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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第11章
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第52話 俺は商会を訪問する

 俺達は今、王都を東西に突き抜ける大通り沿いに来ている。


 この通りと王都を南北に縦断する通りの2つは、どちらも王都内で商売する人にとって一等地。ヴルツェルフリーグ家の直営店もこの通り沿いに軒を連ねているが。


 俺の目の前にある店は、ヴルツェルフリーグ家の直営店よりも大きな店構えだ。


 煉瓦造りの建物自体大きくて立派だが、馬車留めスペースを3台分も店の横に確保していて土地面積もかなり広い。今は2台の馬車が停留していて、商売繁盛しているんだろうなと窺い知れる。


 爺さんのところは確か2台分だった筈だ。


 馬車留めすらない店の方が多いし、2台も3台も微妙な差なんだけど、なんとなく負けた気分になって悔しさが込み上げて来る。


 そしてこの目の前の店が、レッフェル商会の本店、つまりゲラルトさんの実家だと聞かされた事で、更に悔しさが。


 まあヴルツェルフリーグ家が店舗の規模で負けたからって俺には直接関係無いんだけどね。多分さっきまでレオノーラさんとヴルツェルの話をしていたから感情移入しちゃってるんだ。悔しくない悔しくない。


「じゃあ俺は親父達を呼んでくるから、みんなは店内でちょっと待っててくれ」


 ゲラルトさんは正面口から入らず、馬車留めの方へと足を向けた。あっちに裏口でもあるんだろう。


 本当にここが、将来ゲラルトさんが継ぐ店なんだな。


 うん。不安だ。今はもう悔しさはどこかに行ってしまって、不安な気持ちへと入れ替わっている。


 こんな立派な商会が年下の女の子から筋肉馬鹿と揶揄される人の手に渡ると思うと、マルセスさんじゃなくても不安になるさ。




 店に並ぶ商材は陶器や木材を使った食器類や花瓶などの雑貨が多かった。無地の物だけじゃなく風景や花、動物などの絵付けがされている商品も有り、その絵の精密さについ足を止めて見つめてしまった。


 夏に向けて団扇や扇子などの涼を取る商品のコーナーも設けられていたが、ざっと見てタオルなどの布製品は見当たらなかった。


「おーい、みんな。こっちだ」


 ゲラルトさんに呼ばれて店の奥に有る応接室へ通される。


 そこには、愛嬌のある笑顔を振り撒く細身で長身なおじさんと、笑顔よりもその腕の太さに目が行く小柄なおばさんが居た。


 おばさんの腕の太さはおじさんの太腿くらいは有りそうだ。あの体型はもしかして。


「父のテオバルトと母のフェオドラだ。母は見ての通りドワーフ族だ。結構美人だろ?」


「おじ様、おば様、こんにちは」「ご無沙汰しています」


 ちょっと戯けたゲラルトさんを無視して、アグネスさんとマルセスさんがご両親に挨拶をした。2人とも顔見知りのようだ。


 あの組み合わせからこの大柄で筋肉質な息子が産まれるんだな、と俺は挨拶もせずに感心していた。


「アグネスちゃん、マルセス君、それから皆さんいらっしゃい。ゲラルトからは友達が来たから会ってくれとしか聞かされてないんだけど、今日はどうしたの?」


「俺が説明するより、マルセスが言った方が分かりやすいだろ?」


 父親の疑問を笑い飛ばしたゲラルトさんの言動に対してマルセスさんがあからさまに溜息を吐き、アグネスさんはケタケタと笑っていた。




「なるほど、学校の武闘大会で売る商品を卸して欲しいと」


 マルセスさんの的確な説明を聞いて、テオバルトさんは思案顔を見せて押し黙った。


「問題無いだろ親父。生徒や教師にうちの自慢の品を知ってもらう良い機会だ。このゲオルグなんて王都で10年も暮らしてるのにレッフェル商会の事を知らなかったんだぞ。つまり、うちはまだまだ伸びるって事だ」


 痛いから背中をバシバシ叩くのは止めてください。


「将来の購買層に名を売りたいと言うのは分かるが、うーん」


 面白そうだとこの話に即乗りしたゲラルトさんと違って、現会長はあまり乗り気では無さそうだ。


「なんでだよ親父!悪く無い話だろ!?」


「ちょっとゲラルトは黙ってて。おじ様、何か気になる事が有るのなら、私達にも教えてください」


 騒ぐゲラルトさんを制したアグネスさんの言葉を受けて、フェオドラさんが口を開いた。


「これから夏に向けて扇子が良く売れる人気商品なのはアグネスちゃんも知ってるわよね?」


「ええ。毎年変わる新しい絵柄の扇子はお母様も楽しみにしています」


「だから毎年この時期は稼ぎ時で、扇子を作る職人は既に増産体制中。更に新しく扇子を作る余裕が無いのよ」


「それは分かりますが」


「そこをなんとかするのが、お袋の役目だろ!」


「だからあんたは黙ってなさいって!」


 割り込んで来たゲラルドさんをアグネスさんが押し除ける。


「おば様、無理を承知でお願いします。お金で解決出来るなら侯爵家から」


「アグネス、それ以上はダメだよ」


 今まで黙って事の成り行きを見守っていた姉さんが口を挟んだ。


 笑顔は崩さなかったが、いつもよりも低い声色で。


 姉さんを良く知っている人なら、あれは怒っていると感じ取れただろう。


「テオバルトさん、フェオドラさん。お仕事の手を止めてまで話を聞いて頂いて、ありがとうございました。しかし今回はご縁が無かったようですね。残念ですが、また機会があれば宜しくお願いします」


 姉さんは深々と頭を下げて、1人勝手に話を終わらせた。


 テオバルトさん達は急に割り込んで来た姉さんの行動に面を食らって黙り込んでいる。


「ちょ、ちょっとアリーさん!」


 姉さんの行動は、慌てて止めに入ったゲラルトさん以上に、俺の心を騒つかせた。


 いつも強引に動き回る姉さんが、こんなにも丁寧に引き下がるなんて。


「では私達はこれで失礼します」


 なんとか引き留めようとするゲラルトさんを無視しつつもう1度頭を下げた姉さんを見て、俺達も慌てて頭を下げた。




 両親を説得すると言って残ったゲラルトさんを置いて、俺達はレッフェル商会を出た。


「マルセス。自分の部下に予算の話はまだしてない感じ?」


 次の商会に向かって通りを歩きながら、姉さんが食品管理部部長のマルセスさんに質問した。声色は普段の軽い調子に戻っている。


「すみません。後でもう1度、しっかり説明します」


「ん。よろしくね」


 姉さんは多くを語らず、部下への対応を部長に任せた。


 マルセスさんは反論せず、それを冷静に受け止める。


 ゲラルトさんは居ない。


 アグネスさんはしゅんとして大人しくなっていて、他のみんなは黙って様子を窺っている。


 空気悪くなっちゃったな。さっきまでみんな楽しそうだったのに、姉さんの一言から空気が変わってしまった。


 やっぱり提案なんてせずに黙ってたら良かったな。


 元々俺が提案した事で起きたトラブルに若干の責任を感じながら、俺は先輩達の後にくっ付いて残り商会を挨拶して回った。

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