表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第10章
601/907

第7話 俺は父親の背中を見て走る

「ゲオルグ。今日もマラソンするなら、父さんが付いて行ってやるぞ」


 グリューンの男爵邸に泊まった翌朝、ラジオ体操を終えると父さんが珍しい事を言い出した。


「不慣れな場所をマリーと2人っきりでは不安だろ。ルトガーの代わりに父さんがしっかりと護衛してやるからな」


 ヴルツェルで走った時はそんな事言わなかったのに、どういう風の吹き回しだろうか。


「アリーの方にはアンナが付いてるからな。ゲオルグの方にも誰かが付いて行くべきだろ。大丈夫、ゲオルグの走る速度にしっかり合わせるからな」


 そこは別に心配してないんだけど。


「よし、では行くぞ。目的地は馬車停留所だ」


 父さんは俺とマリーの背中をポンと押し、俺達を置いて先に走り出した。


 まあ偶には父さんと走るのもいいか。


 俺はマリーと目配せをして、父さんの背中を追い掛けた。



「ふぅ。よし、停留所に着いたな」


 昨日停留所から屋敷へ向かった道を逆走し、それほど時間が掛からずに目的地に着いて立ち止まる。いつももっと走っている俺としてはちょっと物足りない気がする。


 しかし、朝早くから人が結構居て、通りが賑やかだったな。この時間帯、王都の屋敷の周りは静かなもんだ。ヴルツェルでは牧場付近に行くと早くから働き始めている人を見る事が出来たが、こっちには仕事をする感じじゃない人もいた。


「ちょっと休憩がてら、停留所の中を覗いてみようか」


 休憩する程疲れてもいないんだけどという俺の主張は聞き流され、父さんに手を引っ張られて停留時の中の方へと入って行く。


 停留所には通り以上に多くの人が居て、こちらは通りの人達とは違って朝から忙しそうに働いていた。


「第三輸送隊、積荷の搭載が完了しました」「よし、出発。第四輸送隊も準備を急げよ」「5分以内には完了します」


 脇に避けた俺達の目の前を複数の馬車が連なって通り抜ける。


「第三輸送隊はキュステを通過して王都に野菜を運ぶ隊だ。途中で船に乗るから、他の馬車隊より小柄の作りになってる。だがその分他の隊より数が多いぞ」


 父さんが少し自慢げに説明して来る。なんとなく、停留所を目的とした理由が分かった。


「男爵。見学は構わないが、子供達が走り回らないよう注意していてくれよ」


 馬車が通り過ぎたところでこちらの存在に気が付いた人が注意を促して来た。先程輸送隊に指示を出していた人だ。そういえば、昨日もこの人が皆を仕切っていたな。この停留所の管理者だろうか。


 しかし子供扱いは心外だ。職場で走り回るほど子供じゃないと言い返してやろう。


 と思ったら、俺よりも先に父さんの口が動き出した。


「息子と娘は俺に似て賢いから大丈夫だ。それよりも、今日の荷物の状態はどうだい?」


「男爵似だったらダメだろ」


 父さんの言葉が笑い飛ばされる。失礼だなと思う反面、妥当な判断だなと思う自分もいた。


「積荷はいつも万全さ。どこへ持って行っても高く売れる。それもこれも氷結魔法と重力魔法の魔導具のおかげだ」


「あっ、それ。俺の息子が作ったんだぞ」


 父さんが俺の頭に手を置いて相手に自慢する。


「ははは。そんな小さな子供が作れる代物じゃないだろ。もしそれが本当なら、残念だがその子は男爵の息子じゃない。きっと何処かの高明なドワーフ族とのハーフだな」


「はっはっは。間違い無く俺の息子だ。ゴブリンがドラゴンを産むってやつだな」


 相手に合わせるように父さんも笑い始めたが、なんなんだその例えは。


 トンビが鷹を産むの変形か?


 せめて同じ種類の生き物にするべきじゃないのか。魔物同士だから同じって事でいいのか?


「それは男爵が引退した後が楽しみだ。おい、第四輸送隊の準備はまだか」


 笑顔で仕事に戻って行く彼の背中を目で追いながら、父さんが口を開く。


「俺は朝一のこの場所が好きなんだ。グリューンに来るとほぼ毎日朝様子を見に来る」


 へー。どちらかというと朝が弱くて後5分寝かせてくれというタイプの父さんが。


「村で作られた作物が各地に運ばれて行って食される。そして金と現地の物資を持って帰って来る。村を発展させる商売の集積地がここだ。それをゲオルグにも見せておきたくて、な」


 まあ要するに自慢したかったと。


「まあな。将来的にゲオルグがここの領主になるかどうかはまだ確定ではないが、領主になった未来の為に前任者が何をやっていたか知るのも悪くないだろう」


 そんな先の事を色々考える必要あるのかな。まだ学校にも通ってないし、父さんも至って健康体。何か不祥事を起こして領地を没収される可能性もあるわけだし。


「学校に通う前だから言うんだ。あそこは高学年になると選択授業が増えていく。役人になるのか兵士になるのか、はたまた学者か芸術家か。どの授業を選ぶかで将来の職種に影響する。勿論領主もな。確か1年目の学生には選択授業は無かったはずだが、最初から未来の事を考えておくと全然違うはずだ。失敗した俺が言うんだから間違い無い」


 失敗したのか。


「自分の好きな授業しか取らなかったからな。戦術や武術は戦争の役には立ったが平和な治世には不必要だろう。将来的に絶対他国と戦争しないとは言い切れないけどな。因みにアリーにもこの話をしたが、アリーは俺と一緒で好きな物しかやらないって言ってたな。まあ最終的には個人の自由だ。ゲオルグの好きにやれ。マリーも好きにしたらいいと思うが、一応ジーク達の意見を聞いておけよ」


「はい、今度会って来ます。お気遣い有り難うございます」


 素直に返事をするマリーに笑顔で頷いた父さんが、


「さて、次の目的地へ向かって走るとするか」


 と言って動き出した。


 珍しく真面目な話をしたからか、父さんの顔は少し赤くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