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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第11章
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第33話 俺は仕事を引き受けた事を後悔する

 空を明るくしていた日がその体の半分ほどを西の山々に隠した頃、俺はようやく船着場を後にした。


 疲れた。


 足取りが重い。早く家に帰ってベッドに倒れ伏したい。でも、足は言う事を聞かない。


 ダニエラさんと行った模擬戦の疲れではない。その後の出来事による疲労感だ。


 ダニエラさんの我儘を聞いて槍作りを引き受けると決めた後、ダニエラさんの使いたい魔法や好みの槍の仕様を聞き取りした。多少面倒な願いではあったが、これはまだ良い。


 ダニエラ嬢とお揃いの魔導具で構わない、と造船所に従業員さん達がそれ以上何ひとつ注文を付けずに仕事へ戻って行ったのはとても助かった。


 だがしかし、造船所の引き篭もり設計士ことリオネラさんが突然話し合いの現場にやって来て、


「私も可愛い魔導具が欲しい!」


 と、曰った。


 誰からどのようにこの話を聞いたのか知らないが、槍を作るんだよ。可愛いは無理だろ。穂先にリボンでも結んでやろうか?


 俺の言葉を無視して少し考え込んだリオネラさんは、


「それ。ゲオルグが腕に付けてる時計がいい。それも綺麗な作りで素晴らしいけど、もっと可愛くお洒落に作り直してよ」


 俺の左手首の腕時計を指差して希望を口にした。


「お金なら有るよ。新しい船の設計を終えたばかりだからね!」


 胡乱な目付きでじとっと見つめる俺の視線を感じ取ったリオネラさんが、金の心配はするなと自慢げに言って来た。金の心配をしていたんじゃないんだが。


「受け取った依頼料は造船所の運営に回す金だ。リオネラが好きに使える金じゃないぞ!」


 自分勝手な事を言うなと、ダニエラさんが妹に向かって吠えた。


「なんでお姉ちゃんは良くて私はダメなのよ!私がいないと新しい船は設計出来ないんだから、ちょっとぐらい自由にお金使ったっていいじゃん」


「設計図だけじゃ金にならん!みんなで船を作ってこそだ!偉そうにふんぞり返ってないで、たまにはみんなと一緒に鎚を握って汗を流してみろ!」


「自分だって、現場監督だとか言ってみんなにあーだこーだ指示するだけのくせに。どっちが偉そうなんだか」


「なんだと!」


「なによ!」


 唐突に始まった姉妹喧嘩。従業員は見慣れているのか誰も止めに入らない。マリーに背中を押されて渋々仲裁に入る俺。結局、腕時計作りも了承してしまう流されやすい俺。


 ほぼ間違いなくリオネラさんのせいで、どっと疲れた。早く帰って横になりたい。


「ロミルダの魔導具を調べて問題点の解析。ダニエラさんの槍。従業員さん達の槍。リオネラさんの腕時計。仕事が一気に増えちゃいましたね」


 俺の重い足取りに合わせてゆっくり隣を歩くマリーが右手の指を折って数えながら、俺の仕事量を再確認させてくる。


 いちいち数えなくても分かってる。憂鬱になるからそっとしといて。


「そんなに嫌なら断れば良かったんですよ。前金まで貰っちゃって。そんなに自分の首を絞めたいんですか?」


 あんな状況で断れるかよ。前金だってリオネラさんが無理矢理押し付けて来たから。


 ああ、ルトガーさんが帰る時に一緒に帰れば良かった。あの時なら、リオネラさんの願いは聞かずに済んだのに。


「ダニエラさんの要望をしっかり聞こうとしたゲオルグ様の優しさが仇になっちゃいましたね」


 マリーがなんだか上機嫌に笑ってる。そんなに俺の不幸が楽しいかね。


「ゲオルグ様の優しい一面を垣間見れて、嬉しがっているだけですよ。他意は有りません」


 ほんと?物凄く裏がありそうな笑顔なんだけど。そうあれは、姉さんが何かを企んでいる時の表情に良く似ている。


「気のせいですって。あまり無駄な心配ばかりしてると、禿げるらしいですよ?」


 い、嫌なこと言うなよ。この歳で禿げたくないぞ。


 そうだ。頭皮への負担を減らす為にも、抱えている仕事は分散した方が良いよな。


 と言う事でマリーさんや。手伝ってくださいお願いします。


「時間が合えば手伝いますけど、私だって学校の授業の予習復習で忙しいんですよ。それこそ、禿げそうなくらいに」


 それを言われたらぐうの音も出ない。学生の本分は勉強であり、俺達は学生なわけで。


 はぁ。無計画に依頼を引き受けたあの時の自分を呪いたい。やっぱりリオネラさんの腕時計は余計だった。せめて依頼期間を伸ばすように交渉し直そう。


「そういえば、今日は教会へお祈りにも行きたいって言ってませんでした?」


 他の建物より一際高く大きく空に向かって突き出している教会の上部を見上げて、マリーが話を切り替える。


 あっ、そうだ。誕生日の日に行けなかったから今日行こうと思ってたんだった。でも今日はこのまま帰りたい気がする。


「まだジャム屋さんもギリギリやってる時間ですし、ちゃちゃっと行って済ましちゃいましょう」


 先程まで歩調を合わせてゆっくり歩いていたマリーが、グイグイと腕を引っ張って前進する。


 何が楽しいのか、今日のマリーは機嫌良さそうに笑ってる。

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