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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第9章
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第19話 俺は接近戦を試みる

 本日2度目の落雷準備の為にぐんぐんと上空へと昇る魔導具達が、足を下にして落下する姉さんとすれ違った。


 それを確認した姉さんは先程風魔法を防いだ金盾を消去した後、


「土盾」


 今度は別の防御用魔法を展開する。


 姉さんの頭部と上空の魔導具の間に現れた土塊が、形を変えて半球状の盾となる。姉さんはその中で手足を折り畳んで縮こまり、土盾と一緒になって落下し始めた。


 落雷の魔導具が空に上がる時間、この時間が勿体無い。初見ならまだしも、何度も使うとその隙を使って対処されてしまう。要改良だ。


 ドゴンッ。


 3本の落雷が吸い込まれるように土盾へ激突する。


 落雷は防がれたが、激突の衝撃に後押しされて土盾が落下速度を上げる。


 当然その内側に居る姉さんも土壁に押される形でぐんぐんと落下する。


 姉さんは丸まったまま動かない。このままだと地面に衝突するぞ。更に土盾によって押し潰される可能性も。


「ゲオルグ様、水柱、土壁、風弾の魔導具に魔力補充し終わってます」


 左後方からマリーの声が耳に届く。風弾の魔導具は投げ渡したが、水柱と土壁はいつのまに回収したんだ。しかし、ナイスだマリー。


「マリー、姉さんの落下地点に、水柱の魔導具を投げ入れて」


 声を荒げて早口に捲し立てた後、水柱発動の準備を始める。


 俺の意図を察したマリーが風魔法で瞬時に魔導具を移動させる。姉さんには直接攻撃をしていない。防御に参加もしていない。魔導具を魔法で移動させるくらいならルールの範囲内と見ていいだろう。


「水柱」


 魔導具周囲の地面から、上空に向かって間欠泉のように勢い良く水が噴き上がる。


「球根」


 噴水開始と同時に姉さんが活動を再開する。


 姉さんの左脚から植物の根が伸び、その先端が真っ先に水柱に触れる。


 ゴクリ。


 水に触れた根っこは、音を立ててその水を呑み込み始める。次々と噴出して来る水柱を片っ端から飲み込んでいく。


 水を得た植物はその枝根を伸ばして絡まり合いながら、丸まったままの姉さんを包み込む。その途中で土壁に触れた枝根は、ついに水以外の栄養分を得たと喜んでいるかのように活動を活性化させ、あっという間に土壁を食い破っていった。


 完全に球状になった球根は、水柱の頂点でクルクルと回り始める。曲芸のように絶妙なバランスを保って落下しない。しかしあの中にずっと居るのは遠慮したい。絶対に酔いそうだ。いや、自動治癒がある俺なら酔いもしないのかな。


 さて、あの球根。あのまま放っておけば時間切れでこちらの負けになる。どうやって攻撃しよう。水の力を吸収している球根に火魔法は効果が薄そうだ。金か、風か、雷か。


 水柱の魔力が尽きるまで落ちて来そうにない球根から目線を切り、俺は近くの地面に落下していた落雷の魔導具を回収しに向かった。




 マリーが落雷の魔導具に魔力を補充している間に水柱が消え、球根は地面にぽんっと柔らかく落下した。根が水柱を吸収していたからか、通常時より水柱は早く消滅したようだ。


 草木魔法を解除して球根の中から出てきた姉さんは、足元をふらつかせながらも笑っていた。


 あの状況でも楽しめる姉さんはちょっと不気味だな。


 私なら無理ですね、とマリーがボソッと漏らす。馬車で乗り物酔いをするマリーは絶対に無理だね。


 ふらついている姉さんを見ても、母さんはまだ試合を止めない。攻撃は当たっていないから続けなさいと、母さんが視線で合図を送って来る。


 それならばと、俺はマリーの下から真っ直ぐ姉さんに向かって走り出した。


 走りながらリュックから魔導具の剣を取り出す。木製の剣だから鋭く斬れる事はないが、当たれば痛いでは済まない。勿論草木魔法を仕込んである。


 これまでの試合の中で何度か接近戦を挑んだ事はあるが、尽く失敗して来た。しかし今のふらつく姉さんならば。


 こちらの動きを確認した姉さんが左半身で構えを取るが、酔いはまだ改善していない。ブルブルと頭を振ってふらつきを抑えようと試みている。


 よし、いくぞ。


「風弾」


 俺は言霊を唱えると共に横っ飛びに曲がって射線を開け、次に備えて詠い始める。


 マリーの足元に残して来た魔導具から、5つの小さな弾丸が発射される。


 見えない弾丸が風切音を生みながら俺の横を通過する。


 接近戦を挑むと見せかけての風魔法。でも姉さんは冷静に金属魔法でそれを防ぐはず。だから、


「業火」


 追撃として特大の火の玉を放つ。金属の盾を溶かす火球を受ける為、姉さんは金行を止めて水か土の魔法を使用する。そこへどちらにも有利な草木魔法で追い討ちをかける。


 正直それでも姉さんは対応して来ると思う。木を防ぐには火か金。でもそれ以上先は考えられない。将棋やチェスのようにずっと先まで読み切る事は俺には難しい。


 おそらくそろそろタイムアップ。次の草木魔法で仕留める。その先は無い。


 そんな気合いを込めて、俺はもう1度足を動かした。


 前を走る業火の影に隠れるように、姉さんに接近を試みる。


 さあどうする。姉さんはどんな動きをして来る?

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