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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第10章
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第24話 俺は父さんの背中を見守る

 マリーの後にゆったりと風呂に入ってさくっと朝食を食べた父さんは、もう徹夜して元気に動き回れるような歳ではないなと独言て、寝室へと向かって行った。


 村警護及び山内捜索をする交代要員の1人として、父さんは夕方から再び北の村へ出向くらしい。


 そんなに大変なら前線の部隊に参加せず、後方で指示を出すだけに留めておけばいいのに。領主なんだからそれくらい楽をしてもいいはずだ。


「偶にしかこっちに来ないから、偶に来た時くらい村民に良い顔をしたいのね。誰に強要されたわけじゃなく自分の意思でやっているんだから、ほっとけば良いのよ」


 重い足取りで廊下を進む父さんの背中を見送りながら、母さんが笑顔で酷い事を言っている。


 父さんの自業自得だと言ってしまえばそうなんだけど、カエデ達の前でそう言い切るのは可哀想な気もしてしまう。母さんの言葉を正確に理解出来ているかは分からないが、母さんにくっ付いているカエデ達の耳にもその言葉は確実に入っている。


「カエデ達に嫌われたくなかったら家族旅行の時くらい仕事の手を抜けば良いのに。それが出来ないのはあの人の欠点?それとも長所かしら?」


 俺に聞かれても困るけど、うーん、俺だったらカエデ達を優先する。だから、欠点、ってことかな?


「そう」


 なんとか絞り出した解答に対して、母さんはその笑顔を崩さなずに短く反応した。どっちの答えを望んでいたんだろう。その表情と言葉では、答えが正解か間違いかも分からない。


「この質問に対する私の答えは私だけの答え。ゲオルグはあの人の背中を見ながら、自分なりの答えを見つけたら良いわ」


 母さんが何を言いたいのかさっぱり分からない。つまり、母さんの答えとは違ったってこと?


 母さんはそれ以上俺に応えず、カエデ達と遊び始めている。


 仕事をするようになれば、母さんの言いたい事が分かるんだろうか。


 父さんはもう既に廊下の角を曲がり、その姿は見えなくなっている。


 さっきまで見ていた父さんの背中は、どちらかというと辛そうだった。徹夜が辛いのか、家族サービス出来ないのが辛いのかは分からないが。


 俺は自分の子供にあんな背中は見せたくない。


 改めて考え直してみても、先程母さんに答えた内容はやっぱり変わらなかった。




 夕方、日が沈み始める前に父さんは一足早く夕食を食べ終え、単身北の村へと飛んで行った。


 朝帰って来た時よりも良い表情で出発出来たのは、その時間にカエデ達が起きていて一緒におやつを食べる事が出来たからだろう。


 それともカエデ達から、いってらっしゃいという言葉をもらったからかな。


 カエデ達は母さんに操られて言わされた感じは有ったけど、父さんが喜んでいたのなら母さんの行動は正解なんだろう。




 父さんが飛んで行って1時間程経った頃、我が家の玄関扉がドンドンとけたたましく叩かれた。


 俺が対応して玄関扉を開ける。息を切らした様子の男性が玄関先に立っていた。


 胸鎧や兜で身を固めている男性。名乗りはしなかったが、この村の警備隊だろう。


 男性は父さんを探していた。しかし、父さんは北の村へ行って不在。


 その事を伝えると、男性は小さな声で悪態をついて屋敷を出て行った。


 なんなんだ。本人は隠しているつもりなんだろうが、俺の耳にはハッキリと聞こえたぞ。


 だから本部か屋敷でじっとしててくれって言ったのに、か。


 どうやら父さんの善意が裏目に出てしまったようだ。


 しかし休暇で来た家族の前でそんな事言うかね。用件も言わずに。せめて用件くらい言えよと。


 まあ、父さんにしか言えない案件なのかもしれないけどさ。


 玄関先で独りぶつぶつと文句を垂れる俺を止める人は誰も居なかった。




 日が暮れた頃、父さんが戻って来た。


 しかし帰って来た事を伝えに屋敷に寄っただけで、すぐにまた出て行く。今度は捜査本部の方へ行くらしい。


 父さんの事を呼びに来た男性が北の村まで行ったんだろうか。


 なんの用事なのかと父さんに聞いてみたが、はぐらかして教えてくれなかった。


 そのかわりに、姉さんは屋敷に居るかと聞かれた。


 姉さんを含めた3名は、朝のラジオ体操以来その姿を見ていないと答える。


「そうか。もし帰って来たら、捜査本部に来るように伝えてくれ」


 父さんはそう言い残して屋敷を出て行った。

 

 その背中は朝のように丸まってはおらず、かといって夕方の時のようにウキウキと楽しそうな感じでもなかった。

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