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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第10章
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第11話 俺は誰かに見つけられる事を願う

 姉さん達が捕獲した熊を運び出す前に、父さんは金属魔法を使って熊の両手両足を縛り上げた。意識が無いからと言って今まで縛っていなかった事を姉さんに注意しながら。


 その後、屋敷の奥から数枚のベッドシーツを持って来た父さんは、大きな熊の体を覆い隠した。外を運ぶ時に人目に触れないようにしたかったんだろう。ここに運んで来るまでの間に誰かに見られているとは思うが。


「では行ってくる。アリーとクロエは付いて来なさい」


 父さんは浮遊魔法で熊を持ち上げ、姉さん達を誘導しながら屋敷を出て行った。


 これから村長や警備担当者に実物の熊を見せながら、対応を協議するそうだ。


 俺も付いて行こうかなと思ったが子供が多過ぎるの良くないかと思って遠慮した。帰って来たらどんな話になったか教えてもらおう。


「北の国の魔物なら、ヴァルターさん達が詳しいんですかね。フリーエン傭兵団の頃は北の国内を移動しながら生活していたって言ってましたよね」


 隣で一緒に父さん達を見送ったマリーが、ふと思いついたように話を切り出した。


 確かにそうかもね。でもヴァルターさん達は傭兵の仕事で国外に行く事も多かったはずだ。移動生活を繰り返していた時の主役は奥さん達だから、現地の魔物に関しては奥さん達の方が詳しいかもね。


「ではその事を男爵様に伝えて来ますね。1人で飛んで追いかけた方が速いので、ゲオルグ様はお留守番をしていてください」


 えっ、俺も話し合いに参加出来る良い言い訳が生まれたと思ったのに。


「そんな顔しなくても私はすぐに帰って来ますよ。リリー様1人でカエデ様達を相手し続けるのは大変でしょうからね。私が帰って来るまでは、ゲオルグ様が遊んであげてくださいね」


 お願いしますよと付け加えたマリーは、俺の返事を聞かずにふわりと飛び上がって行ってしまった。




 真っ暗な闇の中に座り込み、息を殺してじっと動かず、俺は孤独に耐えている。


 自分自身でこの場所を選び、入り込んだ。しかし、何も見えない、何も聞こえない。


 寂しくて、悲しくて、不安になる。


 このまま此処で誰にも見つけられず、放置されてしまったらどうしよう。時間が経てば経つ程、そんな不安が脳を支配し始める。


 あの熊も洞穴の中でこんな気持ちだったんだろうか。


 北の住処を追われ、漸く見つけた洞穴に入り込み、独り寂しく春を待っていたんだろうか。


 それなのに。折角春まで我慢したのに。これから新しい土地で心機一転頑張ろうとしたのに。姉さんに見つかって捕まってしまった。


 そしてそのまま殺される。


 無念だったかな。


 それとも別の感情が。


 熊の気持ちは分からないが、暗闇の中に潜んでいると、なんとなくあの熊の事ばかり考えてしまう。


 逃してあげたいという姉さんの気持ちも分かるし、領民の事を思う父さんの考えも分かる。


 おそらく父さんの考え通りの結果になるんだろう。しかし、願わくば姉さんの希望を神様が見つけてくれて、あの熊が何処かに転生出来ると良いなと思う。


 人かな。また熊かな。それとも別の動植物か。転生はするけど、もしかしたら別の世界に行くことになるかもしれない。


 可能ならば姉さんがまた戦える形で、姉さんの希望が聞き入れられると良いな。でもそうなると、熊の時の記憶も残って転生するんだろうか。姉さんに復讐する悪鬼にならなきゃ良いけど。


 そんな風に熊の未来を考えながら、俺は誰かに見つけられる事を願って、独り寂しく暗闇に身を潜めている。




「兄様、みつけた!」


 バッと開け放たれたクローゼットの扉から光が差し込み、内部の暗闇が一瞬にしてその形を失う。それと同時に俺の中の不安な気持ちも消えて無くなった。


 マリーを待っている間、屋敷内でカエデ達と一緒にかくれんぼを始めたんだが、巧く隠れ過ぎたのかもしれない。見つかるまで随分と時間が掛かってしまった。


「兄様、ないてる?どこかいたい?」


 クローゼットに隠れた俺を見つけたカエデが、俺の顔をグッと覗き込む。


 いつのまにか俺の目には涙が溜まっていて、今にも流れ落ちそうになっていた。


 俺は慌てて袖で涙を拭き取る。


 あの熊に感情移入し過ぎたか。いや、これはきっとクローゼット内の埃が目に入ったからだな。


「いたいのはカエデがなおすー」


 そういうと、カエデはクローゼットの床に座っている俺の頭まで右手を伸ばし、いつも俺がそうしてやっているように、ゆっくりと俺の頭を撫で始めた。


「いたいのいたいのとんでいけー。どう?なおった?」


 お姉さん的な行動を取れて嬉しかったのか、目を爛々と輝かせて顔を近づけて来る。


 そんなカエデが可愛くて、まだ治ってないからもう一回やって欲しいと、ついカエデの方に頭を向けてお願いしていた。


 ついね、つい。

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