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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第11章
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第63話 俺は多数決投票に参加する

 昼前に有った文学の授業を全て睡眠時間に費やした俺は、すっきりとした気分で昼食を平らげ、食品管理部の会議へ向かった。


 会議が行われる部屋には、過半数以上の部員が集まっていた。


 既に席に着いているゲラルトさんは腕組みして目を瞑っているが、眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。


 また機嫌が悪いのかな?


 あの人には触れない方が良さそうだ。ゲラルトさんからはなるべく遠い場所を選んで座ろう。


 それから数分後に全員が集まり、更に遅れて姉さんが到着し、会議が始まった。




「アリーさん、すまない!俺が余計な事を口走ったばかりに」


 議題の口火を切ったのはゲラルトさんだった。


 立ち上がり、姉さんに向かって深々と頭を下げ、自分の失態を謝罪する。


「僕からも謝罪させてください。部下を管理出来ず、申し訳ありません」


 部長のマルセスさんもゲラルトさんに倣う。


 そんな2人の謝罪を姉さんは軽く笑い飛ばした。


「向こうが一枚上手だっただけだよ。過ぎた事は気にしない気にしない。それよりも、これからどうしようと思ってる?」


 笑顔で問いかけた姉さんに、ゲラルトさんがすぐさま反応する。


「もう一度会いに行って別の条件を引き出す」


 それに対してマルセスさんは、


「別の商会と交渉します」


 ゲラルトさんとは異なる案を口にした。


 意見の食い違った2人が睨み合い、場の空気が悪くなり始める。


「アグネスはどう思う?」


「えっ、私ですか?」


 2人を止めようと腰を浮かせたアグネスさんは、急に話を振られて一瞬戸惑ったが、


「私は、アリー様のお母様に現在東方伯家お抱えとなっている商会を紹介してもらうのがいいかと」


 2人とはまた違う考えを述べた。


「しょうかいをしょうかいって、洒落が効いてるな」


 ゲラルトさんが茶々を入れる。それは俺も思ったけど、弄っちゃいけないところだろ。


「次に交渉する商会の目処は付けてある。僕はまだ、部外者を頼りたくない」


「でも、早く終わらせて小麦粉の価格を決めないと、出店希望者をずっと待たせる事に」


 マルセスさんに案を否定されたアグネスさんは、自分の意見の正当性を主張した。


「面接はまだ待たせても大丈夫だ。今日の放課後、4人の面接が終わったら僕1人で交渉して来る。そこがダメならまた別の商会に行く」


「なんでマルセスだけで行くんだよ。行くなら俺達も行くぞ」


「ゲラルトが居ては交渉の邪魔だ。お前はこっちよりも先に、自分の両親を説得したらどうだ?」


「言われなくても毎晩説得してる」


 再び2人の間に緊張が走ったが、


「はいはい、喧嘩は後で2人きりの時にやってね。他に、3人とは違う提案があるよって人は居る?」


 今度も姉さんの言葉で2人は矛を収めた。


 しかし、姉さんの問い掛けには誰も反応しない。


「3つの案のどれかと一緒の考えって事でいいのかな。じゃあ、残った7人で多数決を取ってみようか。投票用紙を準備するからちょっと待ってね」


 姉さんがどんどん話を進める。いつの間にか姉さんが司会のようになってしまった。


 まあ最上級生のマルセスさんとゲラルトさんが対立してるから、別の人間が司会した方が良いんだろうな。


 しかし投票か。誰を選ぼうかな。


 リュックサックから色々と取り出している姉さんを見ながら、誰に投票しようかと自分の気持ちを確かめた。




「多数決の結果、マルセスに4票、アグネスに3票入ったね」


「おいお前ら、俺も参加してたんだぞ。俺の存在を忘れて投票したんだよな?」


 獲得票数0に終わったゲラルトさんが、再投票させようと醜く抗っている。


 残念ながら再投票しても結果は変わらないだろう。


 ゲラルトさんの案が1番現実的じゃないと思う。東方伯と繋がる絶好の機会、向こうの商会はきっと折れない。


 因みに俺はアグネスさんに票を入れた。早く契約した方が良いという意見に賛同したし、向こうの商会との交渉に負けて母さんを利用するくらいなら自分達発進で利用する方が良い。


「この結果をどう判断するかはマルセスに任せるよ」


 ここで姉さんが司会をマルセスさんに手渡す。


 姉さんが勝手に始めた多数決で1票差だが、勝ちは勝ち。マルセスさんは自分の意見を押し通す事も出来る。部長としてどうするか。


「では今日1日だけ、僕の案で行きます。今日の交渉でダメだったらアグネスの案を、と思いますが。アリーさんはそれで大丈夫ですか?」


「みんなで決めた事なら、私は反対しないよ。ただ母様へ話すのはゲオルグに任せるからね」


 えっ、俺?


「ゲオルグだって食品管理部の一員なんだからそれくらいやらないと」


 いやまあ、急に言われてびっくりしただけで。


 そういう状況になれば、母さんとしっかり話します。


「うん、頑張って。じゃあ、私は別件が有るから先に出るね」


「アリーさん、ありがとうございました。ではこれから、放課後に面接する出店者の書類をもう1度見直して、安全管理について再確認しよう」


 姉さんが出て行った後、ゲラルトさんが多少不満を口にして場の空気を悪くしたが、今朝の予想に反してバルバラさんは突撃して来なかった。

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