第28話 俺は草木魔法の実演を観る
講義には参加していなかった父さんと母さんも合流し、郊外にある畑を訪れた。
父さんたちは住人と何やら会議をしていたらしい。畑に関することかな?
山の斜面に作られた畑、いわゆる段々畑の一角に俺達は来ている。今は何も植わっていない。他の畑には何かしらの作物が植わっているから、休耕地なのかもしれない。
「草木魔法の主な使い方は、植物を急成長させ操ることだ。蔓を使って獲物を縛る。硬い枝を伸ばして貫く。鋭い葉っぱを飛ばして射抜く。そういう行為をするには植物が必要だが、この畑には何も生えていない。こういう場合はどうしたらいい?」
「どこかから種を持って来ます」
クロエさんの答えるスピードが速い。結構楽しんでいるね。
「そうだな。植物は種子や胞子の散布によって広がる。それらを持ち運んでいると、どの様な植物に育つか把握出来るから利用しやすい」
へー。確かに種を持ち歩いた方が便利だね。
マチューさんが腰につけている小さな布の入れ物から種を一粒取り出した。
その種を畑に植えて、そのまま地面に片手を付いた。
片手を付いた僅かな時間で、畑の土がモコモコと動きだす。
動いた土の隙間から、小さな芽が顔を出した。と思ったらあっという間に緑の葉が広がり、茎が天へと延びて行った。
俺の膝下辺りで成長が止まると、見学していたみんなから拍手が送られた。
少し土を触った後、立ち上がったマチューさんはちょっと残念そうに話しだす。
「この植物は観賞用の大きな花を咲かせる。充分に栄養がある土地に植え魔法を使うと、綺麗な黄色の花が咲くまで育つ。今回は途中で止まってしまったな。土地が痩せている証拠だ」
土が悪いと上手く育たないのか。土の良し悪しを判断するのって難しくない?
「森や野原で草木魔法を使うなら土の状態はそこまで気にしなくてもいい。土に栄養が無いのはここが畑だからだ」
なるほど、連作障害か何かで土地が良くないのかな。
特産物を作るより先ずは土地改良だな、とマチューさんが父さんに提案している。
クロエさんは外に出ても熱心にメモを取っている。
その横で姉さんが何か言いたそうだ。
「いつも種を持ち歩くのは面倒だね」
姉さんはそう言うけど、小さな種なんだからポケットに忍ばせておけばいいよね?
「確かに嵩張る時はある。それに持ち運び中の保存法を間違えると、種が使い物にならなくなることもある。だが初心者はある1つの植物を選んで練習した方が良いから、種があった方が便利だぞ」
保存法って大事なんだ。知識は無いけど、湿気とかダメそうだよね。
「熟練のエルフは種を持っていなくても、こんな事ができる、ぞ」
マチューさんが右足を上げ、トンっと軽く畑を踏みつける。
すると先ほどと同じように地面が盛り上がり、背丈の低い草が伸びてきた。ただマチューさんから数歩離れた所に伸びてきたのは驚いた。
「あれはこの辺りに生えている雑草だな。地上部分は刈られていたが地下に根っこが残っていたから、根に魔力を与えて成長させた。このように周囲の植生を観察することで、種を持参していなくとも魔法は使える」
え、確かに畑の周りに生えている草だけど。根っこが残ってるってどうやって分かった?
畑の上には根っこの姿は見えないんだけど。
「土の中だからね、普通に見ても分からないよ。土魔法は使えるだろ?土魔法に利用しようとして地面に魔力を送ると、違和感というか異物感というか、そういう物を感じたことがあるはずだ」
姉さんとマリーがあると返事をしている。俺は魔法が使えないから分からない。
「そいつに更に魔力を送ると、それが根なのか種なのか、もしくは石なのか鉱物なのか判別出来る。もちろん慣れは必要だが、鉱山で働くドワーフもこれで鉱石を探しているし、魚人は水魔法を使って水中で同じことをやっている。他には風魔法を使って、僕の後ろで男爵がリリーとイチャイチャしているのも分かる」
え?
子供達みんなで父さんを睨みつける。俺達が父さんの居る方に振り向いた時は何もしてなかったけど、どうせ父さんが母さんにちょっかい出していたんでしょ。
恥ずかしいから止めてよ。草木魔法に興味が無いのなら屋敷に戻ってほしい。
ごめんと謝られたからしょうがなく睨むのを止めてあげる。
マチューさんは特に気にした様子もなく話を続けた。
「現在多く見られる魔法は、魔力を火や土に作り変えて利用する変換魔法だ。しかし魔法の原点は、水を流したり地面を掘り起こしたり、既に存在する物を魔力で操作することだった。草木魔法は魔法の中でも、魔力操作の色合いが強い。魔力から種子を生み出すことも出来無くは無いが、多くの準備を必要とする」
そっちが原点という事なら、火を生み出す魔法より水や土を操作する魔法の方が簡単なのかな。火魔法の練習をしてたけど、土を動かす魔法からやった方が良い?
どっちも簡単だよと姉さんは言うけど、それはあなただからです。
「魔力で成長させて実らせた野菜や果物は美味しいですか?」
俺と姉さんが話している間にクロエさんが質問をした。
確かにそれは気になる。
俺達に睨まれて落ち込んでいた父さんも復活して耳を澄ませている。
魔法で美味しい作物を育てられるなら、魔法が得意な父さんには耳寄りな情報だよね




