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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第10章
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第9話 俺はお土産の購入を忘れる

「おにくおいしーねー」


 うん、おいしいね。


 一口大の豚肉の切り身を串に刺して醬油ダレを付けながら焼いている。醤油の他に砂糖が入ってるのかな。ちょっと甘辛くした味付け。とても旨い。


「もっとたべてもいい?」


 うん、いいよ。村長に呼ばれて一緒に来れなくなった父さんから、お小遣いを沢山貰ったからな。いっぱい食べよう。


 でも、もう一度行列に並ぼうな。


「うん、がまんできる!」


 よしよし、偉いぞカエデ。


 食べ終わった串を道に備え付けられているゴミ箱に捨てて並びに行こうとすると、行動を共にしていたマリーがちょっと待ってくださいと口を開いた。


「サクラ様がお魚も食べたいそうなので、私達は向こうの焼き魚の屋台に行ってきます」


 おお、分かった。あそこの屋台は俺も気になっていた。俺も食べたいから、俺の分も買っておいて。


 カエデも魚を食べるか?


「うん、たべる。サクラとマリーも、またおにくたべる?」


 カエデの質問にサクラは食べると頷いた。


「ではカエデ様。私達の分も一緒に買ってくださいね」


「わかった!」


 手を上げて元気に答えたカエデに、マリーが2人分のお金を手渡す。


 じゃあ俺もサクラにお金を渡しておこう。よろしくな、サクラ。


「うん、いってくる」


 小さな手に数枚の硬貨をしっかりと握り締め、サクラはマリーと共に別の行列へ並びに行った。


 あっちの屋台は味噌に漬け込んだ川魚の切り身を串に刺して焼いているようだ。西京焼きみたいな感じかな。あっちも絶対に美味しいやつだ。


「おにくもおさかなもすきー。でもにがいおやさいはきらい」


 野菜の苦味を思い出したのかカエデは顔を顰めている。


 苦手に思う気持ちも分からなくはないが、生野菜も食べなきゃダメだよ。


「うー。おいしくないのに」


 ね、俺も美味しいと思わない野菜もあるけど、食べなきゃダメなんだよ。


「兄様も、がまんしてる?」


 そうだよ、我慢してるよ。カエデも我慢出来る。


「できない。おにくのほうが、おいしい」


 ははは、即答しやがった。


 まあいっか。お肉、美味しいもんな。


「うん、ここのおにくすき!母様のもかう!」


 そうだね、お金は有るから行列を嫌がってお茶屋で休憩している母さんの分も買って行こう。


 カエデの声が聞こえていたのか、屋台の人が串一本分をサービスしてくれた。


 ありがとうと抜群の笑顔でお礼を言うカエデに、みんなメロメロだった。




「なあゲオルグ。リリーから聞いたんだが。カエデお勧めの肉、なんで俺の分は無いんだ?」


 すみません。父さんは村長のところで食事をして帰って来るって言ってたから。


「なあマリー。サクラお勧めの魚、なんで俺の分は無いんだ?」


「申し訳ありません。忘れていました」


 俺はマリーと共に、仕事から帰って来た父さんに頭を下げている。


「確かに俺の分も買って来てくれとは言わなかったけど、買って来れる程の金は渡しておいただろ」


 はい、十分な量を頂いておりました。


「くそう。村長の話なんか無視して一緒に行くべきだった。今回は仕事じゃ無くて家族旅行なのに、仕事へ行った俺が馬鹿だった」


 えーっと、もう一度行って買って来ましょうか?


「朝食の時間帯は終わってる。屋台は夕方の準備の為に閉まってるぞ」


 ああ、そうなんだ。じゃあ夜か明日の朝にでも。


「夜は温泉施設で食事しようかと思ってるから、明日の朝だな。だが大事なのはカエデとサクラが父親にも食べさせたいと言って買って来る事が大事なんだぞ」


 はい、分かってます。カエデ達がそう動くよう巧く誘導して見せます。


「はあ。村長にご馳走になったから腹は空いてないが、心が満たされてない」


 詩人か。


「村長はどのような要件だったのですか?」


 ガックリと項垂れる父さんの気持ちを逸らそうとしたのか、マリーが話題を振った。


「別に対した用事じゃない。最近の村の発展具合だとか、今後の方針の確認だとか、賊や魔物の出現頻度だとか、まあ和やかな雰囲気で食事をしながら話せる話題だ。そんなもん、いつも輸送隊が王都まで運んで来る書類で確認出来るんだから、やっぱり娘達との交流を優先するべきだった」


 賊に魔物って、全然和やかな話じゃないと思うんだけど。


「この村を囲んでいる山をいくつか越えると他国だからな。賊が態々山を越えて来る事もある。人が住んでいない山奥には魔物が住みつく事もある。その都度捕縛や退治をしていて村には被害が無いから大丈夫だ。勿論グリューンだけじゃなくて、領地内にある他の3つの村も安全だぞ」


 そういえば男爵領内には他にも村があるんだった。他の村もここみたいに発展してるの?


「いや、他の村は山の中腹にあるから土地が無くてな。輸送技術のおかげで林業や農業が好調だから、以前よりは楽な暮らしが出来ているとは思うがな」


 へー、そうなんだ。グリューンへ来たついでに、見に行ってみようかな。


「興味があるのなら連れて行ってやるが、本当に何もない普通の農村だぞ」


 うん、行ってみたい。学校へ通う前に、父さんの領地を全部見ておきたいから。


「そこまで言うならそれでもいいけど。じゃあ明日は朝から3つの村を視察して回ることにしよう」


 父さんの口角が少しだけ上がった。どうやら機嫌は治って来たようだ。


「そういえば、アリーはどうした?」


 知らない。朝一緒に父さんからお金を貰った時から姿は見てない。姉さんにはクロエさんとアンナさんが付いているから大丈夫だと思うけど。


「ただいまー」


 ちょうどその時、姉さんの声が屋敷内に響いた。


「父様、お土産あるよー」


 お土産と聞いて更に口角が上がった父さんが、姉さんの元へと走り出す。


 しかし。


「見てこれ、凄いでしょ。私とクロエで捕まえたの」


 アンナさんが浮遊魔法で運んで来た大きな熊を見て、父さんは言葉が出ない程に驚いていた。

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