第13話 俺はシードル君の話を聞く
深夜にシチューを食べながらマリーの問答に付き合った翌日の放課後、ミリーと一緒に魔導光芒に顔を出した。
ドワーフ族の友人シードル君は今日も魔導光芒に参加している。
先輩やドワーフ族の同級生達と一緒に、ドワーフ言語を研究しているようだ。
王国軍に武具を卸している鍛冶屋が実家のシードル君は、武具系の魔導具を作りたいらしい。
なので、姉さんが作った魔導具の槍に興味津々だ。
「あの槍を使っているところを是非観たいとアリーさんにお願いしたんですが、断られてしまいました。残念です」
心底残念そうに、シードル君は肩を落としている。
昨日俺が魔導光芒に参加しなかった間に、姉さんに願い出たらしい。観せてあげたらいいのに、姉さんもケチだな。
「観せる時はゲオルグの作った槍と対戦する時だ!って言ってましたよ。ゲオルグ君、頑張ってください」
シードル君が期待の眼差しを向けて来る。いや、同級生のドワーフ族達もシードル君の背後で同じ眼をしている。
「私も観たい。アランも観たいって言ってたよ」
ミリーもシードル君に賛成する。アランくんは、ミリーに無理矢理言わされているような気もするが。
「そんな事ないよ。魔導光芒の話をアランはいつも楽しそうに聞いてくれるし」
ミリーが1人でペラペラと話して、アランくんが黙ってそれを聞いている様子が目に浮かぶ。アランくんは優しいからな。楽しそうに話すミリーを遮るような無粋な真似はしないだろう。
「魔導具って面白いよね。私も早く魔導具を作れるようになりたいな!」
鼻息荒く、ミリーが意気込みを見せる。
しかしミリーはドワーフ言語を全く覚えていない。今のままじゃ、何も作れないぞ。
「へへへ。頑張って覚えるからよろしくね、ゲオルグせんせっ」
ペコリと頭を下げたミリーに続いて、
「ゲオルグ君が作る魔導具の槍、楽しみにしています」
と、シードル君も頭を下げて来た。シードル君の背後に居る同級生達も同様に。
そんなに期待されても作らないぞ。俺は姉さんとトマス先生の諍いに巻き込まれたくないんだからな。
「そういえば、アリーさんは『聖鉄』の一番弟子だと聞きましたが、ゲオルグ君も『聖鉄』にドワーフ言語を教わったんですか?」
ミリーにドワーフ言語の基礎を教えていると、シードル君が話を振って来た。
「せいてつって誰?」
ミリーが勉強の手を止めて話に食い付く。見本に書いたドワーフ言語を書き写して暗記する短調な作業に飽きているのは分かるが、そんなんじゃ魔導具製作は夢のまた夢だぞ。
「『聖鉄』は特に優れた鍛冶技能を持つ者に贈られるドワーフ族内の称号です。この国では現在、その称号で呼ばれるドワーフ族は1人だけなんです」
「へー、その人がアリーさんとゲオルグ君のお師匠様?」
ミリーの興味は勉強から聖鉄へ完全に移ってしまったようだ。こうなったら無理矢理勉強を続けても身にならない。休憩ついでに好きな事をやらせよう。前世から勉強嫌いだった俺が言うんだから間違いない。
でも、ドワーフ族のソゾンさんから魔導具作りを教わったのは間違いないけど、聖鉄という呼び名は知らなかった。恥ずかしいのかソゾンさんもヤーナさんも何も言ってなかった。
それに、王都民を相手に細々と商売しているソゾンさんより、王国軍に武具を卸しているシードル君のお父さんの方が凄いんじゃない?
「ありがとうございます。でもうちは、沢山の職人を雇って安価な武具を大量生産する鍛冶屋なんです。そういう薄利多売な鍛冶屋は、ドワーフ族内ではあまり評価されません」
眉を八文字に変形させて歯を食いしばり、シードル君は悲しんでいる。いや、悲しむというより、悔しがっているのかもしれない。父親の仕事を間近で見て来たシードル君にとって、世間から評価されないのは業腹なんだろうな。
でも、職人を沢山雇える程儲かっているんだから凄いよ。『聖鉄』のソゾンさんは夫婦2人経営の零細鍛冶屋だし、遊びに行くと大概店内にお客さんの姿が無い。どうやって生計を立てているのか心配になるくらいだ。
「聖鉄の名前だけで全国から注文が来てると思いますよ。王国軍のみを相手にしているうちより、もっと手広い販路が有る筈です」
それならいいんだけど。ソゾンさんの鍛冶屋が潰れて王都を出て行く事になったら俺も困る。ソゾンさんにはこれからも色々と教わりたい。
「そうだ!良い事思いついた!」
急にミリーが声を上げる。本人はとても喜んでいるが、それは大概本人だけに良い事なんだと、俺は姉さんから学んでいる。姉さんもよく、良い事を思いつく、からな。
「そのお師匠さんにゲオルグ君を説得して貰おう!」
やっぱり変な事を言い出した。ソゾンさんに迷惑だから止めなさい。
シードル君もミリーに賛成しない。後ろの同級生達も、1年生ドワーフ族の代表者にシードル君を選ぶんじゃない。
そんな目で見られたって、俺はソゾンさんの所へは連れて行かないからな。




