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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第11章
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第78話 俺は心を揺れ動かされる

 走って走って大通りまで出た俺は、人混みに紛れた事で漸くその足を緩め、人の流れに身を任せた。


 仕事帰りの人々が自宅へ向かう時間帯。職場から逃げ出す人々の足並みはそれなりに速く、その流れに合わせるだけで、飛び出して来た通りからどんどん離れて行く。


 石畳の通りを鳴らす足音。歩きながら雑談に興じる人々の声。大声で客を呼び込む通り沿いの飲食店店員。人混みの騒音だけが俺の耳に入って来る。


 俺を呼ぶ謎の人物は完全に振り切ったかな?


 それでも俺は安心する事無く、通りを歩き続ける。


 立ち止まる事も、後ろを振り返る事も無く、なるべく人通りの多い通りを選んで素早く帰宅する事だけを考えていた。


 漸く我が家が見えた頃になって、マリーへの御祝品を買いに行こうとしていた事を思い出したが、今更引き返す気になれずにそのまま帰宅した。




「おかえりなさい、坊っちゃま。おや、マリーは一緒ではないのですか?」


 帰宅した俺を玄関で出迎えたルトガーさんがおかしな事を言っている。


 マリーは試験が終わったら帰るって言ってたけど?


「ゲオルグ様を迎えに行くと言って先程出て行ったんですが。すれ違いましたかね?」


 迎えに?


 朝はそんな事一言も言って無かったけど。


 まあ俺はもう学校には居ないんだし、向こうがすれ違いに気づいたら勝手に帰って来るでしょ。


 こっちがまた学校へ向かって、帰って来るマリーとすれ違ったら全く意味が無い。


 それに、今日はもう出歩きたくない気分。


「では坊っちゃまにはゆっくりしていただいて、私が学校までマリーを迎えに行って来ましょう。もしかしたら坊っちゃまを探しているかもしれないので」


 当ても無く校内を探し回るほどマリーはバカじゃない。きっと俺と同じクラスのミリー達のところへ行く。


 ミリー達が遅くまで馬術の特訓をしている事はマリーも知っているし、マリーの停学中はミリー達と一緒に帰っていたのもマリーは知っている。


 ミリー達には先に帰ると伝えてあるから、会いに行けばそれがマリーにも伝わる。で、すれ違ったと気づいたマリーは帰って来る。


 そうなると思わない?


「そうなれば良いですが、万が一の事も有ります。今は特に用事も無いので、少し行って来ますね。30分程校内をウロウロして帰って来ます」


 老婆心に終わると思うよ?


 俺の忠告に耳を貸さず、ルトガーさんはそのまま玄関を出て空へ飛び立って行った。


 まあいっか。俺が何かするわけじゃないしな。ルトガーさんがそれで納得するならそれでいい。


 それよりも、道端で誰かに声をかけられた事を聞いて欲しかったな。


 走って逃げて結局何も無かったんだけど、誰かに話して小さく湧いた恐怖心を晴したかった。


 気のせいだとかなんでもないとか、そんな簡単な言葉で良いから聞きたかった。


 ルトガーさんは適役だったんだけど出て行ってしまった。後は父さんか、母さんか。姉さんも一応数に入れよう。


 すれ違ったメイドさんに3人の所在を確認する。


 父さんはまだ仕事。姉さんもまだ帰ってない。珍しくサクラが熱を出したとかで、母さんはカエデも連れてニコルさんの診療所。


 サクラの熱も気になるが、ニコルさんが診れば問題無いだろう。俺が出向いて出来る事は無いし、診療所まで押しかけて話を聞いてもらおうとするのはちょっと空気が読めてない。


 3人のうち誰かが、いや、ルトガーさんが帰って来るまで待つか。


「ゲオルグ様、たった今浴槽を綺麗にしたばかりなんですけど、お風呂に入りますか?汗をかいてお疲れのようですし、お湯に浸かってゆっくりされては?」


 腰を折りながら俺の顔を覗き込んで、メイドさんが優しく微笑んだ。


 そういえば前髪が額に張り付いているし、リュックと背中に挟まれた服が汗で湿って気持ち悪い。疲れは回復してるんだけどな。


 他人に指摘されるまで自分の様子に気がつかないほど周りが見えていなかった事に内心苦笑しながら、俺はメイドさんにお風呂の用意をお願いした。




 スッキリ汗を流してお風呂を出た頃、ルトガーさんは学校から帰って来ていた。


 マリーには出会えなかったらしい。


 ミリー達を探して話を聞いたが、ミリー達もマリーには会っていないとか。


 まったく。あの娘はルトガーさんに心配させて、どこで道草食ってるんだ。


「何か、マリーの行くようなところに心当たりは有りませんか?」


 そう言われても、何も無い。


「坊っちゃまの帰りを待てずに出て行ったマリーが、坊っちゃまと関係無い場所へ向かうとは思えないのですが。あんなに楽しそうにしてたのに」


 楽しそうって事は、ヴォルデマー先生の試験には受かったのかな。


 停学中、ルトガーさんは時間が有ればマリーに帝王学を教えていたらしいから、今日はその教え子の様子が特に気にかかるのかもしれない。普段ならそんなに気にかけてないもんな。


 心当たりねぇ。


 もう1度考え直した時、1つ気になった事が有ったと思い出した。


 そういえば、教室を出る前にマリーの声が聞こえた気がしたけど、もしかしてあの時既に近くに居た?


 どこかに隠れて、俺を驚かそうとしたとか?


 有りえる。姉さんの悪影響で、マリーは偶にそういう悪戯をして楽しむ。


 でも教室では出て来なかった。ミリーと俺の会話を聞いた後、俺を尾行して何を買うか確認しようとしていたとか?


 そうマリーの行動を推察した時、玄関扉の呼び鈴が鳴らされた。


 マリーらしき女の子が意識不明の重体で病院に担ぎ込まれた。身元確認の為に同行して欲しい。


 ダミアンさんの部下を名乗った王都警備隊員が言ったその内容は俺の心を激しく揺れ動かし、気が付くと俺は隊員に掴みかかって、何があったんだと叫んでいた。

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