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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第11章
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第61話 俺は魔石への刻字に集中する

 2度目のノックに反応して部屋の扉を開ける。


 廊下に立っていたマリーは、2本のナイフをこちらに差し出して来た。


「アリー様から刻字用のナイフを借りて来ました。魔力は十分込めてあります。ゲオルグ様のナイフの魔力が切れたらこれを使ってください」


 おお、気が効くじゃないか。ありがとう。


「魔力切れの度に呼び出されるのを面倒に思っただけですよ。私も深夜まで勉強する予定なので邪魔しないでくださいね」


 ははは、邪魔だなんて。


「では、私はこれで。もし追加の魔力補充が必要なら夜食の時間に行います。頑張ってください」


 ああ、ありがとう。


 魔力補充はマリーじゃなくても出来るけど。


 そんな言葉は飲み込んで、自室へ向かって行くマリーを見送った。


 もう誰も来ないよな。


 邪魔とまでは言わないけど、集中してやろうとした時にノックされるとやる気を削がれちゃうからな。


 俺は3分程その場で待機し、誰も来ない事を確認して作業を始めた。




 20時前から黙々と作業を続けて早くも日を跨いだ。


 一度トイレ休憩を挟んで、刻字を終えた魔石は5つ。


 4時間ちょっとで5つは、思ったより時間が掛かってる。


 バルバラさんに文句を言われないようにと、ちょっと慎重にやり過ぎたかも。


 少し急ぎ目にやらないと明け方になっても終わらないぞ。


 頑張ろう。




 6個目の作業を終え、7個目も佳境になった頃、三たび部屋の扉がノックされた。


 時刻は1時半を回ってる。誰だこんな時間に。


 俺は作業を続けながら、声だけでどうぞと返事した。もう少しで終わるから、この魔石の作業は終わらせたい。


 俺の声に反応して、視界の端で部屋の扉がゆっくりと開く。


 が、開いた扉はそのままゆっくりと閉められた。


 誰も室内に入って来ない。開けた扉から向こうも俺の姿が見えたんだろう。作業を続けている俺を見て帰って行ったようだ。


 多分マリーだろう。ちょっと集中力を切らされたが、そのまま放っておいてもらえるのはありがたい。


 俺はそのまま作業を続け、8個目の魔石まで終わらせた。




 8個目が終わると集中していた感覚が完全に途切れ、喉が渇きを訴えて来た。


 細かい文字を凝視し続けた疲労からか、視覚の焦点が合い辛くなっている。そろそろ長めの休憩を取ろう。


 魔力が切れたナイフを1本ズボンのポケットに入れて部屋を出る。


 取り敢えずトイレで用を足して、食堂へ向かう。


 時刻は2時過ぎ。流石にマリーも起きてないかもしれないと思ったら、食堂には明かりが灯っていた。


「お疲れ様です」


 食堂に入った俺を、食卓に着いて本を読んでいたマリーが出迎えた。


「こんな時間まで起きてて大丈夫か?明日の授業で居眠りしちゃうぞ」


 食卓を通り過ぎて調理場に向かいながら、マリーに話しかける。


 俺を待っていてくれたのは分かってるが、なんとなく小っ恥ずかしくなって素直にありがとうとは言えなかった。


「勉強に飽きて読書を始めたら止まらなくなっちゃいまして。今スープを温め直すのでちょっと待っててください」


 読んでいた本をパタリと閉じて立ち上がったマリーは、俺を無理矢理食卓の椅子に座らせて調理場へ向かって行った。


 食卓に置かれた本の題名が目に入る。


『帝王学の真理』


 なんだその全く興味が引かれないタイトルは。明らかに娯楽じゃなくて勉強用だろう。


 俺なら一瞬で飽きて、1ページも読み進められないだろうな。


 しかしやる事もなく椅子に座ってると、今まで感じてなかった眠気がぐわっと襲って来る。


 無言でじっとしてるとダメだ。体を動かそう。


 まずは手を上に挙げて背伸びの運動から。


 俺は立ち上がって、眠気を覚ます為にラジオ体操を始めた。




「どうぞ。スパイスたっぷりオニオンスープと、肉辛味噌焼きおにぎりです」


 眠気に耐えながら行っていたラジオ体操第一の4周目中盤、マリーが夜食を食卓に置いた。


 焼けた味噌が良い具合に食欲を唆る。でもおにぎりは1つか。スープは大きな深皿になみなみと注がれてるのに。


「1時間程前にアリー様も食べに来たので、申し訳ありませんがおかわりは無しです。パンとかベーコンは有りますが」


 いや、食べ過ぎると眠くなりそうだし、これだけで良いや。


「では、ナイフを貸してください。魔力を込めますので」


 ポケットからナイフを取り出し、マリーに渡す。


 姉さんは夜食を食べて何かやってるのかな?


「さあ。忙しい忙しい、とは仰ってましたが。因みにクロエさんはいらっしゃいませんでした」


 マリーはナイフに装着されている魔石に魔力を送りながら答える。


 まあ秘密主義の姉さんがそう簡単に漏らさないか。寝る前に腹が空いただけかもしれないしな。


「私はもう寝ますね。調理場の流しに小さな桶を置いて水を溜めています。食べ終わった食器類はその中へ入れておいてくださいと料理長が」


 うん、おやすみ。それと、遅くまでありがとう。


「はい。おやすみなさい」


 割と分厚い帝王学の本を抱えたマリーが食堂を出て行った後、暖かいオニオンスープをスプーンで掬って口に運ぶ。


 これは、美味いけど。


 うん、すごく辛い。


 俺は調理場へ水を汲みに行きながら、眠気を覚ます為に辛くしてくれ、と言った事を少し後悔していた。

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