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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第10章
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第28話 俺は新たな情報を聞く

「はぁ、やっぱり食べるんじゃなかった」


 本日2度目の後悔を姉さんが口にする。


 その発言をする割には、新たに作った炒飯の半分以上は姉さんの胃袋に収まっている。


 一緒に食べていた父さんが止めてくれれば良かったのに、むしろ食べろ食べろと親鳥の如く食べさせていた。


「ゲオルグの料理は美味しいねー。私は料理長の作る炒飯より好きだよ」


 胃袋の中身を吐き出さないように口を押さえた姉さんから、モゴモゴと賛辞の言葉を贈られる。


 もういいから。黙って食べた物の消化に集中しなさい。俺は父さんから話の続きを聞くから。


 で、どこまで話を聞いたんだっけ?


 俺は優雅に食後の紅茶を楽しんでいる父さんに話を振った。


「えーっと。炎の化身が獲物を狩ったにしてはソルウルスの死体の表面が綺麗過ぎたってところまでかな」


 この紅茶飲みやすいなとマリーにおかわりを頼みながら父さんが返答する。


 父さんの話を耳にした姉さんは両頬を膨らませて不満を露わにしている。その頬に入ってるのは空気だよね?吐物的な何かが入ってるんじゃないよね?


「そんな顔をしても現状は変わらないぞ。俺が見た時点でソルウルスは確実に死んでいたし、もう解体作業も始まってる。そんな顔をしても、ソルウルスは生き返らない」


「そんな事分かってるもん。うっぷ」


 興奮した姉さんが危ない感じで口を押さえる。もういいから全部吐いちゃいなさい。


 姉さんは観念した顔をしてクロエさんに介助されながら食堂を出て行った。最後に力強く父さんに反論したのが良くなかったな。腹に力を込めて声を出した事で胃を刺激してしまった。


 調理した側の人間としては吐き戻されるのは辛いけど、仕方ない。


「アリーがやけ食いしたくなる気持ちも分かるけどな。俺だって本当は酒を飲みたいんだが、もう1度捜査本部に帰らなきゃ行けないから我慢しているんだ」


 新しい紅茶に砂糖をこんもりと入れる。父さんは酒の代わりに甘味でストレスを発散させようとしている。


 姉さんがやけ食いする理由はなに?


 やっぱり炎の化身が倒したソルウルスが、姉さんが捕獲したソルウルスと同じ個体だったから?


「さあどうだろう。俺にはその区別はつかないが、アリーには判断出来ているんだろうな。死体を見た時のアリーの反応はそう物語っていた。口にはしなかったけどな」


 どんな様子だったんだろう。


 呼ばれて捜査本部に行ったらソルウルスが居て、驚いたのかな。悔しがったのかな。それとも悲しんだのかな。


 でもそんな反応をするって事は、やっぱり警備隊員を強襲してソルウルスを強奪したのは姉さんだったのかな。


「それは違うと思うぞ」


 姉さん=強奪犯説を父さんが否定する。


「講堂内でソルウルスを警備していた者が犯人は女性と証言したが、実はもう少し犯人像を語っていたんだ。犯人に警戒されないように態と広めなかったんだが」


 ほうほう。俺が姉さん達を疑っているのを知ってて、あえて教えなかったと。


「ゲオルグが姉を捜査本部に突き出して来るようなら教えただろうが、そうじゃなかったからな。それで犯人の特徴だが、背が高く、首筋がしっかりと見えるくらいに髪の短い胸の大きな女性だ」


 顔を見ているわけじゃないのね。


「廊下の角を曲がったところで出会い頭に犯人と遭遇したらしいからな。俯きながら歩いていて角を曲がったら急に目の前に豊満な胸部が飛び込んで来たらしい。驚いて視線を上に上げようとしたところで意識を失ったそうだが」


 大きな胸を持っているから女性だと?


「まあそういう事だな。首筋までは見えたが顔は確認出来なかったそうだ。リリーもアンナも首筋は毛に隠れるほど髪が長い。まあ髪を纏めて団子状にする事は有るが、驚くほど大きな胸では。おっと」


 父さんの横で母さんが笑みを作っている。これは警告の笑顔だ。それ以上胸の話をするなと。


 まあ確かに我が男爵家関係者で1番放漫な胸を持っているのはマルテだ。でもマルテも髪は長い。


「警備員がぶつかった相手はリリーやアンナじゃない。勿論アリーやクロエでもない。それ以外にアリーに手を貸してソルウルスを強奪出来るような女性はグリューンには居ない」


 あ、母さんが連れて来ていたウラさんは?髪は短いし、胸もそれなりに。


「ウラさんはちゃんと家まで送り届けましたが、何か?」


 母さんの笑顔がこちらに向く。疑ってすみませんと俺は素直に頭を下げた。


「まあそんな理由で強奪犯はアリー達じゃないと捜査本部の皆も理解している。そして警備員達が敷いた包囲網を抜けて北の国から新たなソルウルスが侵入して来た可能性は低いとも考えている。おそらくなんらかの理由で、強奪されたソルウルスが炎の化身の手に渡ったんだとの見解が大方の予想だ。手足を縛ったままのソルウルスなら、火魔法を使わなくても簡単に処理出来ただろうしな」


 それなら、炎の化身から秘密を聞き出せば。


「そう簡単に口を割る訳が無いし、尋問する確かな証拠も無い。今はこちらからは何も出来ないんだ」


 残念そうに、悔しそうに、父さんがギュッとその手を握る。


「じゃあ、俺は捜査本部に戻るよ。解体の様子を確認しないといけないからな。炒飯とスープ、ごちそうさま」


 父さんが食堂を出て行った後、母さんが不適に微笑む。


「炎の化身、ちょっと調べましょうかね」


 先程とは違う表情を作る母さんに、すぐにキュステへ行って来ますとアンナさんが反応した。

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