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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第2章 俺は魔法について考察する
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第24話 俺はレディの機嫌を損ねる

 毎日馬車に揺られ、毎日美味しい物を食べ、毎日クロエさんに避けられて、キュステ近くの町に着いた。


 キュステから北に向かって伸びる街道沿いの町で、周囲は農地に囲まれている。

 王都方面、つまり西からキュステに近付いた俺たちは途中で母さん達と別れて北上しその町へ。母さん達は予定通り商隊の人達と一緒にキュステへ入っていった。

 町に着き、俺達を降ろしたジークさんは馬車を操ってキュステに戻ったから、気付いたら男は俺1人。

 やっぱりキュステに付いて行けば良かったなと後悔。


 町に着いて宿を取り、散策に出た。キュステより遠くに行くため今朝早めに出発したから、まだ日が沈むまでは時間がある。


 近くに大きな街があるお陰で、この町は人が少ない。

 特に観光するような場所もないみたいだし、美味しい物を食べたいのならキュステに行った方がいい。昔からここに住んでいる人が細々と生活している町、といった印象だ。

 この町に一軒しか無い宿屋の人も、農作物を買い付けに来る商人以外が泊まるのは珍しい、と言っていた。


 町を歩いていると、たまにすれ違う住人の視線に気付く。

 悪意は無いんだろうけど、好奇な視線。

 それが俺達を通過してクロエさんに注がれている。

 クロエさんも見られているのに気付いているようで、少し俯き気味だ。


 すれ違う住人は人族ばかり。

 この町で暮らしていると他種族が珍しいのかもしれない。

 今まで泊まった街ではそういう視線は感じなかった。大きな街には人族以外の種族を多く見かけたからね。エルフはもちろん居なかったけど。


 うーん、クロエさんが可愛らしくて注目しちゃうのはわかるけど、これじゃあ落ち着いて散策出来ない。何かいい方法は。


 お、良いものが売ってあるね。


 ストローハット。日本名では麦藁帽子だ。


 藁で編んだ丸い山型の帽子。この辺りで取れた小麦の藁を使ってるのかな。

 麦藁帽子には日除け用の鍔が付いていて、女性用は男性用より広く作られているんだよね。

 ここの店では、男性用には黒いリボンが装飾で巻かれている。女性用は数種類の色から選べるみたいだ。


 試着していいと店員さんから許可を得て、白いリボンが巻かれている女の子用の帽子を手に取る。

 どうかなとクロエさんに見せると、少し警戒しながらも受け取ってくれた。避けられるかと思ったけど、よかった。


 被ってみてどうだろう。可愛らしい耳が見えなくなったら注目される事も無くなると思うんだ。帽子によって耳が痛くならないといいけど。


「普段帽子を被らないから変な感じ。ぎゅうっとすると耳が痛いけど、ふわっと被ると大丈夫」


「この町には獣人族は暮らしてないし他所から来るのも珍しいから、獣人族用の帽子は作ってないのよ。ごめんね。でも綺麗な髪と帽子の色が合っていて、とてもよく似合ってるわよ」


 さっき試着を許可してくれた店員さんが、満面の笑みでクロエさんを褒めている。褒められたクロエさんもまんざらではなさそうだ。店員さんは商売上手だね。

 ほんとは黒のリボンの方がいいと思うんだけど、女性用に黒が無いんだよね。男性用と区別するためなのかな。


「ねえゲオルグ、私達の帽子も選んでよ」


 姉さんがマリーを引っ張りながら俺に話しかける。え、2人の分も?

 ええっと、じゃあ。


「姉さんには草木魔法が上手くいくように青いリボンの帽子を。マリーには、あ、赤で」


 く、マリーの色にも何か意味を付けたかったけど思いつかなかった。

 喜んで青いリボンの帽子を手に取る姉さんの横で、少し不機嫌になるマリー。ご、ごめん。赤、似合ってるよ。


 周囲の大人から送られる視線が痛い。それじゃあダメだと言っている呆れた視線が。

 だって、思いつかなかったんだからしょうがないでしょ。

 店員さんは兎も角、通りすがりのおじさんからも呆れられる謂れはないぞ。




 結局俺が選んだ3種の帽子と、俺用に帽子をもう1つ買って店を後にした。


 頭を隠しても綺麗な尻尾が出てるとみんな見ちゃうから、と言って店員さんが腰に巻く布を売ってくれた。売り付けられた、と言ってもいいほど強引ではあったけど。

 その布を店員さんがパレオのように巻いてあげたら、クロエさんはもっと可愛くなってしまった。

 店員さん、ありがとうございます。

 俺は気持ちよくお金を払ったね。父さんの金だけど。


 クロエさんは爺さんから預かったお金を渡そうとしてきたけど、そのお金は受け取れないね。それは爺さんと婆さんへのお土産代に使って欲しい。

 この帽子とパレオ代は俺からのプレゼント。謝罪の意味も含んでいるけど、クロエさんが俯いて歩かなくてもいいようにするためのプレゼントだから。父さんの金だけど。


 子供達4人で麦藁帽子を被って町を練り歩く。クロエさんの腰に巻かれたパレオが風になびいている。


 クロエさん個人への注目は思った通り薄れたようだ。

 でも代わりに、俺達4人へ視線が向けられているように感じる。


 宿屋に帰ると、その宿屋の人もじっと俺達を見つめてくる。

 どうしたのかと聞いてみた。


「何年か前にキュステに外国から安い布製の帽子が入ってくるようになって、麦藁帽子の需要が無くなったのよ。昔は帽子を作っている家が何軒もあったけど、今は1軒だけ。子供が麦藁帽子を被るなんてしばらく無かったから、懐かしくてつい見ちゃったのよ」


 そうなのか。いい帽子なのに勿体無いね。


「私達が他の街で被って宣伝するから、きっとまた人気になるよ」


 姉さんも気に入ったみたいで太鼓判を押している。

 うん、きっと流行るよ。これから夏になる。日除けがあって通気性もいい麦藁帽子は夏の必需品だ。

 それに3人とも、とてもよく似合ってるからね。

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