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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第11章
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第4話 俺は新しい友達を作ろうとする

「おい、やめとけ。そいつに触れられたら無能が移って、魔法を使えない体になるぞ」


 会場の入口付近から放たれた言葉のおかげで、シードル君と握手しようとした俺の右手は空中を彷徨う事になってしまった。


 すぐに手を降ろしても良かったんだが、それだと無能が移るという言葉を認めるような気がして、降ろす事を体が拒否していた。


 素直に右手を引っ込めたシードル君は、俺を右手を見ながら固まっている。どうするべきか悩んでいるんだろう。シードル君は悪くないんだが、悩ませて申し訳ない。


「ではゲオルグ君。私と握手しましょう」


 視界の外から女性の声が耳に入り、俺の右手は柔らかく温かい手で包み込まれた。


「ふふふ。入学おめでとう。今日は私もいっぱい料理を作ったから、楽しんでいってね」


 俺の右手を両手でしっかりと包み込んでくれたのは、エプロン姿で腕捲りをしたエマさんだった。


 鷹揚亭で給仕係をやっている時とは違う団子状に纏められた髪が、とても良く似合っている。


 そして何より、その笑顔が眩しい。


「ありがとう。さて、ゲオルグ君に触って私が魔法を使えなくなったかどうか、見てみましょうね」


 右手は俺と握手したままで左手を外したエマさんは、左手を頭上高くに伸ばしてパチンと軽快に指を鳴らした。


 左手の先の空中に、拳大の水球が出現する。


 すかさずもう一度、パチンッ。


 水球は小さな水滴へと次々に分解され、霧状になり、霧散していった。


 簡単な魔法を見せて問題無い事を示したエマさんは、お粗末様でしたと笑っている。


 いや、助かりました。ありがとうございます。


 今度は俺が左手を動かしてエマさんの右手を両手で包み込み、感謝を述べた。


 しかし、さっきの嫌がらせ発言はいったい誰が。


「おい、バカ王子。よくも私の弟を虐めてくれたな!」


 突如、パーティー会場内に姉さんの怒声が響き渡った。


 姉さんが馬鹿と称する王子って、第二王子か?


「ふんっ。無能に無能と言って何が悪い。文句が有るなら魔法を使わせてみろ」


「うっさいバーカ。魔法なんか使わなくてもゲオルグは優秀だ。私よりもずっとずっと魔導具作りが上手いんだぞ!」


 言い争う2人の声だけが耳に届き、2人の姿は人混みに隠れて目視出来ない。


「お遊び集団の魔導光芒を作って喜んでいるお前より上って、それ自慢になるのか?」


「はっは。エマがバカ王子の誘いを蹴ってこっちに来たからって妬くな妬くな。ざんねんだったねー、バカ王子には興味無いってさ」


「はぁ?なんで俺があんな庶民の事を気にしなきゃならんのだ」


「強がるなって。バカ王子の気持ちはこの学校中に知れ渡ってるから。知らないのは新入生だけだったけど、たった今耳に入っちゃったもんね」


「だから違うって言ってるだろ!」


 姉さんの煽りが効き過ぎた結果、第二王子が冷静さを欠いて熱くなっている。


 そろそろ魔法で姉さんを攻撃するんじゃないかと思われた時、教師の誰かが2人の間に割って入り、2人ともパーティー会場から摘み出されてしまった。


「去年まで、2人の争いを止めるのは第一王子の役割だったんだけどね。もう卒業しちゃったから、今年はどうなるやら」


 やれやれといった感じでエマさんが短く溜息を吐く。


 そんな憂いに満ちたエマさんも素晴らしい。


「じゃあゲオルグ君。私はまだまだ料理を作らなきゃいけないから、そろそろ」


 あ、いつまでも手を握ったままで、すみません。


 この料理、エマさんが全部作ってるんですか?


「そんなまさか。普段食堂を切り盛りしている人達だけでは人手が足りなくなるから、毎年在校生が調理や配膳を手伝っているのよ。私が作っているのは鷹揚亭で出している物と同じだから、すぐ分かると思うわよ」


 そうですか。では見知った料理を全部食べます。


「ふふ。無くなってもまた同じ料理が出て来るから、胸焼けしないようにね」


 またねと右手を振って、エマさんはこの場を立ち去った。


 バイキング形式で次々に料理が補充されるのかな。それでもエマさんの手料理はなるべく多く食べたい。


「なるほど。ゲオルグ君はああいう女性が好みですか」


 エマさんの背中を見送っている俺に、ミリーが好奇な視線を送って来る。


 まあ好みかどうかと聞かれたら、好みですと答える。エマさん本人には恥ずかしくて言えないけど。


 ところで、シードル君。


「は、はい!」


 じっと俺とエマさんのやり取りを見ていたシードル君が、急に声を掛けられた事に飛び上がって驚く。


 別に驚かすつもりじゃなかったんだけど。


 シードル君が落ち着くのを待った後、


「姉さんの『魔導光芒』はきちんと紹介するけど、それとは関係無く、俺と友達になろう」


 そう言って、俺は再度右手を差し出した。

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