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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第10章
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第42話 俺は声を張り上げる

 俺はマリーが背負っているリュックから6つの魔導具を取り出して、一つずつギゼラさんに手渡して行った。


「ちょっと作りが違うんだね。全部青い宝石が装飾されているけど、こっちの3つの方が意匠が凝ってる」


 受け取った魔導具と自らの腕に装着している魔導具をギゼラは見比べる。


 7つの魔導具は全て金属製のブレスレットで、中央に青い石を取り付けてある。金属で輪っかを作っただけのシンプルなブレスレットで、石の大きさに合わせてあるから幅が広い。小さな石だとドワーフ言語を刻めないからね。石の近くに蝶番を1つ付けてあって、そこを間接にしてパカっと輪っかを開いて腕に装着する。一応輪っかのサイズを3段階で変更出来るようになっている。


 そのうち3つの魔導具は輪っか部分の金属を隆起させて飾りを作ってある。それは細長く畝る1頭の龍。大きな青い石を見つめ、その手には小さな丸い球を掴んでいる。


 見る人が見れば組み込まれた石の違いも分かるんだが、流石にそこまでは分からないようだ。


「男爵家が使う物とそうじゃない物で分けてあるんですよ。ギゼラさんの服装には、あまり派手じゃない方が似合うと思いますよ」


「ふーん。じゃあそっちを貰って逆の腕に付けるとするよ。ありがとう」


 俺の助言を素直に受け入れたギゼラさんはシンプルな作りの魔導具を1つ自分の腕に装着し、残り5つをマリクの下まで運んで行った。


 マリクは受け取った魔導具をテクラとロータルに見せ、好きな物を取れと言う。


「いやいやいや、受け取れないよ。私の分はマリク様が使って。それでマリク様の復讐が果たせるのなら、私はそれで良いから」


 両手をブンブンと振って遠慮するテクラの横から、ロータルがヌッと手を伸ばした。


「では俺はこっちの凝ってない方を」


「ちょっとロータル!ここは遠慮するべきだろ!少しでもマリク様が勝機を掴めるように、全部マリク様が持っているべきだ!」


「それは違うぞテクラ。この魔導具は合言葉を言わないと発動しないんだ。即死は論外だが、喉を潰されて発声出来なくなったらどうする」


「そうなったら私が駆け付けて歌ってやるよ」


「じゃあ腕を切り落とされたらどうする」


「う、腕を拾ってくっ付けてから歌えば。それなら治るんだろ?」


 こちらに向けてどうなんだと問うて来るテクラに、くっ付きますよと返答する。一瞬で片腕が消し炭になっても多分治る。その再生に必要な水分と栄養を確保出来るなら。


「でも、ドロテアさんは合言葉を言う暇を与えてくれないと思いますよ」


 更に続けて俺が意見を言うと、それをマリクが肯定した。


「悔しいがその通りだ。一番嫌なのは、魔導具を大量に抱えて使用出来ずに死ぬ事だ。俺自身も1つは持っておくが、お前達も持って置いて、万が一の時は俺を助けて欲しい。勿論、自分の為に使っても良いが」


「俺はマリク様の盾だ。どんな時でもな。盾は丈夫な方がいい。傷を再生して復活出来る盾なんて最高じゃないか。だから俺は遠慮なく魔導具を使わせてもらうぞ」


 ムンっと気合を入れて両腕に力瘤を作って見せたロータルは、マリクからシンプルな方の魔導具を受け取った。


「わかった。私も持っておく。でも自分には使わない。マリク様が怪我をしたら一番に駆け寄って治してあげるから」


 テクラは龍の方の魔導具を手に取った。


「エディーも1つ受け取ってくれ。ドロテアとの戦いも手伝ってくれると助かるが、ここで契約切れでも構わない。その場合、この魔導具が報酬になるが」


「魔導具は要らない。報酬を払うのなら金で」


「売れば金になるらしいぞ」


「売りに行くのが怠い。入手先を聞かれて説明するのも面倒。この国の通貨が1番楽で嬉しい。それに」


 エディーはこちらに目線を向けた後、ニヤリと右の口角を上げて、


「いや、なんでもない。ただちょっと気になっただけだ」


 と口にしたエディーは、結局どちらの魔導具も受け取らなかった。


「ではロータルとテクラで2つずつ所有して置いてくれ」


 龍の意匠の付いた魔導具をマリクが自分の左腕に装着して、残り2つの魔導具を2人に差し出した。


「ありがとうございます。必ずマリク様をお助けします」


 誓いの言葉述べたテクラは両腕に龍の魔導具を装着する。結果ロータルは2つともシンプルな魔導具だ。


「おい、ギゼラ。合言葉を教えろ」


 教えを乞う立場なのにテクラは上から目線でギゼラに突っ掛かる。


 やれやれと言った様子の男性陣2人もギゼラの話を聞こうとする。


 ギゼラがしっぽりと詠い始める前に、話に割り込もうと俺は声を張り上げた。


「今、腕に付けた魔導具には魔力が通っていません。宝石を手で触って魔力が通るようにしないと、いくら合言葉を言ってもダメですからね。でも、魔導具装備者が魔石を触って、遠くから別の人が合言葉を言っても動きますから。声が届く範囲を維持するようにしてください」


 背後からボソボソと聞こえる声を掻き消す為にも、俺は声を張り上げた。


 その時、玄関の呼び鈴が鳴った。全員扉の方を向く。大きな音で、食堂まで響いて来た。


『炎の化身』は動きを止め、マリクの判断を仰いでいる。いや、エディーは既に食堂の出入口まで移動していた。


「ドロテアと男爵が帰って来たのなら呼び鈴は鳴らさないだろう。ここは待機だ」


 マリクは扉付近のいるエディーに向かって言ったが、マリクの決断を無視するかのように2度目の呼び鈴が鳴らされる。


「おい!お前何してる!」


 出入口から食堂内へと振り返ったエディーが、目敏く俺の動きに気が付いた。


 しかし、もう遅い。


 俺はマリーの背中のリュックに突っ込んでいたその手を一気に引き抜いて、マリーと同時に『言霊』唱えた。


「土竜」「呪縛」


 食堂内にある合計4つの魔導具が2つの言霊に反応し、3度目の呼び鈴が鳴らされた。

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