第29話 俺は言霊を提案する
魔法で作った作物は美味しいのかという質問にみんな興味を示した。
特に父さんが前のめりだ。
「味の感想は個人差があるが、僕は美味しいと思う」
おお、良い情報じゃないか。父さんが目に見えて喜んでいる。何か思いついた時の顔は姉さんにそっくりだね。
「美味しいが欠点もある。植物にとって実を付ける行為は、自分達の子孫を残す為だ。人が赤子を産むのと同じで、とても体力を消耗する、それを魔力で無理矢理行う訳だから、やり過ぎると植物が枯れる。また急速に実らせると種が形成されない。種が無いと次世代の植物を育てられない。母は倒れ、子は生まれない、植物にとって良いことではない。エルフ内でも自分達の緊急時に仕方なく行う魔法だと認識されている」
そうなんだ。実らせることは出来るけど1代限りって感じか。草はそうかも知れないけど、木はどうなんだろう。少し実らせたくらいだと平気そうだけど。
「だから男爵、魔法で作った野菜で村興し、何て無理だからね。それが出来るなら、この国に食糧難の時代は来なかったよ。今は良くても次に繋がらないんだから」
そんなこと考えてないと父さんは慌ててるけど、絶対考えてたよね。
マチューさんの言い方なら、木も疲弊してダメになるんだろうな。
草木魔法が広がったら敵対する国の植物を無理矢理成長させるスパイなんてのが出て来そうじゃない?
「実演を交えて長々と話したが、皆も理解してくれただろう。初心者は自前の種子を使う。慣れてくると現地の草木を利用する。適切に草木魔法を使うには、植物の知識を得て、自分の魔力を送れる距離と量を把握する事が必要だ」
マチューさんがそう締めくくると、そろそろ日が傾いてきたからと父さんが帰宅を促す。
さっきの失態を隠そうとしてない?
「帰る前に草木魔法を試してみたいんだけど」
姉さんに声をかけられた。マリーとクロエさんも集まってくる。もう魔法を使えるの?
「マチューさんの魔法を見て感覚は覚えた。覚えてるうちに試したい」
さすが姉さんだ。もちろん言霊を使うよね?何か考えてある?
「一応言霊は考えてある。木行の青と、空に向かって成長する様子入れるつもり。後は何か良い案ある?」
「冬を越えて春になると芽吹くって印象があるので、春を入れるといいと思います。
おお、マリーからいい案が出た。俺も何か考えないと。
「植物の成長には土も大事ですが、水はもっと大事です」
うわ、クロエさんに先を越された。
「うんうん、大分形になって来たよ。ちょっと聞いてみてよ」
そう言って姉さんは小声になり歌いだした。俺が提案する必要もなく完成したようだ。言葉尻で気になったところを指摘していく。
ちょっとまって、その前に聞いておかないといけないことがある。
「姉さん、この魔法はどういう魔法なの?」
このままだと只々成長させて伸びていくだけになりそうだ。
花を咲かせるのか、実を付けるのか、もしくはどんどん伸びていって誰かを絡め取るのか。
魔法を使った結果は想像してる?
「うん、花を咲かせようと思う。マチューさんが出来なかった事をやるとみんな驚くでしょ?」
魔法が使えただけでみんな驚くよ。
どんな花にする?
俺は種を持ってないし、この辺りの植生には詳しくないよ。
「でしたら、いい花があります」
お、クロエさんが自信有り気だ。
「午前中の散策中に見つけた植物なんですけど、ヴルツェルでもよく見かけます。黄色い綺麗な花を咲かせる小さな植物ですが、そのうち花が白い綿毛に変わり風に吹かれて種を飛ばすんです。畑に来る途中の道でも見かけたので、この畑にも種が飛んでるんじゃないでしょうか」
たんぽぽだ。え、たんぽぽあった?
「もう綿毛は飛んで行った後でしたが、ギザギザの葉っぱが特徴的なので間違いないと思います」
「なるほど、黄色い花か。私は見たことないけどやってみよう」
よし、ここで発言しよう。
「たんぽぽの花はもう季節外れだけど、花が季節外れに咲くことを表すいい言葉があるよ」
みんなで相談していい言霊が出来た。
術者の姉さんも自信満々。気合を入れて一歩前に出る。
俺達は姉さんの邪魔にならないよう少し下がる。その様子を見た大人達も注目している。なにが始まるのか分かっていないのはマチューさんだけだろう。
「青々と、水を蓄え、天高く。飲めや歌えや、春を迎えて」
姉さんが気合を込めて歌い上げる。両手を天に向かって伸ばす姿は、成長する植物を模しているのだろうか。
「狂乱」
言霊と共に屈みながら、地面に両手を叩きつける。
ドンッ。
腹の底に響くような重低音。間近で花火を見上げている感覚に続いて、地面が縦に揺れた。
姉さんの魔力で地面が揺さぶられたんだ。
マリーも予測していなかった揺れに驚き、可愛い悲鳴を上げている。
普段土魔法に使うよりも大きな魔力を注ぎ込んだに違いない。数秒間揺れが収まらなかった。
揺れが収まった後の畑を見回すと、先程マチューさんが実演して成長途中で止まった植物が、そこにあるだけだった。




