第67話 俺は2夜連続で辛い夜食を食べる
「おはよう、ゲオルグは今日も眠そうだね」
いつもの登校時間に顔を合わせたミリーが、俺の顔を覗き込んで来た。
「忙しくてもちゃんと寝ないと体に悪いよ。私なんてカチヤ先生の特訓で毎日ヘトヘトで、昨日なんて夕食食べながら寝ちゃって、スープ皿をひっくり返しちゃったらしいよ。私は寝てたんだけど」
頭をポリポリと掻きながら、ミリーは自分の失態を恥ずかしそうに告白した。
「そのままアランにベッドまで運ばれて、朝までベッドでぐっすり。いっぱい寝たから頭も体もスッキリ。特訓に向けて体調バッチリ。今日も頑張るよ!」
韻を踏みながら楽しそうに話すミリーを、俺は正直羨ましく思った。
俺も朝までぐっすり寝たかった。
徹夜するつもりは全く無かったのに、昨晩の姉さんはいつも以上に興奮して、今のミリーよりももっともっと楽しそうにして。
もう眠りたいとは言えずに、俺は朝を迎えたんだ。
昨晩、料理長に夜食を頼むと言って出て行った姉さんは、30分程して漸く俺の部屋に帰って来た。
「さて問題です。私は今、何個の魔導具を装備しているでしょうか!?」
態々厚手の服に着替えて、リュックまで背負って戻って来た姉さんをじっと見つめる。
ワクワクした表情を見せる姉さんは、俺が答えるまで話を進めないつもりだ。
目に見える範囲でそれっぽいのは片耳に付けているイヤリング。それから態とらしく上着の上に出しているネックレスに両手首のブレスレット。アンクレットもあるな。
ざっと見て6個。明らかに着膨れしている長袖長裾の衣類の下やポケットに隠してあるかもと仮定して少し多めに答えるか。
「10個」
あてずっぽうでキリの良い数字を答えると、
「…………残念!」
姉さんはたっぷりと時間をとって、首を横に振った。
「答えは52個だよ」
は?
「本当はもっと装備したかったんだけど、去年は時間が無くて用意出来なくてね」
そう言いながら、姉さんは長袖の上着と長ズボンをささっと手早く脱いだ。
サイズを少しずつ変えたアンクレットとブレスレットが合計20個。
両肩に1本ずつショルダーベルトを身につけ、それに小さな魔石が10個ずつ。
更に短パンを止めるベルトにも魔石が10個。
最後に上着の上に出していたネックレス、で合計51個。もう1個はどこだろう。
それにしてもなんだその数。
というかショルダーベルトと腰のベルトは、それぞれ1つの魔導具になるんじゃない?
「ベルトに付いている魔石1つ1つが勿論別の魔導具。全部遠距離魔法を放つよ」
一見魔導具っぽくはない。ただベルトに魔石を取り付けて運んでるだけのように見える。
「私はあの時まだ『魔法が使えなくなっている』ってバラしてなかったから、大っぴらに魔道具に頼る訳にはいかなかったでしょ。だから服の下に隠してたの。でも私が魔導具を作ってるのはみんな知ってたから少しは見せて」
多彩な魔法を使えた姉さんが数種類の魔法しか使わないのはおかしい、って考えは理解出来るけど、それにしても持ち込み過ぎじゃない?
「1試合で全部の魔石を使い切る事は無かったけどね。でも、リュックも持ち込んだから、使い切ったとしてもまだまだ魔導具は取り出せるよ」
え?リュックも有りなの?
「リュックも村の倉庫と繋がっている魔導具だもの。大丈夫だよ。魔導具じゃなくても、剣や盾を持ち込む人も居たしね」
なるほど。リュックを入れて52個か。
リュックの持ち込みが可能なら、俺も色々出来る事が増える。
「服の下の魔石だけど、右手を伸ばした先に魔法を発動させるのが怪しまれないコツ。おへそから火球を放つ人は変でしょ?」
ははは、姉さんならやりそうだけどね。
始めはそれなりに楽しかった。1つ1つ違う魔法を放つドワーフ言語を考えた姉さんに、凄いなと感心もした。
でも、そこからが長かった。
「でね、別のトーナメントを勝ち上がって来たバルバラと決勝戦で闘ったんだけど。バルバラとの闘いは詳しく話さない方がいいかな。相手の戦法を知らずに闘った方が楽しいもんね」
うん、知らなくていいです。もう限界なんで終わらせてください。
魔導具の説明を終え、去年の個人戦トーナメントの話が始まり、それが延々と続いて漸く決勝戦。
日付はとっくに変わり、途中で夜食休憩を挟んで、時刻はもう3時を過ぎている。
流石にもうキツい。そろそろ寝たい。6時にはラジオ体操が始まってしまう。
だから、これ以上詳しく試合内容を話さなくていいから終わりにして欲しい。
「それで、辛くもバルバラに勝って優勝したんだ。で、翌々日に学年別優勝者同士が戦う王座決定戦が始まったんだけどね。それが優勝者全員と戦う総当たり戦だからまた大変で。特にキーファーとの無敗同士の最終試合が強烈で」
姉さんの勢いは全く衰えず、4試合全てを事細かく話した。
俺は半分くらい意識を失いつつも、折角秘密主義の姉さんが色々話してくれているんだからと、必死に相槌を打って聞いているフリをして過ごした。




