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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第11章
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第64話 俺はバルバラさんに待ち伏せされる

 放課後に行われた出店申請者との面接は、何も問題無く終わった。


 面接中、俺は特に発言する事無く、部長が申請者と話す内容をじっと聞いていただけ。


 さすが去年も出店していた人達。みんなしっかり部長の質問に対応していた。


 そして、エマさんは今日も素敵な笑顔だった。目が合って微笑まれて以来、俺の心はエマさんにガッツリと掴まれてしまった。


 しかし、久し振りにエマさんと会えて気分が良かったのに、


「おう、漸く終わったか。ちょっと顔貸しな」


 面接が終わって部屋から出たところで、バルバラさんに捕まった。


 エマさんの笑顔に浮かれて、この人に出会う可能性をすっかり忘れていた。


 ああ、エマさんの可愛らしく上品な笑顔が、バルバラさんのニヤリと鋭く口角を上げた下品な笑顔に塗り替えられていく。


 あっ、そうだ。今晩鷹揚亭に食事に行こう。もう一度エマさんの笑顔で塗り替えてやろう。


「おい、なに天井を見上げてぼーっとしてるんだ。話聞いてたか?」


 両肩を捕まれガシガシと前後に揺さぶられる。


 聞きたくないから聞こえないフリをしてるのを察して欲しい。


「バルバラさん、うちの可愛い1年生を虐めないで貰えますか?」


 無言で揺さぶられるままになっている俺を止めてくれたのはマルセスさんだった。


「もうそっちの用事は終わったんだろ?これからはあたしの時間だ」


 バルバラさんの時間ってなんですか?俺の時間はどこへ行ったんですか?


「今まで我慢して待ってたんだ。待ってた時間を返してもらう時間だ。嫌とは言わせないぞ」


 その理屈が全くわからない。自分勝手過ぎる。


 マルセスさん、助けてください。


「ゲオルグ君には明日も働いてもらわないといけないんです。だから、蹴って殴ってボロボロにされては困るんですが」


 ボロボロって何!?


「流石にそこまではしねえよ。ただ、ちょっと話をするだけだ」


 若干言い淀んで答えたバルバラさんに、マルセスさんは優しく微笑んだ。


「なら安心ですね。では僕は商会との交渉へ急ぎます。ゲオルグ君、また明日」


 去って行くマルセスさんの背中に向かって、バルバラさんが舌打ちをする。


 マルセスさんにも聞こえる程の大きなものだったが、マルセスさんはそのまま歩き去った。


「あたしはアイツが苦手だ。いつも真面目ぶって、良い子ちゃんぶって、あたしに反抗して来る」


 マルセスさんの姿が見えなくなっても、バルバラさんはまだその方向を睨み続けている。


 マルセスさんは優しい人ですよ。反抗されるような事をしなきゃいいんじゃないでしょうか?


「五月蝿い。もう行くぞ。黙ってついて来い」


 逃げないようにと俺の手首を握ったバルバラさんは、イライラを発散するかのように力強く足を踏み鳴らした。




 バルバラさんに連れられてやって来たのは、道具管理部が使っている部屋だった。


 中で待っていたのは、姉さんとセルゲイさんだ。


「ゲオルグ、おつかれ。出店申請はみんな通った?」


 姉さんに先程の面接結果を聞かれ、4人とも問題無かったと答えが、


「そんなどうでもいい話は後にしろ」


 短気なバルバラさんが姉さんに向かって吠える。もう数秒も待てないらしい。


 でも握られてる手首が痛いから、俺も早く始めて欲しいと思う。


「じゃあ、始めちゃおうっか。2人はこれ着けて。着けたら1回電気消すからね」


 姉さんが俺達に手渡して来たのは、眼鏡。レンズが黒いサングラスだ。


 言われた通りに眼鏡を着ける。視界が黒く、見え辛くなる。これで更に部屋の電気も消すって?


 電気が消える。まだ薄らと部屋の状況は見えている。扉の隙間から廊下の明かりが入って来ているようだ。


 姉さんはその僅かな明かりを消す為に、扉全体を何かで覆った。黒い布でも扉の上から垂らしたんだろう。


 姉さんがゴソゴソと作業している間、俺は手首の痛みを必死に耐えていた。


 手首を握るバルバラさんがどんどん力を入れて来る。痛いですよと言っても聞いてくれない。


 手が壊れる。そろそろ無理矢理引き剥がす努力をしようかと思ったところで、


「じゃあこれから、魔石の劣化について話すね」


 姉さんの声が聞こえたからか、バルバラさんは手首を握る力をふっと緩めた。


 俺はその力の変化を察して腕を引き、バルバラさんの拘束を抜け出した。


「まず、これを起動します」


 姉さんの言葉と共に、室内に明かりが広がる。


 机の上に置かれた小さな箱から強烈な光が発せられている。サングラスをしていてもその光の強さに目を瞑りたくなる程だ。


 発せられた光は一定の方向に向かって真っ直ぐ進み、真っ白な部屋の壁を円形に照らした。


「この強力な光を放つ火魔法の魔導具に、魔石を1つ入れます。これは冒険者ギルドで買って来た火魔法の魔石。一昨日入荷したばかりの新品ね」


 箱に入って来た火魔法の魔石に光がぶつかり、真っ白な壁が薄い赤に染まった。


「次は別の魔石。これはうちのフライヤーで長年使ってた火魔法の魔石。つまり中古品」


 魔石を入れ替える。中古の魔石に光が当たる。


 すると壁は先程の赤より暗く、ブツブツというかガサガサというか、明るい赤と暗い赤がモザイク状に照らし出された。


「魔石が劣化すると少しづつ内部構造が変化して行くの。劣化した部分は光を通し辛くなる。まあここまで劣化すると、光を当てなくても目視で誰でも分かるけどね」


 光を当てて判定?


 俺は姉さんが用意した魔導具に、単純に驚かされていた。


「で、本題は、ゲオルグが交換した方がいいと判定した魔石はどうかって事ね」


 俺が調べた魔石は水属性。水属性の魔石は黒。真っ白な壁は新品の魔石なら、水墨画のような、薄い灰色に照らされる筈。


 中古の魔石を取り外した姉さんは、別の魔石を魔道具に入れた。


 案の定、壁は灰色。


 しかし、その灰色の壁に1箇所だけ、ほんの僅かに色の濃い部分が映し出されていた。

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