第18話 俺は再び雷を落とす
上空の魔導具から放たれた3本の落雷が、ほぼ同時に地上の姉さんに向けて降り注いだ。
姉さんの姿は落雷の着弾によって発生した土煙で確認出来ない。
溜め込んだ魔力を放出して落下して来た落雷の魔導具を拾い集めつつ、審判を務める母さんに視線を送る。
母さんは、まだ試合を止める気は無いようだ。という事は、姉さんには当たらずに防ぎ切ったという事か。
俺はマリーの元に駆け寄り、3つの魔導具を渡して魔力補充を依頼した。
「土煙で見えないからって何もしないのは時間の無駄ですよ。ゲオルグ様は攻撃側なんですから次々と仕掛けないと」
受け取った魔導具に手早く魔力を込めながら、マリーは口も動かす。
俺に助言してると、反則負けになるかもよ。姉さんがまだ動かない事を視界の端で確認しつつ、マリーに注意する。
「この円から足を出してはいけないとは言われましたが、口を出すなとは言われていませんので。はい、終わりました。もう一度、いってらっしゃい」
母さんは何も言わない。
マリーの考えは屁理屈にも聞こえるが、それで問題無いらしい。
「突風」
俺は風魔法の魔導具を起動させて風を吹かせる。
強力な風が停滞していた土埃を吹き飛ばし、姉さんの姿を。
いや、なんだあれは。土の、ドーム?
土埃の先には姉さんの姿は無く、地面と同じ色をしたドーム状の構造物が出現していた。
盾を作って落雷を防いだんじゃなかったのか。
遠目から見てもそれほど大きくないドームだが、子供が屈めば十分中に潜む事が出来るサイズだ。
姉さんはあの中に立て籠もっているのか?
どうする?ドームを攻撃するか?
いや、姉さんがあの狭さの中でじっと息を潜めているとは考えられないが。
「金杭」
リュックから魔導具を1つ取り出して言霊を発する。土中から出現した金杭が斜めにドームを突き抜けた。
なんとなく怖いから念の為に攻撃してみたけど、まさか姉さんを貫いてないよね?大丈夫だよね?
「荊棘、蹴り!」「ゲオルグ様、上!」
くそっ!
2人の声に反応して無理矢理体を右横に倒す。
地面に転がっての回避を選択したところに、上空から凄い勢いで姉さんが降って来た。
ズドンと腹に響く重低音が発生する。
「ふふふ、さすがゲオルグ、よく避けたね」
左脚から長く伸びた木製の鋭い棘を地面に突き刺し、その上に片足立ちしている姉さんが俺を褒め称えた。
いやいや、笑ってる場合じゃない。貫かれたら死ぬやつだぞ。
「ゲオルグも金杭で土盾を突き破ったんだからおあいこでしょ。それに、本当に当たりそうになったらちゃんと解除するから」
姉さんはそう言うと、器用に左手でパチンと指を鳴らす。
すると地面に刺さっていた荊棘が瞬時に燃え上がり、灰となって消え失せた。
足場が無くなっても動揺することなくふわりと着地した姉さんの左腕には、炎が激しく渦巻いている。木行の力を取り込んで火行を強化したんだな。
しかしこれは、前回戦った時と五行の場所が違う?
ニヤリと笑った姉さんが、戸惑っている俺に向けて力を溜め込んだ左拳を突き出し、唇を動かし始める。
やばい、来るっ。
「業火」
左腕に渦巻く炎が拳の先で大きな球状に纏まり、こちらに向かって射出された。
「水柱」「土壁」
リュックから防御用の魔導具を取り出しては前方に投げ、2つの言霊で2つの魔導具を起動させる。
本来ならばそれぞれ単独でも業火を防ぎ切る力は有るんだけど、木行の力を取り込んだ業火は何かやばい気がするから二重の防壁だ。
音を立てて業火が水柱に直撃する。
俺と水柱との間にある土壁によってその様子を見る事が出来ないが、熱いものと冷たいものがぶつかって発生する音がしっかりと耳に届いている。おそらく、業火が目の前の水を瞬時に沸騰させながら、次々と壁を溶かし始めている。
まあこの水柱で業火の力は削られ、土壁で完全に防げるだろう。
その間に次の攻撃準備を。
「荊棘、蹴り!」
うおっ!
再び上空から姉さんの声が。
咄嗟に後方へ飛び退き、何も起こらないのを確認して上空へと視線を上げる。
「ははは、引っかかったー」
そこにはかなり高所にある土壁の縁に腰掛け、両足をプラプラと振りながらこちらを見下ろして来る姉さんがいた。
「大技を防いだからって油断し過ぎだよ」
ちっ。
恥ずかしい。姉さんが毎回攻撃前に声を掛けて来るものだから、簡単に釣られてしまった。
ドンッ。
その時、水柱を通過した業火が土壁に衝突した。
業火が堅い土壁に当たって炸裂した衝撃で、ぐらりと揺れた土壁から姉さんが振り落とされる。
いまだ!
「吹き荒れる、風の力を、纏め上げ。圧して固め、敵射ち落とせ」
「風弾」
自由落下中の姉さんに向けて風魔法を放つ。1発ではなく、続いて4発の風弾を射出した。使い終わった魔導具をマリーの下へと放り投げながら。
「金盾」
姉さんの右腕から現れた金属製の盾がベコベコと凹みながらも風弾を弾き飛ばす。
金属にはこっちだ。
「轟音と、白き光を、持つ雲よ。身に蓄えし、力を落とせ」
マリーに力を与えられた魔導具達が再び動き始める。
「落雷」
次こそは仕留めると意気込んで、3つの魔導具は上空へと飛び上がって行った。




