が高価なガラス内での作業を嫌がったり、盗賊の出没を不安がっているらしい。

 そんなことを考えずに建設を開始したからさあ大変。

 折角安くなったガラス代が新たに雇う護衛費用などで帳消しになったと父さんが嘆いていた。


 温室のガラスが盗まれるなんて想像してなかった。日本ではせいぜい作物や農具が盗まれるくらいだよな。もっとこっちの世界の常識を学ばないといけない。




「おう、ゲオルグ。頼まれとった物を持ってきたんじゃが、親父さんは居るか?」


 ある日、ソゾンさんが大きな箱を背負って家にやって来た。


「おはようございます。父さんは一昨日から領地に行って帰って来てないんです。頼まれた物ってなんですか?」


 温室の建設が終わり王都へ帰ってきたのが5日前。父さんはまだ忙しそうにしている。


「温室で使う魔導具じゃ。調子に乗って温室をいくつも建てるから、魔導具の量も増えて大変だったんじゃぞ」


 ソゾンさんは魔導具も作れるのね。もう何が出て来ても驚かないよ。


「どういう魔導具なんですか?火が出て室内を暖めるんですか?」


「実際に火を起こして燃え移ったらどうする。それに密室で火を焚くのは危険じゃぞ。これは火魔法と風魔法を使って熱風を出す魔導具。こっちは風魔法で送風と換気をする魔導具。それから、水魔法を利用して湿度を調節する魔導具。ええっとあとは」


 ちょ、ちょっと。次から次へと魔導具が出てくる。大きな物から小さな物まで。

 明らかにその箱には入りきらない量が出て来たんだけど。


「どうやってその箱に入れて来たんですか?」


「これはアイテムボックス。我が家の一室と魔法で繋げてあって、その部屋にある物をいつでも取り出せるんじゃ」


 おお、これが。そういえばドワーフ族はアイテムボックスを作れるってマギー様が言っていたような。

 四次元空間を作り出すんじゃなくて、既存の空間同士を繋げるアイテムボックスだったっけ。

 あの箱と何処かの場所が繋がっているという事か。


「もうちょっと小さな方が持ち運びし易くないですか?」


「そりゃそうじゃが、取り出し口が小さくなると大きな魔導具が取り出せなくなるからな」


「じゃあ口が伸びる布とかなら小さくても大丈夫ですか?」


「ああ、出し入れが出来るなら何でもいいんじゃ。今回はそんな布は無かったから、ぱぱっと箱を作って来た」


 なるほどね。ぱぱっと作れるなら俺も欲しい。


「アイテムボックスって簡単に作れるんですか?」


「こっちの箱はな。拠点となる方、この場合は儂の家の一室じゃが、そっちを作るのは大変じゃ。家の基礎部分から考えて作らないと駄目じゃからな。その後も何年もかけて魔法を仕込む。欲しいと思っても直ぐには出来ないぞ」


「そうですか。グリューンから作物を移動させられたら便利だと思ったんですが」


「それが出来たら便利なんじゃが、アイテムボックスを通過すると作物が傷むんじゃ。理由は我々ドワーフもよく分かっとらんのじゃが、拠点からアイテムボックスへの距離に関連して時間が経過すると言われておる。こうやって出し入れする分には時間は掛からんのじゃがな」


 そう言ってソゾンさんは右手を箱に出し入れする。手だけ老化するとかシャレにならないね。


 普段1時間掛かる距離でアイテムボックスから取り出したら、往復分が加算されて2時間経過してしまうってことかな。

 ん?

 それはどの移動手段を使った時の所要時間だ?


「例えば、拠点から歩いて1時間の距離でアイテムボックスを使用した時と、馬の速歩移動により1時間経過した地点で使った場合では、もちろん馬に乗った方が遠くまで行けますが、取り出した物にかかる時間は同じなんでしょうか」


「ゲオルグはいい所に気が付くな。学者に向いてそうじゃ。これも通説じゃが、術者の歩行速度を元に計算されていると考えられておる」


 歩きかぁ。飛行魔法で高速移動したら作物への時間経過も少なくなるかと思ったのにな。

 でも、歩きだって分かってるなら、それはそれで利用できるよね。


「上手に使えば、酒やお肉の熟成なんかが簡単に出来そうですね」


「そういう研究をしてるドワーフもおるぞ。ただ、ムラが出て安定しないと言ってたな」


 機械みたいに一定の歩行速度を持つ人なんていないから、ムラが出るのかな。

 そもそも歩行速度だけじゃない可能性もあるか。多少歩く速度にバラつきがあっても平均を考えれば、そこまで大きなムラは出来ないと思うし。

 単純な距離じゃなくて道のりが影響するのかもしれないし。


 考えだしたらどんどん複雑になっていくから、別の事を聞こう。


「手の出し入れだけじゃなくて、人が完全に通過したら一気に老け込むんですか?」


「そうじゃな。早死したくなければ、止めておいた方がええ」


 何も弊害が無ければ、とっくにアイテムボックスを使った移動手段が確立されているよね。

 他にアイテムボックスを使用すると便利なことは。


「冷蔵か冷凍してたらそのまま出てくるんですか?」


「よく色々なことが思いつくな。凍ってても溶けて出てくるぞ。燃えてても火が消えて出てくる。燃えカスになるがな」


「じゃあ金属が錆びたり、魔導具が壊れることもあるんですね」


「そういうこともあるじゃろうが、そう簡単に錆びたり壊れたりする物を作ってたら商売にならん」


「あ、すみません。ソゾンさんの腕が悪いとか思ってないです」


 ああ、しまった。考えすぎて失礼なことを言ってしまった。


「それならいいんじゃが。男爵が居ないなら儂は帰るぞ。男爵が帰って来る日が分かったら教えてくれ。魔導具の設置にグリューンへ行く前に、終わらせたい仕事があるんじゃ」


 散らばった魔導具を回収し、アイテムボックスを背負いなおして玄関に向かう。

 つい長話をしてしまったが、もう一つ聞きたいことがあるんだ。


「最後にもう一つ。ソゾンさんは火魔法が使えないと姉さんに聞いたんですが、火魔法の魔導具をどうやって作っているんですか?」


「魔導具には魔法を込めなければ動かない物と、魔力を注ぐだけで動く物があるんじゃ。儂が作っているのはどっちの魔導具か分かるな。アリーにも教えてあるから、詳しくはそっちに聞いてくれ」


 そういってソゾンさんは足早に去って行った。

 最初見た時は大きくて重そうな箱だと思ったけど、ただ空っぽの箱を背負ってるだけだったな。

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