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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第11章
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第35話 俺は父から罰を言い渡される

「久し振りに思いっきり体を動かすと、なんだかスッキリしますね」


 父さんに2度も怒られたと言うのに、マリーはニコニコと笑ってご機嫌だ。


 普段の勉強でストレスが溜まっていて、それを発散出来た喜びの笑顔だろうか。


 しかし、実験をお願いした俺が言うのもなんだけど、流石にあれはやり過ぎだぞ。


 現在庭はマリーが破壊した土人形の破片が散乱し、ぶつかり合って粉砕した籠手と鉄柱はひとまとまりのゴミの山になって鎮座している状態で、庭の景観を汚している。


 まずは父さんの指示通りに庭を綺麗に片付けないと。


 まあそうは言っても、マリーの魔法で簡単に綺麗になるんだけど。


「じゃあパパッと片付けて、次の仕事に移りましょう。ゲオルグ様は料理長に買い出しの内容を聞いて来てください」


 マリーが土魔法の効果で、庭の地面が散乱している土人形の破片を吸収する。土人形の出現によって凸凹になっていた庭が元通りに均されていく。


 よし。ここマリーに任せて、俺は調理場へ行くとしよう。




 俺達が1度目の説教で言う事を聞かなかった事に腹を立てた父さんは、罰として俺達に仕事を指示して来た。


 庭の片付け。近所への謝罪。王都警備隊への謝罪。手紙の配送。夕食の買い出し。風呂掃除。


 最初の3つは自分達がやった事への後始末。まあこれは仕方ない。


 後の3つは無理矢理絞り出して付け加えられた。


 手紙は既に受け取っている。宛先は冒険者ギルドのギルドマスター。月末にある武闘大会の件だろうか。遠くないんだし、直接話に行けば済むと思うんだけど。


「あー、すみませんゲオルグ様。買い出しは午前中に済ませていますので、特に必要な物は有りません」


 調理場に行って料理長にお手伝いを志願すると、申し訳なさそうな顔で謝罪された。


 いや、こちらこそ急な話で申し訳ない。父さんに課せられた罰なんだ。仕事を断られました、ではまた怒られそうだから、何か一品でも良い、足りない物があれば買ってくるんだけど。


「ああ、先程の騒音への罰ですか。ここまで響いて来ましたよ。では男爵様のご機嫌取りの為に、夕食は男爵様の好きな料理に変更して、お酒も出すようにしましょうかね」


 すみません。ご協力感謝します。


「協力の対価として、また何か新しい料理を思いついたら私にも教えてくださいね」


 ちゃっかり対価を要求して来た料理長は、紙とペンを取り出して新しい料理に足りない食材を書き始めた。




 料理長の食材買い出しメモを持って庭に戻ると、マリーはまだ全ての鉄屑を片付けずに腕を組んで立ち尽くしていた。


「鉄柱の方はなんとか片付いたんですけど、籠手に使った方の金属がまだ上手く操作出来ないんです」


 納得がいかないのか困惑した表情を作ったマリーが右手を軽く上に動かして、地面に横たわっていた鉄屑を宙に浮かべる。


 なんだ。魔法が全く効かない訳じゃないのか。


「浮かせるのは金属魔法じゃなくても出来ますから。問題はこれを変形させたり溶かそうとした時で」


 1度大きく深呼吸をしたマリーが、左手も右手と同様に浮かせた鉄屑へ向けて力を込める。


 ギギギギギっと耳障りな音を奏でて、鉄屑が僅かに変形した。


 いつもならどろりと金属が溶け出して自由自在な形へと作り変わって行くのに、今回は無理矢理金属を圧迫して潰そうとしている。


 まるで金属魔法を習い始めた頃に戻ってしまったかのようだ。


「うーん。何かが金属の周りを覆っていて、私の魔力を阻害している感じなんですよね。他人が魔法で操っている物質に干渉する時ともちょっと違う感覚で。なんですかこれ?」


 俺に聞かれても困る。その感覚は俺には分からないからな。


 なんだろうと考えて動きを止めてしまったマリーを置いて俺1人で他の仕事を済ませて来ようかと思ったが、


「あれ?何やってるの?」


 姉さんとクロエさんが庭にやって来て、この状況を説明しろと捕まってしまった。




「ああ、それね。知ってる知ってる。『ジカ』って言うんだよ」


 現状を理解した姉さんが自信満々な表情で、俺達が悩んでいる問題の答えを口にした。


 が、そのジカってなんだ?


 名称を聞いただけではよく分からないんだけど。


「ええっと」


「電気を帯びた金属が磁石に化ける事、です」


「そう、それ。磁石ね」


 一瞬答えに詰まった姉さんの代わりに、クロエさんが説明した。


 なるほど、磁石に化けるで磁化ね。原理は分からないけど、言っている意味は理解出来た。


 でもそれがどうして魔力を阻害するの?


「なんだっけ。発生したジカイが外界から干渉して来る魔力を阻害する壁になるとかなんとか」


 あやふやな答えだ。マリーはなるほどと頷いているが、本当の話なのかどうかも疑わしい。


 いったい誰からそんな胡散臭い話を聞いたんだろう。学校の先生かな?


「誰だったけな。魔法学の先生じゃなかった事は確かだけど、ドーラさんだっけ?」


「磁化の話はアミーラから聞きました」


「そうだっけ?」


 姉さんに代わって、またしてもクロエさんが返答する。姉さんは興味の無い事柄を直ぐに忘却してしまう人だからな。


 しかし、なんで猫の魔物であるアミーラがそんな小難しい話を。


「雷撃魔法に精通したアミーラが言うのであれば正しい事なんでしょうね」


 マリーは納得しているようだけど、俺はいまいち納得出来ないんだよなぁ。クロエさんの記憶力を疑ってる訳じゃないんだけど。


「まあでも、もしこの状態の鉄屑をアリー様が元に戻せるのなら、アミーラから聞いたと言うのも間違いないですよね?」


 それは、そうかもしれない。分かった。もし直せると言うのなら、姉さんの話を信じよう。


「任せといて!方法は3つ有るんだけど、どれが見たい?」


 右手の指を3本立ててこちらに示した姉さんは、いつも以上に不敵に笑っていた。

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