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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第11章
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第57話 俺は食品管理部の緊急会議に参加する

 呼びに来てくれたレオノーラさんと一緒に武闘大会運営委員会が使っている教室に入ると、食品管理部のみんなは既に集合していて、届けられた出店申請書類に目を通していた。


「仕事中に呼び出して悪かったね。魔導具の様子はどうだい?」


 部長のマルセスさんが複写した申請書類の束を俺に手渡しながら聞いて来た。


 2種類の氷結魔法の魔導具を点検したが、冷凍の魔導具は思ったより魔石交換が必要だった。


「そうか、ありがとう。2人が書類に目を通し終えたら会議を始めるから、よろしく」


 マルセスさんから手渡された書類は5枚有った。


 昨日の今日で、早くも5件か。俺は近場の椅子に座って、その書類をパラパラと捲った。


 責任者5名のうち5年生が4人、4年生が1人。


 勿論エマさんの名前も有る。今年も唐揚げの屋台だ。絶対に申請を通して食べに行こう。


「甘いドーナツ、豚肉の串焼き、唐揚げ串、果実水、かき氷。どれも去年と一緒で代わり映えしないな」


 書類を見終わったらしいゲラルトさんが不満顔をしてぼやいた。


 誰もそのぼやきには反応せず、ゲラルトさんは放置されている。


 今日のゲラルトさんはご機嫌斜め。挨拶をしても「おう」としか返さない刺々しい態度で、昨日の陽気な人物と同じ人とは思えないほどだ。


 御両親の説得が上手く行ってないからなんだろうが、少しは隠す努力をして欲しいものだ。




 俺とレオノーラさんが書類を見終わったのを確認して、マルセスさんが会議を始めた。


「この5件は去年も出店していて、出店中の安全管理は問題無く信頼性は高い。特に書類上の不備が無ければ明日面接をする予定だが、皆は何か意見有るか?」


「面白みに欠ける」


 マルセスさんの問い掛けに、ゲラルトさんがぶっきら棒な態度で答えた。


「他に意見は?」


「去年も食った。味は、まあまあ」


「他は?」


「だがもっと安くしないと腹一杯食えない。もっと安くしろ」


「分かった分かった。ゲラルトはもう帰っていいから、明日までよく考えて意見を纏めて来てくれ」


 明らかに八つ当たりしているゲラルトさんに、とうとうマルセスさんがキレて退場を命じた。冷静な口調を維持しようとしているが、僅かに語気が上がっている。


「なんでだよ、俺を除け者にするんじゃねえよ」


「だったら大人しくしてろ。ゲラルトの怒気のせいで下級生が萎縮する。お前の意見もちゃんと聞くが、俺は皆の意見が欲しいんだ」


「誰一人意見を言おうとしてないが?」


「だからそれは、ゲラルトの態度のせいだ、っつってんだろ」


「まあまあまあ。マルセスさん、落ち着いてください。喧嘩したらもう会議は進まなくなりますよ」


 ゲラルトさんの胸ぐらを掴もうとした伸ばしたマルセスさんの手をアグネスさんが掴んで、2人の間に体を割り込ませた。




 マルセスさんは頭を冷やすと言って教室を出て行った。


 アグネスさんはゲラルトさんを教室の隅へ引っ張って行き、説教を始めている。


 喧嘩は発生しなかったが、3人が抜けた事で会議は止まってしまった。


 会議をしないなら帰る、というわけにもいかず、残されたみんなは沈黙を保ったまま書類を見つめている。


 しかし何度見直しても特に気になる点は見つからない。


 誤字脱字も無いし、調理に必要な食材や魔導具の申請も問題がなさそうだ。


「すみません、発言しても良いですか?」


 問題無いなと俺が結論づけようとした時、3年生のカトリンさんが遠慮がちに手を挙げた。


 東方伯の資金援助でこの学校に通っているという女の子だ。


「どうぞ」


 会議の輪から離れた3人に変わって、最年長のクロエさんが発言を促した。


「このドーナツに使っている小麦粉、なんですけど」


 カトリンさんが1枚の出店書類を指差す。


「東方伯領の小麦ならもうちょっと安く購入出来ると思います」


 なるほど、仕入れ値に目を付けたのか。


 仕入れ値や売値は去年と一緒だったから俺は気にしなかったけど、農家出身だから小麦粉が気になったのかな。


 でも東方伯領の小麦を使うのは姉さんが嫌がるだろう。東方伯と僅かに関わるだけでも、姉さんは顔を顰める筈だ。


「残念ながら東方伯領の小麦粉を取り扱う商会とは取引が有りませんし、小麦粉は全てヴルツェル産の物を購入しています。それに昨日ヴルツェルフリーグ家の商会へ挨拶に行って、今年の取引も確約したばかり。それでもカトリンさんは東方伯領産を勧めますか?」


 姉さんの事情には触れず、過去取引が有った商会をそのまま利用した方がいいとクロエさんは反対した。


 しかし、クロエさんがヴルツェル出身だからそちらを優遇している、と思うのは俺の邪推だろうか。


「ゲラルトさんの「腹一杯食える程安くしたい」という意見は私も賛成です。もっと安く買える小麦粉が有るなら、そちらを使うべきです」


 カトリンさんも簡単には引かなかった。


 2人の意見聞いて、別の先輩が手を挙げた。


「安くなるのは僕も賛成だけど、小麦は産地が変われば味が変わる。東方伯領産は秋に種を撒く秋小麦。ヴルツェル産は春に種を蒔く春小麦だから全く違う。更に、このドーナツはヴルツェル産小麦で粘りの強いハルト種と、同じくヴルツェル産で粘りの弱いヴァイヒ種の2種類を配合して生地を作っていた筈。これから東方伯領産に切り替えて配合をやり直させるのは大変じゃないかな?」


 3年生のモーリッツさんが意見する。実家が酒場を経営しているって言ってたっけ。モーリッツさんは料理関係に強いようだ。


「そっか、ハルト小麦とヴァイヒ小麦。その2種が東方伯領で作っている小麦と味が違うのは私も知ってる」


「あっ、でも去年はハンバーガーを出す店があったし、ああいうパン系に使う小麦粉なら安い東方伯領産の方が良いんじゃないかな」


 肩を落としたカトリンさんを見て、モーリッツさんが慌てて付け加えた。


「分かった。マルセスさんが戻って来たらもう1度提案してみて」


 クロエさんはそれ以上否定せず、判断を部長に丸投げした。


 それからマルセスさんが帰って来るまでの間、モーリッツさんが5つの屋台の調理工程について話しながら場を持たせていた。

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