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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第2章 俺は魔法について考察する
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第25話 俺はエルフに嫉妬する

 俺達が宿併設の食堂で夕食を食べている頃、ジークさんがやって来た。

 思ったより遅かったね。父さんと母さんはどこだろう。


「キュステに入ったところで東方伯に捕まって遅くなった。なんで孫が一緒じゃないんだって怒ってたよ」


「げ」「うわ」


 思わず声が出た。同時に声を出した姉さんと目が合い、お互い変な顔になってしまった。

 俺だけでもキュステに行けば良かったな。

 ていうか、父さんは俺達が一緒に領地へ行くって言ったのかな。そこ、言う必要ないよね。


「孫に会えないなら晩酌に付き合え、って男爵は連れていかれた。男爵がリリー様の手を離さなかったから、リリー様も一緒に。俺は自由にしていいって言われたからこっちに来たんだ」


「キュステでゆっくりお酒を飲んで来たら良かったのに」


「まあ一応伝言にな。それに1人だと飲み過ぎて明日が辛くなるから」


「そこは妻と娘が心配だったって言うところじゃないの?」


 マルテとジークさんの夫婦漫才が始まった。2人共楽しそうだから放っておいていいか。


「マチューさんは来ないの?」


 どうやら姉さんは2人の漫才よりエルフ族の方が気になるらしい。そりゃそうか、そのために遠くまで来ているんだから。


「マチューは今夜も仕事があるらしく、明朝2人と一緒に合流する。東方伯がマチューの為に馬車を用意して、御者と護衛、使用人も一緒に行くことになった」


「意外と過保護だね」


 マチューさん1人で俺達の馬車に乗り込むものと思ってた。


「それだけマチューが貴重な人材だということだ。移動中も仕事を出来るように使用人まで付けたみたいだぞ。普通は依頼料に加えて馬車や護衛の費用を請求するところだが、全部無料になったんだから東方伯も太っ腹だよな」


 依頼料が無料になったのは聞いていたけど、その辺りの費用もなのか。

 無料にするくらい父さんが頭を下げたのが嬉しかったのかな。


「じゃあ領地に着くまであまり喋れないね」


「そうだなぁ。あっちは宿も1番良いところにするだろうからな。まあ今更焦らずに、向こうに着いてゆっくり喋るといい」


 うん、父さんはケチって安めの宿を取るよな。人数が多いから一流店なんて無理だね。


「そっか、残念だなぁ」


「そうだね姉さん。でも移動中も仕事するみたいだから、無理して突撃したりしないでよ」


「やっぱダメか」


 しようとしてたね。アンナさん、よく注意しててね。




 翌日、父さんたちが2台の馬車を引き連れて合流した。


 1台は俺達が乗っている馬車と比べて随分と立派な馬車。きっとこっちにマチューさんが乗っているんだろう。

 もう1台は何用かな。


「おはよう、みんな元気?」


 馬車を眺めていると今にも倒れそうな声で、父さんに話しかけられた。うわ、酒くさ。

 前世の父親でもここまで酒臭かったことはないぞ。

 鼻をつまんで後ずさりをする俺に、父さんが追いすがる。


「逃げるなよぅ、体調の悪い父さんを労わってくれぇ」


 いや、飲みすぎてるだけでしょ。なんでそんなになるまで飲むんだよ、飲まずに帰ってきたジークさんを見習ってくれ。


「お父様に無理やり飲まされて大変だったのよ。許してあげて」


 母さんが優しい言葉をかけるけど、臭いのはちょっと。

 母さんはいつもと変わらないんだね。


「私は途中からこっそり水にしたからね。酔っぱらったお父様に付き合うのは無謀よ」


「リリーだけずるいぞ」


「いいじゃない、お父様も嬉しそうだったわよ」


「俺をいじめて楽しんでいただけだろ」


「おーい。まだ出発しないなら、こっちは先に行くぞ」


 父さんが母さんに絡んでいると、文句を言いに立派な馬車の方から人が降りて来た。


 すらっとした長身の男性で、やや黄色に近い黄緑色の髪を短めに整えている。綺麗な髪から姿を覗かせている耳が、人族より尖っている。人族と同じ位置にあるが人族と異なる特徴の耳、彼がエルフ族だ。


「ああ、ごめんね。直ぐに出発するけど、子供達の紹介だけさせて」


 母さんが俺達を呼んで並ばせる。じゃあ端っこの俺から言おうか?


「ゲオルグです。今回はよろしくお願いします」


「マルグリットです。マリーと呼んでください」


「アリーだよ。いっぱい草木魔法を教えてね」


「クロエです」


 クロエさんだけちょっと声が小さい。麦藁帽子をギュッと被って俯いている。会った時は気付かなかったけど、人見知りなのかな。

 まあ俺との出会いは最悪だったけどな。


「僕はマチューだ。エルフ以外に草木魔法を教えたことはないから上手くいくかわからないけど、よろしく」



 マチューさんは挨拶した後、何処からか小さな花を取り出した。

 手品かな、何処にそんな花を仕込んでいたんだろう。

 もしかして草木魔法を使った?


「これは可愛い獣人族の御嬢さんに」


 そう言ってクロエさんが被る麦藁帽子のリボンに花を挟んだ。


 な、なんて優雅な。仕事だけの人かと思ったらそんなこともしちゃうの?

 俺もやってみたい。


 花を貰ったクロエさんが帽子を脱いで確認。可愛い笑顔でマチューさんにお礼を言っている。

 俺にその笑顔が向けられるのは、いつになるんだろうね。

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