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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第9章
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第17話 俺は競技場で試合をする

「無人の競技場ってなんか寂しいね。しーんとしちゃってさ」


 早朝勤務のギルド職員のお姉さんに案内されて競技場内に入場すると、ぐるっと周りを見渡した姉さんが哀しげに言葉を漏らした。


「普段なら早朝から何人かの冒険者がここで訓練をなさっていて活気ある声が聞こえて来るのですが、今日はフリーグ男爵家の貸切ですからね。それでは男爵様、1時間後の貸切終了時刻にまた参ります。それまでごゆっくり」


 父さんに向かって丁寧に頭を下げたお姉さんが、父さんの頭の上に向かって小さく手を振った後、くるりと踵を返す。


 案内ありがとうとお姉さんに返答した父さんは、今度は俺と姉さんに向かって口を開いた。


「ギルドに無理を言って貸し切ったんだ。この時間訓練出来ない冒険者達の分まで、有意義にこの場所を使うように。いいな?」


「はい」「わかった」「カエデもっ」


 俺と姉さんの返事に混ざって、父さんに肩車されているカエデも元気に言葉を返す。


「じゃあカエデはあっちの方で父さんと遊ぼうな。お姉ちゃんとお兄ちゃんの邪魔をしないように」


「やー。カエデも姉様と兄様とひろいおにわであそぶのー」


 どうやらカエデはこの広い競技場が気に入ったようだ。連れて来るのは初めてだっけ?


 燥ぐカエデとは対照的に、サクラは俺達と離れたところでマリーと一緒に空を見上げている。


 その視線の先では以前ロミルダが育てた街路樹の枝葉が秋風に吹かれて優雅に靡いていた。


 大きいよなぁ。あれでもまだ成長を続けているというから驚きだ。


 天井が無く吹き抜けになっている競技場の観客席に、街路樹は大きな木陰を作ってくれている。その木陰のお陰で街路樹の幹付近にある観客席は人気席。ちょっとだけ割高になっている。その差額の金は街路樹の保全に使われているらしいが、本当だろうか。


「ゲオルグ、余所見してないで準備をしなさい。アリーはいつでもいいそうよ」


 今回の審判を買って出た母さんから注意を受ける。


 準備といっても、こちらは背中のリュックから魔導具を取り出すだけだから、俺もいつでも大丈夫だ。


「そう、じゃあ始めましょうか。アリー。クロエが持っているお弁当は貴女達の試合が終わった後よ。こっちにいらっしゃい」


「はい、母様」


 クロエさんが持つお弁当に狙いを定めていた姉さんだったが、摘み食いは未然に終わったようだ。


 因みに姉さんの着替えや学校に持って行く物なんかも競技場に持って来ている。試合が終わった後にここで朝食を食べ、シャワー室を借りて、姉さんとクロエさんはそのまま学校へ行く予定になっている。


「試合時間は昨日と一緒で3分。攻撃側はゲオルグ、防御側はアリーね」


「はい!新しい規則を提案します!」


 姉さんが元気良く右手を上げて主張する。


「何かしら?」


「魔導具の魔力が切れたらゲオルグが不利になるから、途中でマリーが魔力を補充する事を許可したいと思います!」


「あら?それだとアリーの不利になるけど、良いのかしら?」


「うん、大丈夫。だからゲオルグ、3分間ずっと落雷でも良いよ。全部防ぐから」


 自信満々に完封宣言する姉さんがどこかカッコいい。


 まあ姉さんがそれで良いなら良いけど、全部落雷で攻撃するとは限らないよ?


「ふっふっふ。なんでも良いから、どーんと来なさい」


 じゃあ、それで。


「ならマリーはゲオルグの側に待機しておいてもらいましょう。ただし、アリーはマリーに攻撃したら反則負け。ゲオルグもマリーに攻撃させたり防御させたりしたら反則負けよ」


「はい」「わかった」


 姉さんの提案が受け入れられ、マリーが俺の隣にやって来る。サクラはカエデと一緒に父さんの近くで観戦だ。


「魔力切れの魔導具は私が拾いに行っても構いませんか?」


 念の為にとマリーが母さんにルール確認を行う。


「そうね。あまり動き回っても邪魔になるだけだから、マリーの活動範囲を決めましょうか」


 母さんが簡単な土魔法を使い、マリーの周囲直径1メートルの地面を10センチ程盛り上げる。


「この円の中がマリーの陣地にしましょう。この円から足を出したらゲオルグの負けね」


「畏まりました。ではゲオルグ様、魔力を補充して欲しい時は近くまで来て手渡しするか、こちらに放り投げてください」


 うん。でも試合中に魔力補充なんてした事無いから、言霊を使うタイミングを考えないとな。マリーが魔導具を持っている間に言霊を発動させて、誤ってマリーを攻撃しないように気を付けないと。


「ゲオルグ、他に何かある?」


 あー、うん。多分大丈夫。


 マリー、魔力を注ぎ終えたら合図して。合言葉は。


「では、両者位置について。始め!」


 母さんの合図と共にリュックから3つの魔導具を取り出し、詠い始める。


「轟音と、白き光を、持つ雲よ。身に蓄えし、力を落とせ」


「相反す、五つの力、身に纏い。反するものから、我が身を守れ」


 同時に姉さんも詠うが、それで間に合うのか?


 詠いと同時に3つの魔導具を上空に飛び上がって行く。


「変身」


「落雷」


 言霊を発すると共に、魔導具が雷を生み始める。


「土盾」


 俺よりも若干早く言霊を言い終えた姉さんが、即座に次の行動に移った。詠わずに、言霊を展開する。詠いを飛ばす事で発動速度が上がるが、その力はしっかり詠った時よりも劣る。前回はそれで失敗したのに、今回も同じじゃないか。


 一瞬の溜めを作った後、上空から音と光を伴った3本の攻撃が姉さんの頭部に直撃した。

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