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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第11章
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第2話 俺は入学式に参加する

「え〜、これから5年間、諸君らは各々の力を伸ばす事を目標として、勉学に勤しみ、武芸に励み、魔法の腕を磨く努力を惜しまず、学友と切磋琢磨し、粒粒辛苦を重ね、時には先輩の経験や知識を借りながら、信頼出来る教師陣と共に、勉学に勤しみ、武芸に励み、魔法の腕を」


 だ、ダメだ。校長の話が長過ぎて、睡魔が襲って来る。


 同じ内容の話をぐるぐるぐるぐる何度も話されている気がする。その全く興味を引かれない、面白くもない話に、脳が情報の取得を拒んでいるかのようだ。


 この眠気と戦っているのは俺だけじゃない。


 扇状かつ階段状に作られ、長机や椅子がずらりと設置されている広い講堂で入学式が始まって、まだ1時間も経っていないだろう。


 しかし集められた新入生の中で精神力の弱い者達から眠りに落ち、バタバタと目の前の長机に倒れ伏している。


 なんだこれは?校長の魔法か?


 睡眠を誘発する魔法なんて、聞いたことがないぞ。


「で、あるからして、学校を建設した国王の理念に沿って、生徒諸君は、勉学に勤しみ、武芸に励み、魔法の腕を磨く必要が有り」


 くそっ。また同じ話を。


 俺だって、負けるものか!


 壇上で喋る校長のすぐ目の前、新入生達の最前列に位置取って綺麗に背筋を伸ばしている俺の知り合い3名に負けないよう、俺は気合を入れ直した。




「えへへ、どうしても眠気に耐えられませんでした。あれに耐えられたゲオルグくんは凄いです。起こしてくれてありがとう」


 なんとか、なんとか眠らずに苦行を耐え切った俺は、隣の席で完落ちしていたミリーを揺すって起こした。


 目覚めて居住まいを正したミリーは向こう隣のアランくんを揺すり始める。


 精神修行を耐え抜いた生徒、或いは壇上を離れた校長と入れ替わりに現れた教師達によって、講堂内の各所でも似たような動きが起こっている。


「マリーさん達はずっとあの姿勢を保っていたんですか?凄いですね!」


 アランくんを起こし終えたミリーは、前方に座るマリー達を指差して、小声で凄い凄いと感心している。


 プフラオメ王子、マリー、ローズさんの3名は最前列の席に座り、新入生達にその立派な背中を見せつけていた。彼らは6歳時に行われた魔力検査のトップ3。検査で好成績を収めた3人が俺達世代の代表者として最前列に並んでいるんだ。


 しかし、そういう座り位置になるんだったらマリーにはもっと良い格好をさせるべきだったかな。黒のスーツ姿はカッコいいんだが、煌びやかな姿の王子や可憐なローズさんと比べられるのは、ちょっと可哀想な気もする。スーツだから必要ないと、髪のセットも普段通りだし。


「マリーさん、カッコいいですね。黒が似合う女性は素敵だと思います」


 褒めるミリーにアランくんも頷いている。カッコいいのは間違い無いみたいでなによりか。


「それにしても、マリーさん達と別のクラスになっちゃったのは残念ですね」


 さっきまで笑顔を振り撒いていたミリーが顔を顰めている。百面相のように表情がコロコロと変わる人だ。その感じは、姉さんを思い出すな。


「あー、あー。新入生の諸君!入学おめでとう。これから私達が、眠気を吹き飛ばす為の、とびっきりの魔法をご覧に入れよう。天井を見よ!」


 姉さんの事を思い出していたら、姉さんの声が聞こえた。空耳、なわけないよな?


