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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第11章
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第59話 俺は点検結果を証明しろと迫られる

「バルバラさんは、魔導具に使われている魔石を交換しなきゃいけなくなる理由って知ってますか?」


 魔石を交換する必要性を説明しろと言って来たバルバラさんに、俺は基本的な質問を投げ掛けた。


「知らん」


 素っ気無い様子で即答したバルバラさんは、後は任せたとセルゲイさんの後ろに回る。


「衝撃や経年劣化もしくは魔力注入過多による魔石の破損。それに由来するドワーフ言語の欠損」


 バルバラさんに背中を押されたセルゲイさんが俺の質問に答えた。的確な回答だ。


「セルゲイさんの仰る通りです。魔石に書かれているドワーフ言語の文字列が欠けて意味を成さなくなると魔導具は正常に動きません。なので魔石を交換する必要が有ります」


「だが俺が見る限り、ドワーフ言語は欠けていなかった。あれくらい小さな魔石に書かれた言語の量なら見間違えない」


 セルゲイさんは自信有り気に胸を張っている。


 セルゲイさんの言う通り、俺が点検して排除したどの魔石も、ドワーフ言語は欠けていなかった。


 あの魔石を魔導具にセットして魔力を込めると、まだ動く。まだ大丈夫。まだ働く。


「しかし、魔導具が正常に働かなくなってから魔石を交換しても遅い、と僕は考えました」


 そう。『まだ』動く、『まだ』大丈夫、『まだ』働く、なんだよ。


「僕は食品管理部に属していますが、そこが1番大切にしている理念は安全性です。火事を出さない。食中毒を出さない。安全性を最も気に掛けて大会運営に取り組んでいます」


 その通りだ、と豪快に笑うゲラルトさんの笑顔が脳裏に浮かんだ。


 そういえば、ゲラルトさんとマルセスさんは仲直りしたんだろうか。


「僕が今日検査した2種の魔導具は、どちらも食材の保存に使われる魔導具です。6月末の暑い日に、その2種の魔導具が故障して保存していた食材が駄目になり、誰かがそれを口にしてから魔石を交換しては遅いんです」


「マルセスの理念は立派だが、話をすり替えるな。魔石交換の必要性を証明しろ」


 バルバラさんが青筋を浮かべている。長話は嫌いなようだ。


「魔石が劣化していると感じた。魔石に違和感を覚えたから排除した。不安な魔石は使えない。それが理由です。勘ですから、魔石が劣化してるとは証明出来ません」


「長々と喋ってそれか。それでは信用出来ないと」


「信用しないのはそちらの自由です」


 不機嫌さを隠さないバルバラさんを俺は睨み付けた。


「信用出来ないのならそのまま使ったら良い。ただし、貸し出し中に何か問題が起きても食品管理部は責任を負いません」


「お前にそんな事を決める権利は無いだろ。部長はマルセスだ」


「まあまあまあ。バルバラもゲオルグもちょっと落ち着こうか」


 睨み合う俺達の視線に割って入った姉さんは、両口角を吊り上げて笑っていた。


「どけっ、アリー!あの生意気な小僧に一発加えてやる!」


「あー、自分の思い通りにいかないからって暴力に訴える気ですか。野蛮ですねー」


「2人とも、黙れ」


 声色を低く変えても姉さんは笑顔を崩さない。


「ゲオルグ。武闘大会の個人戦に選ばれたよね?」


 選ばれたけど、なんで知ってんの?


「良かったねバルバラ。武闘大会で、観客みんなの前で合法的にぶん殴れるよ」


「何が良かったね、だ。1年と5年じゃ優勝者同士しか戦えないだろうが」


「ゲオルグは1年の部で優勝するよ。ああ、バルバラが優勝する自信が無いんだね。私が居るから」


「はっ。魔法が使えなくなったお前は今年は1回戦負けだ。参加者全員お前の首を狙ってるぞ。さっさとその綺麗な首を差し出せ、前回優勝者」


「それは光栄だね。本番が楽しみ。バルバラも私と当たるまで負けないように。可愛い弟を虐めた罪は試合で払ってもらうから」


「望む所だ。返り討ちにしてやるよ」


 バルバラさんの矛先は簡単に姉さんへと向かっていった。単純だな。


 俺もムキにならずにもうちょっと頭を使っておけば、バルバラさんの意識を別の事に向けられただろうか。


 未だに言い合いを続けている姉さん達は放っておいて、俺はこの状況をどう処理するか考えよう




「では、こうしましょう。ちょっと話を止めてもらえますか?」


 考えが纏まったところで、俺は漸く姉さん達の言い合いを止めに入った。


 セルゲイさん達道具管理部の5人も姉さん達を無視して他の作業を進めていた。チラッと見た感じ、光を出す魔導具の設計だろう。


「あの12個の魔導具は僕が自費で買い取ります。で、明日の放課後までに新しい12個の魔石を用意し、ドワーフ言語もキッチリ書いて渡します。武闘大会にはそちらを使ってください」


 俺が提案した折衷案は、


「ダメだ」


 バルバラさんには受け入れられなかった。


「何が御不満ですか?」


「もしかしたらその魔石が重要な不正の証拠になるかもしれないから、渡すわけにはいかない」


 何が不正なんだか。


「それならその魔石はバルバラさんが管理してください。僕が持っていてもどうせ破棄するだけなので。新しい魔石は明日中にキッチリ用意します。では、今日はこれで失礼します」


「ちょっと待て!まだ話は終わってないぞ!」


 姉さんに体を抑えられながらも大声で引き留めようとするバルバラさんを無視して、俺は1人で部屋を出た。


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