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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第10章
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第21話 俺は父親の姿を探す

 東方伯達が馬車に乗って帰った日の夕方、キュステから冒険者ギルド職員が数人の冒険者と共にグリューンへやって来た。


 父さんが派遣を依頼したらしく、明日の朝から冒険者は山の中に入って魔物狩りを行うそうだ。


 ギルド職員は冒険者が狩って来た魔物をこの場で査定し、解体する為の人員。色々な大きさのナイフを持参し、どんな魔物でも完璧に捌きますよと語っていた。


 しかし、父さん含め村の警備隊が山狩りした結果、あのソルウルス以外に新たな魔物は見つかっていない。


 態々遠くから来てもらったが、依頼は無駄に終わるんじゃないかな。


「無駄なら無駄で良いんだ。治安維持の為に此処の領主は動いていると、観光客に知らしめる為の依頼でも有るからな。だから多少名の知れた冒険者に来てもらったんだ。『炎の化身』って冒険者クランはキュステでは有名なんだぞ」


 へー、王都では聞いた事が無いね。王都の武闘大会に出て来てくれたら名も知れ渡るのに。


「素直なのは良いが、本人達の前ではそんな事言うなよ」


 炎の化身っていう名前通りに火魔法が得意なのかな。魔物を黒焦げにしちゃいそうな名前だ。


「優秀な冒険者達だからキチッと手加減するよ。なんでそんなに棘のある言い方をするんだよ」


 だってあの人達、今回は慰労を兼ねた楽な仕事だから温泉に浸かってゆっくりするぞーって大声で叫んで温泉施設に向かって行ったよ。


 村の治安維持に来たんじゃなくて遊びに来ただけだって周囲のみんなは思ったと思うよ。


「えっ、あいつらそんな事を。ちょっと注意してくる」


 いってらっしゃい。俺も着替えの準備したら行くけど。


 俺の着替えも頼むと言い残して、父さんは屋敷を駆け出して行った。


 俺もそうだけど、父さんも随分と温泉施設を気に入っているようだ。




 他の家族を引き連れて温泉施設を訪れる。


 広いロビーフロアには多くのお客さんが居たが、その中に父さんの姿は無かった。冒険者の皆さんも居ないようだ。


 ロビーフロアに有る受付で手続きを済まし、俺は家族と別れて独りで行動する。流石に女風呂へ一緒に行く事は出来ないからな。


 男性用の脱衣所を抜けて浴室に入る。浴室内も人がいっぱいで混み合っていた。キョロキョロと視線を動かしながら全体を見て回ったが、父さんは発見出来なかった。


 もう1人で先に入浴しているのかと思ったがそうじゃ無かったようだ。


 炎の化身とかいう冒険者達もいないし、その人達を連れて食事にでも行っているのかな。


 父さんの着替え、どうしよう。


 まあいっか。此処で待ち続けているとまた長風呂だってマリーに怒られるしな。出会えなかったんだから父さんも文句は言わないだろう。


 昨晩と今朝はラースさんが居て賑やかだったけど、今日は独りでゆっくりとお風呂を楽しみますか。




 結局父さんには会えなかった。


 カエデ達が屋台のお店を巡っている間、俺は温泉施設のロビーで出入り口を監視しながら待っていたが、父さんも冒険者達も出入りしなかった。


 代わりにマリーが施設内に入って来て、ロビーフロアに置いてあるソファーに座って出入り口をぼーっと見ていた俺の下へやって来た。


「ゲオルグ様、こちらはもう帰ります。ゲオルグ様の分の夕食もカエデ様とサクラ様が選んで買いましたよ。もう諦めて、一緒に帰りませんか?」


 うん、そうだね。腹も減ったし帰ろう。まったく、父さんはどこへ行ったんだろうね。


「リリー様は、きっと何処かで飲んでいるはずだから心配するだけ損よって仰ってました。私もそうだと思います」


 ははは、辛辣ぅ。


「冒険者の皆さんに明日からしっかり働いてもらえるよう接待をしてるのよ、とも仰ってました」


 なるほどね。まあそういう事なら、帰りますか。酔っぱらった後なら風呂に入らずに帰って来るだろうしね。




 父さんはその日、帰って来なかった。


 朝起きて父さんの寝室を覗いたが、もぬけの空。しかしベッドは乱れておらず、おそらく昨夜ここで寝ていない。


 ラジオ体操にも顔を出さなかった。


 昨晩飲み過ぎてどこかで倒れているんじゃないだろうな。冒険者の皆さんに迷惑をかけてなきゃ良いけど。


 もはやグリューンでの朝の日課となった温泉施設へ大回りしながら向かうマラソンの最中、失態をおかして母さんに土下座しながら謝る父さんの姿が頭から離れなかった。


 温泉施設に到着してロビーを見渡すと、そこに昨日村へ到着した炎の化身の人達の姿があった。


 俺はすみませんと冒険者に声をかける。


 父の、フリーグ男爵の姿を見ていませんか?

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