 どこからか聞こえて来た声に従って天井を見上げると、そこには球形の何かがふわふわと浮いて漂っていた。1つだけじゃなくて、10個もある。距離があるから大きさはよく分からない。


「パン!」


 多くの新入生が上を見上げた頃を見計らって小さな破裂音が発生し、球形の物体の1つが派手に割れた。


 アランくんを筆頭に、新入生から驚きの悲鳴が生まれる。ミリーは、何が起こるのかと食い入るように天井を見つめている。


 割れた勢いで物体の欠片が周囲に飛び散り、一瞬にして燃え上がった。燃えながら光を、鮮やかな緑色の光を生み出し、周囲に緑光を撒き散らす。その光は数秒間煌めき、地上に降って来る事も無く、ひっそりと大気中へ消えて行った。


「綺麗なヒカリ」


 ミリーの言葉が合図になっていたかのように、それから9つの物体が連続で割れ、9色の光を発生させて、静かに消滅した。


「どうかね、新入生の諸君。我々『魔導光芒』が作り上げた魔導具は。火魔法と金属魔法の応用で、色鮮やかな光を発する魔導具なのだ。ただし、戦闘には全く役に立たないがね。わっはっは」


 姿を見せない姉さんの高笑いが、講堂内に木霊する。一昨日からソワソワしていたのはこれをやりたかったからか。


「凄いです!」


 頭を抱えそうになっている俺の横で、ミリーは率直過ぎる感情を天井に向かって叫び、拍手をし始める。拍手はアランくんへと伝播し、更にその前後左右へと広まっていった。


「そうだろうそうだろう。これはとても簡単な魔導具で、魔法が苦手な者でも簡単に作ることが出来るぞ。もし興味が有るなら、『魔導光芒』への入会をオススメする。入会手続きは、東棟の端に有」


「こらお前達!毎年毎年入学式の邪魔をしやがって!」


「やっべ、槍術のトマスだ。みんな逃げろ!」


「先生を付けろ、先生を!お前ら全員、大人しくしろ!」


「槍を持っていない槍術教師なんて、帆を畳んだ帆船と一緒だよ。徒手のトマスせんせ、さあ、捕まえてごらんなさい。おほほほほ」


「よーしわかった。まずはお前からだ!」


 待てー、待たなーい、待てー、こっちまでおいでー、待。


 追いかけっこの音声がプツリと途切れたタイミングで、新入生達の間にどっと笑いが起こった。


 何やってんだよ、姉さん。弟の俺は恥ずかし過ぎるぞ。今後槍術の先生とどんな顔して会えばいいんだ。


「流石はアレクサンドラ様です。凄いです!ね、ゲオルグさん」


 ちょ、ちょっとミリーさん。みんな見てるから、黙って静かにしてよっか?


「どうしてですか、お姉様の活躍をもっと喜びましょう!ああ、私もあんなに面白いお姉様が欲しかったです。『まどうこうぼう?』でしたっけ。それには是非入会させて頂きます!勿論ゲオルグくんも入りますよね。どこへ行けば手続きが出来るのか、詳しく教えて下さい!」


 興奮状態のミリーさんが、ぐいっと顔を寄せて来る。


 知らない知らない、俺も初めて聞いたんだから。取り敢えず、今は落ち着いて、大人しくして。


 何を言ってもミリーさんの興奮は冷めず、近寄って来たクラス担任の教師に怒られた事で漸く止まってくれた。


 しかし騒いでいない俺まで怒る事もなかろうに。それとも、姉さんの代わりに叱られたんだろうか。教師は俺と姉さんの関係くらい把握しているだろうから、その可能性も十分有る、か。


 型破りな姉さんと一緒に学校に通うのは、この1年間だけ。


 まったく、この先の1年間が楽しみだな、わっはっは。


「ゲオルグくん、楽しいのは分かりますが、静かにしないとまた怒られますよ」


 空元気だよ!っとツッコミを入れたところで、俺とミリーさんはもう一度担任から注意を受けてしまった。


 2度目のお叱りを受けている時、前方に座る3人がこちらを振り向いて、何やら楽しそうに笑い合っていた。

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