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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第2章 俺は魔法について考察する
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第35話 俺は枝豆の販売に物申す

 自領で育てた枝豆を王都の誕生祭で販売すると、枝豆で充満された籠を持った父さんが宣言している。

 絶対に売れると確信しているみたいだけど、それはどうかな。


「父さん、枝豆食べてみた?」


「おお、塩で茹でただけなのに凄く美味かったな。一緒に育てた住民たちも酒によく合うと喜んでいたぞ」


「グリューンの子供達は食べた?」


「そういえば、収穫を祝う宴会に子供は居なかったと思う。夜遅かったしな。でもこれだけ美味いんだ、子供達にも人気だろ」


「じゃあ少し茹でて、姉さん達に食べてもらおうか」


 俺は父さんを連れてキッチンへ向かう。まずは莢の片方を切り落として、塩もみするんだっけか。




「美味しいね。莢からポンと豆が飛び出すのも楽しい」


 姉さんの言葉にマリーも頷いている。


「うんうん、子供達も美味しいと言ってくれた。これで完売は間違いないな」


 美味しいと言われて喜んでいるところ悪いけど、水を差すよ。


「2人とも、この枝豆と、アイス、牛肉の串焼きの3種の屋台が並んでたら、どれを食べる?」


「お肉だね」


「私はアイスを食べます」


 姉さんとマリーの答えを聞いて、驚いた顔をする父さん。そこまでの顔をすることかな。


「父さんはどれ食べたい?」


「に、にく」


 まあそうだろうね。これで父さんも気付いたんじゃないかな。


「もしかして枝豆売れない?」


「折角のお祭りだもの、子供たちはお肉か甘い物を食べたいんじゃないかな。去年も、豆だけ、を売る屋台は無かったと思うよ」


「食べ終わった莢がゴミになりますし、歩きながら食べることが多いお祭りには向かないんじゃないでしょうか」


 俺に続いてマリーも否定的な意見を述べる。俺もそう思う。


「なら最終日、お酒と一緒に販売するしかないか」


 父さんは諦めて次の案を考える。

 俺も販売の仕方を一つ提案しよう。


「一杯目のお酒を注文してくれたお客さんに、枝豆一皿を無料で付けるのはどう?」


「味見ってことか。まあ新しい食べ物だからそれくらいやらないと駄目かなぁ」


 まずは美味しいってことを広めないといけないからね。


「ところでフライドポテトは止めたの?」


 俺と父さんが話している横で枝豆を頬張りながら、姉さんが思い出したように口を挿んだ。


「ああ、油に引火したら危険だし、使った後の油の処理が大変だ。なにより油が高い」


 父さんが残念そうに答えている。そうか、確かに油は怖いよね。

 領地で油が採れる植物を育てるのもいいかもな。


「枝豆を売るのはいいんだけど、これから申請しても場所が無いんじゃない?」


 枝豆とヴルツェル産ビールを交互に口に運びながら、母さんが指摘する。いつの間に現れたんだ。


「あ、忘れてた」


 おいおい。まあ下手に祭りの全日で場所を取ってなくてよかったか。


「仕方ない、親父の屋台で売ってもらうか。親父に枝豆の美味さがばれてしまうのは嫌だけど」


 別にヴルツェルの爺さんに教えてもいいじゃん。

 生産数が増えると俺は嬉しいぞ。いつか大豆食品を作るためにね。


「親父が知ったらあっという間に増産して、俺の領地産なんて霞んでしまうじゃないか。折角東方伯に頭を下げて枝豆を数年作らないようお願いしたのに」


 1人で悶々と悩みだした。キュステで飲み明かした時に約束したのかな。

 ああ見えても父さんは、爺さんの血を引いた商売人なんだなと少し感心する。


「父さん、私に良い考えがあるんだけど」


 姉さんが父さんに提案する。枝豆に伸ばす手は緩めないけど。


「エマの家が今年は屋台を出すんだって。ヴルツェル産の卵と牛乳で作ったお菓子が美味しいんだよ。最終日は各地のお酒が飲める屋台にするって言ってた」


「おお、あそこの店か。アリーが友達になってから父さんも職場の人とよく飲みに行っているぞ。昼間から飲めるしお酒の種類は多い良い店だ。うん、誕生祭が終わったらそのまま枝豆を卸してもいいな」


 なるほど、いい案じゃないか。俺もお菓子を食べに行こう。


「よし、これから枝豆を持って交渉して来る。最終日だけでも売ってもらって俺の領地の名を広めるんだ」


「あ、私も行く」


 行ってらっしゃい。姉さんが邪魔しないといいけど。

 アンナさんも行くのね。姉さんをよろしく。


「飲みすぎないようにね」


 母さんが遠くから父さんに声をかける。交渉に行くんだから飲まないでしょ。

 そう言う母さんの口に消えていくビールの量が凄いことになってるけど、それはいいのかな。




 数時間後、アンナさんと姉さんだけ帰ってきた。父さんは?


 母さんの忠告も虚しく飲み過ぎたらしい。

 交渉に行ってなんで酔い潰れるほど飲むんだ。


 楽しかったという姉さんの横で、アンナさんが母さんに謝っている。

 しょうがないわね、と母さんがジークさんを伴って家を出た。あんなに飲んでいた母さんはしっかりしているのに、ほんとしょうがないね。


「誕生祭の屋台で売ってもらう交渉は上手くいったんです。枝豆の味はエマさんのご両親も気に入ってくれました」


 アンナさんが事の経緯を教えてくれた。

 交渉が上手くいったのは良かった。その時は酔っぱらってなかったんだね。


「その後お店で祝杯を挙げたのですが、これが失敗でした。男爵が枝豆とビールを美味しく食べている姿を見て、他の客が枝豆に興味を示したんです」


 意図せず宣伝になったんだね。


「男爵は喜んで、枝豆を無料で提供しました。ゲオルグ様に無料と言われた事が頭に残っていたんでしょうね。枝豆を食べた客は、こんな美味い物を無料でもらうなんて、と言って男爵に酒を奢りました」


 あ、なんとなく分かった気がする。


「それを見た他の客も加わり、また別の客も。途中から店に入ってきた客もなんとなく参加して、男爵の前には枝豆に代わって大量の酒が。残すのはもったいないと、男爵は果敢に挑んで散っていきました」


 挑むなよ。

 エマさんのお父さんも、途中でお酒の注文をストップしてくれたらよかったのにね。


 まあ枝豆のいい宣伝になったみたいだから、多少母さんに怒られてもお釣りが来るんじゃない?

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