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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第10章
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第1話 俺はカレーを作った事を後悔する

 はあ。


 失敗した。


 カレーは暴力だ。


 カレーなんて作るんじゃなかった。


 アマちゃんが大量に持って来た材料の山からカレールーを見つけた時、心躍ってしまった自分が憎い。


 神様達みんな美味い美味いと食べてくれたから作ったカレーは失敗してないんだけど、失敗だった。


 カレーの味と匂いが、こんなにも前世の記憶を呼び起こすなんて。


 前世の両親と妹と、4人で食卓を囲んでカレーライスを食べた記憶を鮮明に思い出してしまった。


 カレーを食べる家族3人の笑顔がどんどん膨らんで、いつのまにか俺の頬を涙が伝っていた。


 醤油や味噌、餡子を食べても、炊き立ての新米の香りでもそんな事は無かったのに。


 カレーはなんであんなに暴力的なんだ。


 はぁ。


 カレーライスを食べて泣き始めたという事実も、俺の気持ちを沈めてしまう。


 アマちゃんに盛大に揶揄われたからな。


 今までアマちゃんと絡んで来た中で最高に楽しそうだったけど、最強にウザかった。


 自分の方が有利に立ったと思った瞬間に、アマちゃんは強気な態度で他人を煽る。


 日頃の鬱憤を晴らすかのように、煽る煽る。


 ニンマリと口角が上がって垂れ目になって、とてもとても口では言い表せない程にいやらしい表情で煽って来る。


 幸いマギー様が力尽くでアマちゃんを止めてくれたけど、あのアマちゃんに馬鹿にされた事で俺の心は深く傷ついた。


 そりゃ俺だってアマちゃんを揶揄う事は有るし、常日頃馬鹿にして来たけど、それはアマちゃんがその都度それなりの悪行を重ねて来たからで。


 カレーライスを食べて哀愁に浸ってしまった俺を、あそこまで揶揄って来るアマちゃんは単純に性格が悪い。


 はぁ。


 でもアマちゃんの精神的暴力よりも辛いのは、神界でカレーを食べた事で定期的にカレーを食べたくなってしまった事だ。


 あのカレーの味をついつい思い出しては食べたくなってしまう。


 こっちの世界ではカレールーなんて手に入らないのに。


 かと言ってスパイスから自作しようにも、カレーをスパイスから作った事なんて無いから、それを作るのに何が必要なのかの知識も無い。


 もしかしたらこの世界のどこかにカレー料理があるかもと思って調べてみたけどそれらしき物は無い。


 シチュー系の煮込み料理は有るんだけどな。


 氷結魔法の言霊のおかげで冷蔵技術が広まって新鮮な牛乳が出回るようになり、王都でクリームシチューも楽しめるようになった。


 しかし、カレーに類似する物は見つからない。少なくともこの国とその周辺国には無いと思う。


 アマちゃんからカレーに必要なスパイスを聞き出すか?


 いや、知っていたとしてもあのアマちゃんが素直に教えてくれるはずが無い。


 マギー様もアマちゃんから情報を得るのを良く思わないかもしれないし。


 インド系の人が地球からこの世界に転生して来るのを待つしかないのか。


 はぁ。




「もう、さっきからため息ばっかりついてなんなんですか。ここ2ヶ月程ずっとそうですよ。耳障りなんで止めてくださいって何度も注意してますよね」


 ごめん、マリー。ちょっと色々考えちゃって。ついね、つい。


「明日からみんなでヴルツェルに行くんですから、しっかりしてくださいよ。今回は久し振りにクロエさんが里帰りするんですからね。あんまり暗い表情をしているとクロエさんに嫌われますよ」


 残念だけど、クロエさんは俺の事をそんなに見てないと思うよ。


「ではデニス様とリタ様が心配するので止めてください」


 はいはい、気をつけます。


 でもマリーは俺のことよりも自分の心配をした方がいいんじゃないかな。今回はみんなで馬車移動だからね。乗り物酔いは辛いよね。


「またそんなにニヤニヤして。人の不幸を喜ぶなんて性格悪いですね。でも、エステルさんから乗り物酔い用の薬を頂いたので問題有りません。残念でした」


 ちっ、薬を忘れてた。俺の頭の中はまだカレーの事でいっぱいになっていて、思考が鈍っているようだ。


「4月からは学校に通うんですからね。私はもう慣れましたが、同級生にその顔を見せるのは控えてくださいよ」


 えっと、多少笑っていたかもしれないけど、そんなに変な顔だった?


「ええ、それはもう。ニンマリと口角が上がって垂れ目になって、とてもとても口では言い表せない程にいやらしい表情でした」


 ちょっと待って、それは言い過ぎだよね?


 嘘だと言って。


「さあ、どうでしょうか。気になるのなら私以外の誰かを揶揄って、その時のご自分の表情について聞いてみてはいかがですか?何だったらエマさんを呼んで来ましょうか?」


 すみません。俺が悪かったです。許してください。もう2度と煽りません。


「はいはい、そんな誓いはどうせ3歩歩けば忘れるんでしょ。私以外にやらなければそれで良いです。それよりも、早く荷造りをしましょう。終わってないのはゲオルグ様だけなんですからね」


 はい、すみません。


 まさか俺がアマちゃんから受けた事をそのままマリーにやっているとは思わなかった。


 これは気をつけないとな。


 学校で同級生にやらかしたら大変な事になる。


 前世では学友は2人しか居なかったけど、今世ではなるべく沢山の人と友好関係を築きたいからな。




「あんなに動揺するとは思いませんでした。ちょっと言いすぎましたかね」


 ん?


 マリー、何か言った?

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